第561話
「回収するには大きすぎるか?」
「回収してどうするつもりですか?」
「……」
フィアナの魔法が有効だった事や魔導銃の出力上昇ため、遠距離攻撃が加わり、石人形との戦闘は一気に有利になった。
ジークは動きを停止した石人形の装甲を見てつぶやく、その姿に呆れ顔のレインだが、アノスは初めての実戦に身体が震えているようで声を発する事はない。
「何って、魔導銃の銃身の予備。壊れると修理が大変なんだよ。ルッケルの鉱山もこんな感じだしな。何かあった時の事は考えておきたい」
「ジークさん、今でもジオスに充分すぎるくらいありますよ」
「……それでも、2回も続けて壊れるとトラウマになるんだ」
念のためと笑うジーク。
その時、後方に控えていた3人が合流する。ノエルは回収しても邪魔になると思っているようで大きく肩を落とす。
しかし、何かあるたびに魔導銃の銃身を破壊していたジークはトラウマになっているのか儚げに笑う。
「い、いろいろと疲れてますね」
「ちょっとな。それより、フィアナ、助かった。新米って言ってたのに凄いじゃないか」
「あ、ありがとうございます」
ジークの姿にフィアナは苦笑いを浮かべた。
若干、気まずくなったのかジークはポリポリと頭をかいた後、フィアナの魔術師としての才能を誉める。
誉められて気恥ずかしくなったのか頬を染めるフィアナにノエルは嫉妬したのか頬を膨らませている。
「……」
「フィ、フィリム先生、何かわかりますか?」
ジークはノエルの様子に気が付いたようで慌てて話をそらそうと先ほどから、部屋に中央にある2つの円柱を覗き込んでいるフィリムに声をかけた。
フィリムは集中しているようでジークの声など耳に届いていないようで難しい表情をしている。
「耳に入っていないみたいですね」
「カインと言い、アーカスさんと言い、どうして研究者って人種はこうなんだろうな」
完全に雑音としてジークの声をシャットアウトしているフィリムの様子にレインは苦笑いを浮かべ、ジークはフィリム以外にもカインやアーカスも集中時には呼びかけても答えない事を思い出して、頭をかく。
フィリムの調査が終わるまでは何もできない事もあり、ジーク達は巨大ミミズなどの襲撃を警戒しながらも休憩に入る事になる。
「……」
「あの、大丈夫ですか?」
アノスは未だに実戦で感じた恐怖に身体は震えており、疲労がピークに達しているのか言葉を発する事はない。
その様子にフィアナは気持ちがわかるようで声をかけるが反応はなく、彼女は助けを求めるようにジーク達へと視線を向けた。
「レイン、任せた」
「わ、私ですか?」
「いや、俺、あいつ、苦手だし、上から目線で言われると凍りつかせたくなる」
レインの肩を叩き、アノスを押し付けようとするジーク。
眉間にしわを寄せるレインだが、ジークが魔導銃を抜く姿にしぶしぶアノスの元に向かう。
「そう言えば、ジークさん、イヤな感じってどうなりましたか?」
「……きっと、気のせいだ。そうに違いない」
「あれ、ジークさん、これって何でしょうか?」
ノエルは2人になったため、嬉しいのかジークの顔を覗き込むとポイズンリザードの地帯を通る前に感じていたジークの悪い予感について聞く。
ジークは眉間にしわを寄せ、何度も悪い予感など当たって欲しくないと言う。
その様子から、まだ、彼の危険感知能力は警笛を鳴らしているのがわかり、ノエルは不安そうに遺跡内を見回す。
その時、ノエルは足元にあるカギのようなものが落ちている事に気づき、拾い上げる。
「カギみたいだな?」
「そうですね」
「どこかにこのカギで開けられる場所があるのか? ……あれか?」
2人は再び、遺跡内を見回すとジークはまだ奥に進めそうなドアを見つける。
2人は顔を見合わせた後、フィリムに話をしようかと思ったようだが、彼は2つの円柱を眺めながらぶつぶつと何かつぶやいており、話しかけるのは気が引けたようでカギを持ったまま、ドアの前へと移動する。
「開けてみますか?」
「覗くだけ、覗いてみるか?」
ドアはカギがかかっており、試しにカギを入れてみるとカギが解除されたようでカチャリと音がする。
ジークの背後に隠れて、意見を求めるノエル。
ジークも中が気になるのか、ドアから奥の気配をうかがった後、安全と判断したのかゆっくりとドアを開けた。
ドアの奥には青く発光した液体の入った円柱が立っている。
円柱にはひびが入っており、ひびから液体が漏れて床にたまっているのが見えた。
「あの青色の液体とフィリム先生が見てる液体。どっちが巨大ミミズの原因だと思う?」
「ど、どうでしょうね。こういう時はフィリム先生に確認した方が良いと思います」
「だ、だよな!?」
ジークは眉間にしわを寄せて、ノエルに意見を求める。
ノエルはその姿にジークがあの液体から危険なものを感じ取っていると察知したようで後ずさりを始めだす。
ジークは顔を引きつらせながら、彼女の言葉に頷き、ドアを閉めようとした時、大きく遺跡内が揺れる。
その地震で青色の液体が入った円柱のひびは広がって行く。
ジークは不味いものを見たと思ったようで慌ててドアを閉める。
「じ、地震です!? ど、どうしたら良いですか!?」
「落ち着け。今まで地震があったに関わらず、ここは設備が倒れたりしているわけではない。かなり地震に強く作られている」
ジークとノエルの様子に気づく事無く、地震に驚き声を上げるフィアナ。
フィリムは地震で集中力が一時的に切れたようであり、声を上げている彼女に黙るように言う。
「と言うか、なんで、こんな場所にこんなものを作ったんだろうな」
「……まったくだ」
ジークは自分達の行動を誰も見ていなかったか確認するように3人へと視線を移す。
その時、アノスと視線が交差するが彼はジークとノエルが他の部屋の様子をうかがっていた事に気が付いていないようである。
「目的があったと考えるべきだろうな。そうでなければ、こんな場所に研究室を作る理由がない」
「誰かから身を隠していたりですか?」
フィリムは研究に必要な事だったのではないかと言うが、ノエルはジオスの遺跡の奥でひっそりと暮らしていた2人の事を思い出して顔を伏せた。