第569話
「良い皮だな。俺が買い取るよ。値段は話を聞いた時に言った金額に1割増しで買う」
「い、1割増しですか!? は、はい。ありがとうございます」
ジークは巨大モグラの毛皮をカインの研究室に移動しており、レインとフィアナはバーニアを連れて魔術学園に戻ってくると事務局に話は通してあり、カインの研究室に案内される。
巨大モグラの毛皮を見て、バーニアはすぐに良いものだと判断して買い取りを約束した。
フィアナは村への仕送りが増えた事に表情が明るくなったと何度も何度も頭を下げる。
その姿を見てレインとバーニアは顔を見合わせて苦笑いを浮かべた。
「ボったくらないだろうな?」
「そうしてやりたいのは山々なんだけどな。キレイに処置されているから値切れる場所が見つからないんだよ。ったく、こんな事になるなら、この間、野生の獲物の処理の仕方を教えるんじゃなかった」
ジークはバーニアが買い取り価格を誤魔化していないかと疑うような視線を向ける。
その疑いにバーニアは1つため息を吐くと先日、巨大蛇の解体時にジークに手伝わせなければ良かったと言う。
「あ、そうだ。レイン、入り口にカギをかけてくれるか? ライオ王子がここに入らないように」
「……ライオ様、またおかしな事を考えているんですか?」
フィアナをライオに会わせるために行かないため、ジークはレインに研究室を見張るように頼む。
その言葉に眉間にしわを寄せると研究室のドアのカギをかけた。
「あの2人はどうして、あそこまで外出したがるんだろうな?」
「ど、どうしてでしょうね。一先ず、休憩しませんか?」
「せっかくだし、ごちそうになるかな?」
改めて、エルトとライオの行動に肩を落とすジーク。
その時、人数分の紅茶を持ったノエルが現れ、研究室にある休憩用にテーブルに並べだす。
バーニアはのどが渇いていたのかイスに腰を下ろし、彼に続くように全員が席に座る。
「あの、今、ライオ王子って言いませんでしたか?」
「フィアナは気にする必要はない。むしろ、その名前は忘れた方が良い」
「い、いくらなんでもこの国の第2王子の名前を忘れるわけには行かないです」
紅茶を1口飲んだ後、フィアナはジークの口から出たライオの名前に首を捻った。
ジークとしては巻き込まれる人間を増やしたくないため、ライオの名前は忘れた方が良いと首を振るが国民として忘れてはいけない名前であり、フィアナは首を横に振る。
「噂には聞いてるけど、なかなか、灰汁の強い人間みたいじゃないか?」
「灰汁が強いと言うか、無駄に好奇心旺盛と言うか」
バーニアはライオと直接面識はないようだがジークやレインの様子から彼の性格に予想がついたようで苦笑いを浮かべた。
ジークは巻き込まれているものの、ライオ自身を嫌いにもなれないためにポリポリと首筋をかく。
「とりあえず、ライオ王子に会いたくない。もしくは俺かフィアナを会わせたくないって、とこか? でも、帰る時はどうするんだ?」
「一応はフィリム先生が相手をしてくれるって話になってるけどな。後、フィアナ、これ、フィリム先生から」
「は、はい!? ま、待ってください。これはおかしいです。こんなにいただいて良いわけがありません!? な、何か私、危ない事に巻き込まれてるんですか!?」
バーニアはライオが魔術学園に所属している事も知っていたようで帰りはどうするかと聞く。
ライオの身はフィリムが預かってくれているようであり、ジークは苦笑いを浮かべた後、フィリムから預かった麻袋をフィアナの前に置く。
フィアナは麻袋の中を覗き込むと金貨が大量に詰まっており、見た事もない金額に驚きの声を上げる。
しかし、すぐに自分がおかしな事に巻き込まれていないか心配になったようであり、顔を真っ青にして助けを求めるようにノエルに抱き付く。
「お、落ち着いてください。フィアナさん」
「巻き込まれてると言えば、巻き込まれてるな」
「や、やっぱり、そうなんですか!? ど、どうしたら良いんですか!?」
ノエルは彼女を落ち着かせようと声をかける。
ジークはフィアナの村の問題が解決できないのはすでに巻き込まれていると思っているため、眉間にしわを寄せた。
フィアナの顔はさらに血の気が引いて行き、相当な重圧がかかってきているようで身体をがくがくと震わせ始める。
「フィアナさん、落ち着いてください。ジークが言いたいのはフィアナさんの村の問題の事ですから」
「村の問題?」
「悪い。そっちの事だ。フィリム先生が村の問題が解決するまでの一時的なものにでも使えって、フィリム先生はレギアス様とも友人だから、レギアス様が動けない分、フィアナの村を援助したいんじゃないか?」
レインは彼女の様子に落ち着くように言うとまだ湯気の上がっている紅茶を渡す。
手に伝わる温かさにフィアナは少し落ち着いたようであり、顔は青いままで聞き返し、ジークは説明が足りなかった事を謝るとフィリムの考えを推測して話す。
「援助?」
「解決しない事にはこれだけあってもすぐにそこをつくだろうけどな」
援助と聞き、青かった彼女の顔には血の気が戻り始める。
彼女の様子にジークは苦笑いを浮かべた後、すぐに表情を引き締めるとこれはあくまで一時しのぎだと言う。
「わ、わかってます」
「とりあえず、しばらくはルッケルの事はフィリム先生に任せるしかないから、俺達はフィアナの村の手伝いでもするか? 薬とかも足りないだろうしな」
「そうですね」
フィアナは大きく頷くが村の事をどうして良いのか、良い案が浮かばないようで肩を落としてしまう。
その様子にジークはフィアナの村の手伝いに行くと言い、ノエルも彼の意見に賛成のようで大きく頷いた。
「い、良いんですか?」
「ああ、その代り、フィアナにも手伝って欲しい事があるんだけど良いか?」
「は……あの、私、人身売買とかじゃないですよね? 私、売られちゃったりしませんよね?」
ジークはフィアナに転移魔法を覚えて欲しいと伝えようとするが、彼女はあの大量の金貨でどこか不安になっているようで突飛のない事を言い出す。
「いや、俺達もいろいろとやらないといけない事があるから、転移魔法を覚えて貰えないかと思っただけだ」
「そ、そうですか? ま、魔法ならどうにかなると思いますのでよろしくお願いします」
ジークは大きく肩を落とし、転移魔法の事を話すと彼女は安心したようで胸をなで下ろすと改めて、ジークとノエルに向かい頭を下げた。