第563話
「目的ですか?」
「はい……」
「何か力になれる事があるかも知れませんから、話していただけませんか? 内容によってはエルト様やシュミット様に報告し、援護を頼まなければいけませんし」
イヤな予感を感じ取り、眉間にしわを寄せているジーク。
彼の様子に気づく事無く、ノエルのお人好しなところが出てしまい、フィアナに何があったかを聞き始める。
フィアナは出会って2日目と言う事で話して良いのか悩んでいるようだが、悩んでいる彼女の様子にレインはただ事ではないと思ったようで話して欲しいと言う。
「……」
「どうして、厄介ごとに頭を突っ込もうとするかな? ……ソーマがフィアナをこっちに寄越した本当の理由か?」
アノスはフィアナの事情になど興味が無いようでノエルとレインがバカな事をやっていると言いたげにため息を吐く。
ジークはすでにフィアナの事情に巻き込まれる事が確定してしまったと考えて乱暴に頭をかくと自分がソーマの手の上で踊らされていると思ったようで眉間のしわはさらに深くなっている。
「あ、あの」
「気にしなくて良い。それでお金を稼いで何をするつもりだ?」
フィアナはジークの表情に話をしない方が良いと思ったようであり、言葉を飲み込もうとする。
そんな彼女の様子にジークは苦笑いを浮かべ、自分の事は気にしなくて良いと言う。
フィアナは小さく頷くとぽつぽつと自分の過去の話を始める。
フィアナの住んでいた村はワームから少し離れたところにあり、自給自足に近い生活をしていたらしい。
村を作ったのは引退した冒険者達であり、子供達が自分の意志で将来を決められるようにと村の子供達には様々な事をその冒険者達が教えてくれた。
村のそばには川が流れており、その川の水を飲み水や生活水にしていたのだが、なぜか川の水の水量が一気に減ってしまったとの事だ。
川の水がなくなってしまった事で土地も枯れてきたのか、村の周辺に住んでいた魔物達も餌場や水場を確保しようと動き回っていると言う。
冒険者達は引退して長く経っているため、高齢でもう身体が付いていけないようで調査には行けない事もあり、彼らの教え子である村の子供達も何があるかわからない上流に行くには気後れしてしまっている。
村の警護もあるため、フィアナを含めた4人の子供がレギアスに援助を求めてワームに訪れたのだが、なぜかレギアスには面会ができなかった。
フィアナ達は村の事を考えて一先ずは村へと水を買い送るために冒険者を始めたのだが上手くいかず、困っていたところをソーマに拾われたと言う。
「おかしいな。レギアス様ならすぐに動いてくれそうなんだけど」
「はい。私もそう聞いていたんですけど、ソーマさんが言うにはレギアス様まで話が届いてないのではないかって、それでソーマさんはラース様に話をしてくれると言ってくれて、私をラース様と会わせてくれました」
「邪魔が入っていると言う事ですか? ……心当たりはありますね」
レギアスがそのような状況を放って置くわけないと思ったジークとレインは首を捻った。
しかし、彼の実父であるギムレットが足を引っ張っているであろう事は簡単に予想が付き、2人は顔を見合わせた後に大きく肩を落とす。
「ジークさん、レインさん」
「落ち着け。とりあえず、ソーマとおっさんの事だ。近いうちにレギアス様には伝わるだろう。その時に……と言うか、ソーマが村に行けば良いんじゃないのか?」
すぐにでもフィアナの村を助けたいノエルは懇願するような視線をジークへと向けた。
ジークは頭をかきながら彼女に落ち着くように言うと、冒険者として実力者であるソーマがフィアナの村を助ければ良いのではないかと言う。
「ソーマさんは新米冒険者の育成をしているようですし、難しいと判断したんじゃないでしょうか?」
「だとしても、それを冒険者でもない。俺達に押し付けようとするのはどうかと思うぞ」
「それだけ、ジークが信頼されていると言う事でしょう。まぁ、ラース様やレギアス様とも話をしなければいけないでしょうし、後でワームに行ってみましょう」
ソーマはジーク達がフィアナから話を聞いてしまえば放って置けない事は予想しているはずであり、レインは彼がフィアナを送ってきた理由に納得したようである。
ジークは納得がいかないとため息を吐くが、人の良い彼がフィアナの村の人達を見捨てる事などできるわけもない。
口では文句を言いながらもすでにフィリムの手伝いを終えた後にフィアナの手伝いをすると決めているであろうジークの姿にレインは苦笑いを浮かべた。
「とりあえず、補強は終了だな。このサンプルを王都に戻って調べる必要があるな」
「終わったんですか? ……この溢れている方はどうにかしなくて良いんですか?」
「何を言っている。まだ、調べるべき物はある。これは回収できるものは回収するがどうしようもないなら、お前の魔導銃で凍らせて被害をなるべく抑えるしかないだろう」
その時、魔導機器の応急処置をしていたフィリムが作業を終えたようで小さな瓶に溢れ出た液体を集めている。
ジークは一先ずは護衛の仕事が終わったと安心したようで胸をなで下ろすがフィリムは何も終わっていないと言う。
「何をするんですか?」
「現在、巨大化が見られている生物のサンプル採取だ。一先ずはポイズンリザードの幼体、ミミズはルッケルに戻ればあるだろうが、後は以前、報告があったのはモグラか?」
「モグラを探せって言う事ですか? ……やめませんか? ミミズとポイズンリザードで良いでしょう」
首を捻るノエルにフィリムは察しが悪いと言いたげにため息を吐く。
ジークは1度、巨大モグラに遭遇している事もあり関わり合いになりたくないようで頭をかいた。
「臆病風に吹かれたか?」
「戦わなくて良いなら、戦いたくはないね。俺とノエルは巨大モグラがミミズを食い散らかしているところを見たからな。結構、トラウマになる」
「そうか。一先ずはそこまで連れて行け。巣があるかも知れないからな」
アノスはジークを挑発するように言うが、ジークはため息交じりで誘拐犯達を追いかけていた時に見た巨大モグラの姿を思い出したようで大きく肩を落とす。
フィリムはジークの意見など聞く気は無いようであり、先にポイズンリザードの幼体のサンプルが必要だと思ったようで1人で歩いて行く。