第566話
「わ、わかりました」
「どうする? 殺すのは忍びないぞ」
ノエルは大きく頷くと治癒魔法の詠唱を始める。
ジークはどうやってこの場所を潜り抜けるか思考を開始するが上手くまとまらないようで舌打ちをする。
「ジーク」
「何ですか? 何かあるなら、手短にお願いします」
「モグラの毛皮は高額で取引されるぞ。これだけ、見事な物なら良い値で売れるはずだ。そして、肉は薬にもなると聞いた事がある。薬に関して言えば、俺は専門外だから本当かはわからんがな」
フィリムはジークを呼ぶとモグラにはいろいろと使いようがあると言う。
その言葉にジークとフィアナの目の色が変わった。
「薬? ……俺は使った事がないから、テッド先生に聞いてみよう。よし。フィアナの村のために一時的かもしれないが金が要るからぶっ殺そう」
「ジークさん、援護します」
「ジーク、フィアナさん? ど、どうしたんですか? フィリム先生、先ほどは何でも殺せば良いものではないと言っていたじゃないですか?」
ジークとフィアナの物欲に目がくらんだ姿にレインは顔を引きつらせ、フィリムにポイズンリザードの時に言っていた事とは違うと聞く。
「さっきも説明しただろ。モグラは大食漢だとこのサイズのものが何匹いるかわからないが、巨大ミミズをエサにしている内は良いがそれを食い尽くしたら、人を襲う可能性もあるぞ。現に俺達はエサと見られているのだからな」
「そ、そうは言っても、切り替え早すぎませんか?」
「物欲、名誉欲、性欲、金欲、知識欲、欲望とはそう言う物だ。それにモグラなどありふれている物は研究するのに値しない」
フィリムはルッケルの人々の生活を守るためには必要不可欠だと言う。
しかし、先ほどポイズンリザードに情けをかけた人の言葉には聞こえず、レインは苦笑いを浮かべる。
実際はフィリムが研究対象として興味が引かなかっただけのようできっぱりと言い切った。
「そ、そうですか?」
「レイン、早くこっちに戻ってこい。アノス、お前もだ」
微妙に納得ができないレイン。
すでに物欲で目を輝かせているジークには巨大モグラは薬の材料にしか見えておらず、邪魔だと言いたいのかレインと治癒魔法で動けるようになったアノスを呼び寄せる。
レイン達が後ろに引いた後は速かった。
こちらに向かってかけてくる巨大モグラだが道は1本しかなく、短い手ではジークの魔導銃から頭を守る事はできない。
出力を上げた魔導銃の銃口から放たれた光は頭部を撃ち抜き、巨大モグラは命令系統をつぶされた事でその動きを止めた。
「良し皮を剥ぐ……フィリム先生、ここだと処理できないんでルッケルへ戻りましょう」
「そうだな。ここにこれ以上、居ても仕方ないか?」
「……た、たくましいですね」
ジークは嬉々として巨大モグラの処置をしようとするが、トンネル内では作業をする場所は確保できない。
ジークの持っている転移の魔導機器は積載量に制限があるため、直ぐにフィリムにルッケルに戻る事を提案する。
フィリム自身もすでに目的は達しているため、直ぐに頷き転移魔法の詠唱を始めるが完全に流れに置いて行かれているレインの顔は引きつっている。
転移魔法は無事に発動し、ジーク達はアズの屋敷の敷地内に到着する。
突然、現れてジーク達と巨大モグラの亡骸に屋敷の兵達はざわつき出す。
その状況に申し訳なさそうな表情をするノエルとレインだがジークは嬉々として巨大モグラの解体作業に移り出した。
「ジーク、な、何があったんですか?」
「アズさん、こいつの皮を高値で買い取ってくれる商人に知り合いっていませんか?」
「いるにはいますけど……違います。こんなところでそんな物を解体しないでください。何を考えているのですか!?」
屋敷の外から聞こえる兵士達の声にアズは様子を見に来るが、巨大モグラの亡骸を解体しているジークの様子に驚きの声を上げた。
しかし、ジークには巨大モグラの亡骸は宝の山にしか見えていないため、顔を血塗れにしながら買い取り先について聞く。
アズはジークの質問に真剣に考え始めるが直ぐに正気に戻り、ジークを咎める。
「……ダメですか?」
「当たり前です。ここは領主の屋敷なんです。血塗れになるのは問題があります」
ジークはアズに咎められた理由がわからずに聞き返すとアズは大きく肩を落とした。
アズの様子にジークは困ったように頭をかくと作業を途中でやめるわけにも行かないため、どうするべきかと考え始める。
「魔術学園に持って行くか? サンプルを持って行かなければ行けないしな」
「了解です。こいつの皮はバーニアに引き取って貰おう。防具とか作れるだろうし、バーニアが買ってくれなくても知り合いの商人を紹介してくれそうだし」
「あ、あの、ジークさん、フィリム先生、もう少し状況を」
フィリムは巨大モグラの亡骸を見上げた後に魔術学園に行く事を提案し、ジークはアズに頼むより、王都の商人の方が高く買い取ってくれると思ったようで大きく頷いた。
マイペースな2人の様子に額に青筋が浮かび始めるアズ。
ノエルは彼女の様子を見て、ジークとフィリムに状況を理解して欲しいと言う。
「ん? そうだな。アズ殿、遺跡の奥で巨大生物に関連しているであろう物を発見したぞ」
「……それも重要ですけど、今はこれをどうにかしてください」
「だから、魔術学園に持って行くと言っているだろう。血は雨が降れば勝手に片付くだろう」
フィリムはノエルの言葉で一先ず、報告だけを済ませるがアズにとっては血だらけになった屋敷の問題もあり、大きく肩を落とす。
アズが肩を落とすがフィリムは特に問題としていないようであり、そのままにしておけと言い切った。
「……もう良いです。ジーク、ノエル、この件に関しては後で何かで返して貰いますからね」
「わ、わかりました。本当に申し訳ありませんでした」
アズは言っても無駄だと判断したようで疲れた様子でジークとノエルに1つ貸しだと言う。
ノエルは本当に申し訳なく思っているようで深々と頭を下げると彼女の言葉に従うと返事をする。