第565話
「……無駄足じゃないか?」
「仕方ないだろ。あれから結構な時間が経ってるんだから、ここを使う人達だっているんだ」
研究員達に後で迎えに来る事を告げるとフィリムの転移魔法でルッケルの街まで移動する。
誘拐犯達が子供達を隠していた山小屋の地下に移動するがすでに山小屋の抜け道は塞がれており、アノスは無駄足を踏まされたと言いたげに舌打ちをしている。
ジークは山小屋を使う猟師達の気持ちを考えれば当然だと言いながらもどうにか奥に進む方法がないかと頭をかくと穴があった場所へと近づき塞がれた場所の様子をうかがう。
「フィアナ、魔法で破壊しろ」
「む、無理です!? 何を言っているんですか!?」
フィリムは躊躇する事無く、フィアナに魔法で埋め立てた場所を破壊しろと言うが、下手をすれば自分達も生き埋めになってしまうため、フィアナは大きく首を横に振る。
「で、ですよね。流石に魔法で破壊するのは危ないですよ」
「ジーク、どんな感じですか?」
「見た感じ、取りあえずの応急処置程度じゃないか? しっかりと埋め立ててはいないみたいだけど」
フィアナが反対した事に胸をなで下ろすノエル。
レインはジークの背後から覗き込み聞くとジークは以前、穴の開いていた場所を叩くと木の板を張り付けただけのようで軽い音が響いており、奥が空洞だと言う事がわかる。
「……壊したら怒られるかな?」
「迷っている時間はない。速くしろ」
「わかりましたよ」
フィアナの魔法で破壊するよりは魔導銃の方が衝撃は少ないと判断したジークは腰のホルダから魔導銃を引き抜く。
せっかく直した山小屋を壊すのは心苦しいようで気が進まないようだが、フィリムは速くするようにとジークを煽る。
ジークはため息を吐くと魔導銃の引鉄を引き、木の板を破壊して割れた個所に手を突っ込み、木の板を剥がす。
奥には誘拐犯達が掘った横穴がつながっており、ノエルはすぐに魔法で横穴内を照らした。
このメンバーで歩くのも慣れてきたようでジークを先頭に進んで行く。
「…この辺りだったよな?」
「そうですね」
しばらく歩くと巨大モグラに遭遇した場所に到着する。
そこはいくつかの横穴があり、ノエルはどこから巨大モグラが襲ってくるかわからないため、不安のようでそわそわとしており、彼女に引きずられるようにフィアナも周囲を見回している。
「そう言えば、巨大モグラがいる場所に連れて来いって言いましたけど、鉱山内を探した方が速かったんじゃないんですか? ここにいるとは限らないですよ。モグラはトンネルを掘って進むって言うし」
「モグラはさほどトンネルを広げない。なかなか重労働らしいからな。だから、目撃されている場所の方が見つけられる可能性は高い」
「そうなんですか? な、何ですか!?」
ジークはモグラが居なかった時はどうするかと聞くとフィリムは考えがあってここまで足を運んだと言う。
ジークは前に巨大モグラが出てきた穴を覗き込んでおり、レインは初めて聞いたモグラの習性に首を傾げていると突然、地響きが聞こえ、こちらに向かって何かがすごい勢いで近づいてくる。
「後、モグラは大食漢でな。唾液には麻酔の効果もあると言う。トンネルはエサを招き入れる罠であり、トンネル内に入った物を」
「せ、説明は良いです!? ジ、ジークさんどうしましょう!?」
「とりあえず、直線上にいると突撃を食らうかわからないから」
フィリムは地響きなど気にする事無く、モグラの説明を続けており、ノエルは慌てふためく。
ジークは覗いていた穴から音が聞こえたようでその直線上から離れるように言い、ノエルの背中を押し、他のメンバーを後ろに下げる。
彼は専門家のフィリムがいる事でモグラと戦うのに的確なアドバイスが出ると思っており、どこか気を抜いているようにも見える。
「ジーク、気を抜きすぎじゃないですか?」
「そうでもないけど、取りあえず、タイミングを狙って」
レインはジークの様子に油断をしないように言う。
ジークは軽い調子ではあったものの気など抜いていないようで巨大モグラが顔を出した時を狙うつもりのようで冷気の魔導銃の出力を上げて構えた。
しばらくして、モグラの鼻先が顔を覗かせるがモグラのトンネルからジーク達は外れているようでキョロキョロと周囲を見回している。
「ひぃ!?」
「安心しろ。モグラの目は退化していてほとんど何も見えない。ジーク」
「はいはい」
巨大モグラとは聞いていたが予想以上に大きかったようでフィアナは小さく悲鳴を上げる。
フィリムは怖がる必要などないと言うとジークに巨大モグラを撃つように言う。
ジークはため息交じりで魔導銃の引鉄を引き、青い光が巨大モグラにまとわりつき、その巨体を凍てつかせて行く。
「これで良いな」
「それじゃあ、帰りましょう」
「大きくなっただけで、ただのモグラだろう。何を恐怖する事があるのだ」
動きを止めた巨大モグラに近づき、血液サンプルを採取するフィリム。
フィアナは巨大モグラが動き出しても困るため、直ぐに戻ろうと主張する。
しかし、ジーク達が戦いたくないと言っている事もあるため、アノスは強気を見せたいのか凍り付いている巨大モグラを蹴り飛ばす。
その時、氷の中で視力を失ったはずの目が動き、アノスを捉えた。
「フィリム先生、アノス、離れろ!!」
「何を言ってる!?」
その目に気が付いたジークは魔導銃を構えると巨大モグラに近づいていた2人に急いでそこから離れるように言う。
アノスは何を言っているかわからないとジークをバカにするように言うが、巨大モグラの巨大な爪は中から氷を砕き、その硬い爪をアノスに向かって振り下ろした。
爪はアノスの騎士鎧を襲い、アノスは爪に弾き飛ばされ、勢いよく横穴の壁に背中を打ち付ける。
「フィリム先生、こちらへ」
「ジ、ジークさん、どうしましょう!?」
「どうするも何もやるしかないだろ? ノエル、アノスに治癒魔法だ」
レインもジークと同じタイミングで巨大モグラの目が動いた事に気が付いていたようでフィリムの腕を引っ張り、引き寄せると彼を守るように立つ。
巨大モグラが動くと思っていなかったノエルは杖を両手で握り締めてジークに指示を仰ぐ、ジークはアノスが動けないと邪魔なため、ノエルに指示を出すとレインとフィリムが撤退できるように魔導銃で巨大モグラを牽制する。
先日、短編で書きました『私がボクになった理由』を連載させました。
作者のページから飛べますのでご一読していただければ幸いです。