第572話
「良いか。遠くまで連れてくなよ」
結局、クーは子供達に捕まってしまう。
ジークは村の外に連れて行かないように注意すると子供達からは元気の良い返事があるが子供が相手のため、どこまで信用していいのかわからない。
「ジーク、こっちは良いから、あっちを頼むわ。薬も持ってきたんでしょ」
「わかった。こっちは任せる。変なことして俺の仕事を増やすなよ」
「わかってるわよ」
物資運びは村の大人達が協力してくれ始めたため、フィーナはジークに村の年寄達の様子を見て欲しいと言う。
ジークは先に下ろした物資から薬類を取り出すとフィーナにケガをしないように釘を刺した後。空の下で簡単な診療を開始する。
「どうかしましたか?」
「似ているなと思いまして、雰囲気とか仕草が」
「似ている? 誰にですか?」
ジークの診察の様子をウィンは覗き込んでおり、気になったジークは首を傾げて聞く。
ウィンはジークの様子が誰かと重なるようであり、優しげな笑みを浮かべるがジークは誰の事を言っているか予想が付かないようで首を捻った。
「トリス=フィリス、ルミナ=フィリス。ジークくんのご両親ですよね?」
「……そんな人間は知りません。俺には家族はもう1人もいませんから」
ウィンはジークの両親と面識があるようで2人の名前を出すが、その名前を聞き、ジークの表情は不機嫌なものに変わって行く。
「違いましたか?」
「違います」
「あ、あの。ウィンさん、ちょっと良いですか?」
ウィンはジークの様子に首を傾げるが、ジークは他人だと言いたいようで並んでいる年寄の診察に集中しようとする。
ノエルはジークの手伝いをしようと思って近づいてきていたようで2人の会話を聞いてしまい、ウィンの腕を引っ張って行く。
「どうかしましたか?」
「あ、あの、ジークさんはご両親の事が……」
「上手く行っていないんですか?」
ウィンはノエルが自分の腕を引っ張った理由がわからずに首を捻る。
ノエルは言い難そうにジークが両親との事を話そうとするとウィンは彼女の様子からジークと両親の関係を察したようで眉間にしわを寄せた。
「上手く行っていないと言うか……ジークさんはご両親と会った事が無いそうなんです。おばあさんと一緒に暮らしていたんですけど、1度も帰ってきた事が無いそうです」
「そうなんですか? それは悪い事を言ってしまいましたね……と言う事はジークくんはご両親の事を何も知らないと言う事でしょうか?」
「そうですね」
ノエルは表情を曇らせてジークと両親が疎遠の事を話す。
ウィンは困ったように笑うとジークは両親がどんな事をしてきたかも知らないと思ったようであり、ノエルは寂しそうに笑った。
「それは少し寂しいですね。彼らにどれだけ多くの人達が助けられたか、彼らが居なければどれだけ多くの命が失われていたかも知らないなんて」
「そうかも知れませんね。ただ……あ、あの」
「やはり、後で少し話しましょう。まだ、全てを受け入れるのは難しいでしょうけど、きっとどこかで理解できる時が来るでしょうし」
子供から理解されないのは悲しい事だと笑うウィン。
ノエルは頷くものの、ジークの味方をしたいようでウィンに何も言わないで欲しいと言おうとするが、ウィンはトリスやルミナの考えを知る事でジークの誤解が解けるのではないかと言う。
「ジーク、ここの村長さん、おじさんとおばさんの事、知ってたみたいね」
「だから、どうした?」
「別にただ、おじさんとおばさんの事は置いておいて、しっかりと仕事しなさいよ。みんなが怖がってるわよ。それに冷静にならないと間違った診察しても困るでしょ」
物資を下ろし終えたフィーナはジークの背後から彼の診察を覗き込むとウィンとの会話が聞こえていたようで話を振る。
ジークの機嫌はまだ直っていないようであり、不機嫌そうな口調で返すとフィーナはため息を吐いてジークの表情が怖いと言う。
「……申し訳ありません」
「ジーク、私に手伝える事ってある?」
「いや、お前は不器用だから、ケガとか増やされると困るから要らない。子供達と遊んでてくれ」
フィーナに言われてジークは両頬を手で叩くと診察していた人に頭を下げる。
村人達は気にする必要はないと笑ってくれ、ジークは釣られるように表情を緩ませた。
フィーナはその様子に表情を小さく緩ませるとジークに手伝いを申し出るがジークは迷う事無く、彼女の提案を却下する。
「ジーク、あんたね。せっかく、私が手伝うって言ってるのよ?」
「クー」
「お帰り。クー」
ジークの言葉にフィーナのこめかみに青筋が浮かんだ時、子供達に玩具にされていたのが耐え切れなくなったクーが逃げ帰ってきてジークの頭の上に降りる。
子供達はまだクーと遊びたいようでわらわらと集まり始め、診察の邪魔になって行く。
「診察にならないわね」
「……どうにかしてくれ。診察ができない」
「クー」
シギルもジオスと同様に医者は駐留していないようで診察を受けたい村人達は増えているのだが、子供達が邪魔してしまい診察は進まない。
ジークとフィーナは眉間にしわを寄せるがもう子供達に遊ばれたくないクーは絶対にジークの頭の上から放れる気は無いようであり、そっぽを向いている。
「はいはい。遊びの時間は終わりです。遊んだ後は勉強の時間ですよ。ジークくん達を困らせてはいけません」
「やっぱり、遊んでたいわよね。勉強は面白くないし」
「お前も勉強嫌いだから気持ちがわかるんだな」
その時、子供達の様子を見たウィンがぱんぱんと手を叩くと子供達の動きが止まる。
彼は勉強の時間だと言うと子供達は一気に逃げ出してしまい、その様子にフィーナは苦笑いを浮かべた。
ジークは苦笑いを浮かべると子供達が引けたため、診察に戻ろうとする。
「別に私は身体を動かす方が向いてるんだから仕方ないでしょ。だいたい、あんただって薬の調合以外あんまり好きじゃなかったでしょ」
「否定はしないけど、店の事をやらないと行けなかったからな」
フィーナは頬を膨らませるがお互い様だと言い、ジークは自分達が子供の頃の事を思い出したようでポリポリと首筋をかく。
いつも閲覧ありがとうございます。
今週から、仕事の方が忙しくなり、毎日更新が難しくなると思います。
現在、『私がボクになった理由』と言う作品も同時に書いていますので交互に更新と言う形になると思います。
以上の事、ご理解いただければ幸いです。