第570話
「と言う事なんだ。それでフィアナに転移魔法を教えてくれないか?」
「ワームの街の近くの村がね。それでジークとノエルは彼女の手伝いをしたいと」
「は、はい。それですいませんけど、少しお時間をいただきたいんですけど」
バーニアから巨大モグラの毛皮の代金を受け取るとフィアナを連れてフォルムに戻った。
カインとセスにルッケルで起きた事とフィアナの村の事を話すとカインは難し表情をしている。
その様子にフィアナは表情をこわばらせており、ノエルはカインから許可が欲しいため、不安そうな表情をするとカインは小さくため息を吐いた。
「良いよ。転移魔法を教えるよ。ダメと言ってもジークもノエルも手伝いに行っちゃうだろうしね。それにいろいろと物資が不足してるなら、こっちの領分にもなるからね」
「こっちの領分とはどういう事でしょうか?」
「フィアナさんの村と行き来ができるなら、フォルムから必要な物資を買って貰えば良いと言う事です。資金はジーク達がしっかりと稼いできたみたいですし、ガートランド商会が幅を利かせ始めたワームでは物資がかなり高騰しているでしょうし、フォルムからなら値段をかなり抑える事が出来ます。フォルムで賄えないものはジオスやルッケルから譲って貰いましょう」
カインは仕方ないと言いたげに苦笑いを浮かべると何か考えがあるようである。
彼の言い方にレインは何か感じたようで首を傾げるとカインの言いたかった事をセスが補う。
「値段を抑えるってただじゃダメなの?」
「ダメ。問題解決にも協力はするけどね。それをするのはちょっと違う。とりあえず、フィアナには転移魔法を教えるけど、フィアナの村に行く時は俺かセスが同行した方が良いね」
「そうですね。流石に領主が長々と領地を空けるわけには行きませんから私が同行します。それにそちらは私の方がカインより上ですし、フィアナ、よろしいでしょうか?」
フィーナはせこい事を言うなと言うがカインにはカインの考えがあり、彼女の考えを却下する。
彼女の村で何が不足しているかそれを見極める必要があると言う。
セスはカインの考えを理解しており、補足をするとフィアナに確認をする。
「お、お願いします」
「セス、飛びつこうとしない」
目の前で次々と話が決まって行く様子にフィアナは完全に置いて行かれており、頷く事しかできない。
その姿はセスのツボであり、彼女に飛びつこうとするがカインに首根っこを捕まえられてしまう。
「とりあえず、ワームまでは俺もついて行くよ。馬車も融通しないといけないだろうしね」
「馬車? ……歩きにしませんか?」
「ダメ。長い間、セスが居ないのも困るから」
馴染みの冒険者の店で馬車を融通すると言うカイン。
しかし、馬車の苦手なノエルの顔は血の気が一気に引いて行き真っ青になって行く。
彼女は弱々しい声で徒歩での移動を提案するがカインはセスが居ないとフォルムの領地運営が回らなくなるため、ノエルの意見を却下する。
「別に今回はセスさんに転移魔法の登録しに行くだけでしょ? それなら、今回、ノエルは休みって事にすれば良いんじゃない?」
「確かにそれはありますね。ジークとセスさん、フィアナ、両手に花ですね」
「ミレットさん、おかしな事を言わないでください」
フィーナはノエルがフィアナの村に顔を出す理由がないため、ノエルに行かなければ良いと言う。
彼女の提案は確かに的を射ており、ミレットは賛成意見を出すがジークをからかう事は忘れない。
「でも、ジークさんが来てくれるなら川の上流の調査はしておきたいです。なるべく、村の人達の不安の原因を早く取り除きたいですし」
「川の流れがどうにかなれば、水だけはどうにかできるから買う物も少なくなるしな」
フィアナはジークが来た時に一気に決着をつけたいようであり、ジークも村の事を考えると飲み水くらいは早くどうにかしたいと言う。
「そうですね。民が不安に思っているなら、調査は早くするべきです」
「そうなると人選は考えないといけないね」
「人選、あ、あの」
レインも村の人達が心配のようであり、大きく頷くとカインはいろいろと考える事があるようで眉間にしわを寄せる。
カインの様子にフィアナは彼が何を考えているのか不安なようで助けを求めるようにジークへと視線を向けた。
「どうした?」
「あの、どうして、そんなに親身になってくれるんでしょうか? 私は昨日、みなさんと出会ったばかりなのに」
「それはジークとノエルがお人好しだから?」
フィアナは会って2日目の自分や会った事のない村人達の事を心配してくれる事に戸惑っているように見える。
そんな彼女の姿にカインはくすくすと笑うと首を捻りながら答えた。
お人好しはジークとノエルだけだと言いたいようである。
「俺とノエルだけかよ? まぁ、実際、ジオスの事を考えると他人事じゃないからな」
「そうね。ジオスはルッケルが近いから、アズさんが支援してくれると思うけど、ルッケルだって大変な時期だし、無理は言えないのよね」
ジークは1度、ため息を吐くがフィアナの村の事は片田舎の村出身のジークとフィーナには他人事ではない。
フィーナはジオスが同じような状況になった時の事を考えたようで頭をかく。
「と言う事で気にしないで良いから、それに俺達はフィアナの村を支援するにはメリットもあるからね」
「こう言っていますけど、カインもお人好しですから気にしないでください。こう言っているのはフィアナに気を使わせないためです」
カインはフィアナに向かい気にする事は無いと笑う。
その様子にミレットはくすくすと笑うとカインの胸の内を言い当ててしまい、カインは気まずいのかポリポリと首筋をかく。
「とりあえずは様子を見ないといけないから、フィアナの村にはジークとノエル、フィーナ、セス、俺も同行する。村の必要な物資の計算を終えたら、セスには転移魔法でフォルムに戻って貰って物資の確保、レイン、ミレットはその時のセスのフォローを任せるよ。それじゃあ、フィアナには転移魔法を覚えて貰おうかな?」
「は、はい。よろしくお願いします」
カインは話を変えようとフィアナに同行するメンバーと残るメンバーに簡単な指示を出す。
全員が頷くのを見るとカインは立ち上がり、フィアナについてくるように言い、フィアナは慌ててカインの後を追いかけて行く。