第571話
「到着ね」
「ノエルさん、大丈夫ですか?」
翌日、早朝からカインが冒険者の店で借りた馬車でフィアナの村まで向かう。
距離はさほど離れていなく、お昼を過ぎたころには彼女の出身村である『シギル』に到着する。
馬車移動だったため、ノエルの顔は真っ青であり、フィアナは心配そうに彼女の顔を覗き込んだ。
「だ、大丈夫です」
「……なるほど、確かに土は乾燥してきてるね」
ノエルはふらふらと馬車を降り、カインは馬車を降りると地面の土の様子を見ている。
「フィアナ、冒険者の店ってどこだ?」
「す、すいません。田舎なのでありません。村長さんの家にお願いしましょう」
「村長か? 元冒険者って言ってたよな。ノエル、カイン、乗れ。行くぞ」
ジークはノエル様子に苦笑いを浮かべるが、馬車を止める場所を探す。
フィアナは申し訳なさそうに謝ると村長の家へと案内すると言う。
ジークは頷き、降りてしまった2人に再度、馬車に乗るように声をかけた。
ノエルの顔は涙目になるが、フィーナは苦笑いを浮かべると彼女の手を引き、馬車に乗せてカインは彼女に続いて馬車に乗り込む。
「規模としてはジオスより、大きいんでしょうか? 子供達も多いですし」
「悪かったですね。過疎ってて」
村長の家に向かう中、馬車が珍しいのか村の子供達が近づいてくる。
その様子にセスは問題を抱えて居てもジオスより、活気があると思ったようであるがジークは面白くないのか口を尖らせた。
「フィアナ?」
「村長、ただいま帰りました」
しばらく馬車で移動する少し大きめな家があり、その近くには1人の老人が立っている。
老人は馬車にフィアナが乗っている事に気づくと彼女は馬車から老人に向かい手を振った。
「初めまして、シギルの村長をさせていただいている。『ウィン=ルーダ』と言います」
馬車から降りて村長への挨拶を済ませるとその間に馬車を見た子供達が村長の家に集まり始めており、ノエル、フィーナ、フィアナの3人は子供達の相手に忙しそうにしている。
「子供は元気だな」
「そうだね。村長さん、フィアナからおおよその話は聞いていますが詳しい話を教えていただけますか? 協力できる事もあると思いますから、ジークは持ってきた物資を配って、フィアナ、忘れないで転移魔法の登録」
「は、はい。わかりました」
子供達の様子に苦笑いを浮かべるジーク。
カインはセスとともにウィンと話をしたいようでその間にしておいて欲しい事を伝えるとウィンと一緒に屋敷の中に入ってしまう。
「フィーナ、手伝ってくれ」
「無理よ。この状況を見てわからない?」
「いや、わかるけど……1人でやるのは重労働だぞ」
ジークは1人で荷物を下ろすのは大変のため、フィーナに協力を仰ぐがフィーナは完全に子供達に囲まれており、無理だと返事がある。
馬車の荷台にはかなりの物資が詰め込まれており、ジークは面倒だと頭をかいた。
「フィアナ。これ下ろすのに手伝ってくれる人達はいないか?」
「は、はい。待ってください」
ジークは村人に協力を仰ごうと考えてフィアナに話を振る。
フィアナは頷き、子供達に親を連れてきて欲しいと頼むと子供達はフィアナのお願いを聞き、一時的に解散して行く。
「……疲れました」
「申し訳ありません」
「まぁ、子供はどこも一緒だな……クーを連れてこなくて良かったな」
子供達が居なくなったことでノエルとフィーナは大きく肩を落とすとフィアナは申し訳ないと頭を下げる。
ジークは疲れ果てている3人の姿に苦笑いを浮かべるとフォルムにクーを置いてきて良かったと言う。
「そうね。連れてきてたら、確実に玩具になってるわ」
「玩具になるだけならまだしも、カルディナ様のようにクーは自分のものだと主張してきそうだからな」
「クー?」
ジークとフィーナは運んできた物資を下ろしながらクーが居たら大変な事になっていたと苦笑いを浮かべていたが、そんな中、運んでき物資の中からクーが顔を覗かせる。
「クー? なんで……ノエル?」
「す、すいません。クーちゃんが一緒に行きたそうな顔をしてたんです。あんな目で訴えられたら、わたしは断れません」
予想していなかったクーの登場に首を捻るジークだが、誰がクーを連れてきたかすぐに予想が付いたようでノエルへと視線を向けた。
ノエルは深々と頭を下げて謝るなか、クーは馬車の中に飽きたのかパタパタと羽を動かしてお気に入りのジークの頭の上に移動する。
「……付いてきた事は仕方ないか? セスさんが戻る時に連れて帰って貰おう」
「そうね。それより、早く片付けちゃいましょう。子供達にクーが見つかると絶対に大変よ」
「本当に大変だろうな……見つからないと良かったな」
クーが見つからないうちに作業を進めたいジーク達だが、家の近い子供達はすでに親を連れて戻ってきており、ジークの頭の上に居るクーを見て目を輝かせ始めている。
その様子にジークは大きく肩を落とすが、子供達はジークの足元に群がり、クーを貸して欲しいとジークの足にまとわりつく。
両親が付いてきていたためか、子供達は両親に怒られ何とか静かになった。
しかし、子供達はクーがドラゴンとはわかっていないようだがジークの頭の上のクーを狙っているようで子供達同士で何か話し込んでいる。
「……イヤな予感がするわね」
「クーには何があるんだろうな」
子供達の好奇心にフィーナはノエルやカルディナ、セスがクー相手に暴走した時の事を思い出したようで大きく肩を落とす。
ジークはそこまでイヤな予感はしていないようだが、子供達の視線が痛いようで目を合わせないようにしている。
「クーちゃん? なぜ、ここに居るんですか?」
「ノエルが連れてきたんですよ」
「仕方ないね。セス、フォルムに帰る時にクーを連れて帰ってくれ。ジーク、俺とセスは少し村の様子を見てくるから、ここの事を頼むよ」
その時、ウィンと話を終えたようでカインとセスが戻ってくる。
セスはジークの頭の上にいるクーを見て驚きの声を上げるとジークはため息を吐き、ノエルは申し訳なさそうに身を縮めた。
カインはノエルの姿に苦笑いを浮かべると少し村の様子を見てくると言い、セスと一緒に行ってしまう。