第559話
「ジークさん、あれですか?」
「あれと同じかはわからないけど……あれだな」
ノエルも中を覗き込み、ジークと同じ意見を持ったようで苦笑いを浮かべた。
ジークは魔導銃と石人形を交互に見比べてため息を吐くと魔導銃の出力を調節する。
「ジークはあれが何か知っているんですか?」
「似たようなのと戦った事がある。身体は堅くて剣じゃ、傷1つ付かないかも知れない」
「……ゴーレムか? 残念ながら、私は役には立たないな」
レインは初めて見る石人形の姿にジークとノエルの落ち着き方が気になるようで質問をする。
ジークは石人形の硬さを確認したいようで視界に入った石人形の右足を狙い引き金を引く。
魔導銃の攻撃は石人形にダメージを与える事無く、小さく煙を上げるだけである。
フィリムは石人形をゴーレムと言い、自分では何もできないと判断するとジークの肩を叩いた。
「ゴーレム?」
「魔法で半永久的に動く人形。材料は土や鉱石と言った無機物から、生き物の死体を使ったものもあるが、あれはどうやら前者だな。まぁ、能力や造形は作製者の好みによると言うからな。どんな能力があるかはわからん」
「……ジーク、先ほど、攻撃したのがこちらを見ていますよ」
聞きなれない言葉に首を捻るアノスにフィリムは簡単な説明をする。
ジークが攻撃を仕掛けた石人形はこちらへと身体を向けた。
人の形を模して造られている事もあり、顔と思われる部分には赤く光る宝石のようなものが埋まっており、赤い光がこちらへと照射される。
「あの光って何かありますかね?」
「わからないけど、触れたくはないな。ノエル、魔法は後、どれくらい使えそうだ?」
「そうですね。支援魔法が3回と言ったところです」
赤い光に触れないように身を隠し、フィアナは不安を振り払いたいようで石人形の放つ光について尋ねる。
光自体はさほど速くないため、ジークは支援魔法があれば交わしきれると思っているようでノエルに魔力の残量を聞く。
ノエルはここまで来るのに何度も精霊達の力を借りているため、魔力の残量は残り僅かなようで申し訳なさそうに肩を落とす。
「3回か? フィリム先生、コアって、わかりませんかね?」
「魔力を身体の隅々に通さなければいけないから、一般的には人型ならば心臓の位置が一般的と言われている。しかし、作製者の好みの問題だからな」
「きっと、装甲は1番堅い場所ですよね」
ジークは手持ちの薬からノエルに魔力を回復させる薬を渡す。
フィリムは自分の知識の中から、石人形の弱点の場所を特定しようとするが、それはあくまで予想でしかなく、レインは難しい表情をする。
「あの赤い石を壊せば止まるのではないのか?」
「あれがコアの可能性もないとは言えないけどな……」
「あれが我々の目と同じ役割をしているなら、破壊する事の利点はあるな」
アノスは深く考える事無く、赤い光を照射している宝石を撃ち抜けと言う。
ジークは慎重にするべきだと思っているようで踏ん切りがつかないようだが、フィリムは悪い意見ではないと頷く。
「……爆発とかしないよな?」
「ジークが言うと本当になりそうなのがイヤですね」
遠距離攻撃ができるのはジークの魔導銃とフィアナの魔法ではなるが、経験の不足しているフィアナでは落ち着いて狙えるような状況ではない。
ジークはため息を吐くと中の様子を確認しながら、赤い光がこちらに向かっていないのを確認すると魔導銃を構え、石人形が顔をこちらに向けるタイミングを狙う。
「……」
1体の石人形がジークに気が付き、顔をこちらに向ける。
赤い光がジークの顔に触れようとした時、ジークは魔導銃の引き金を引く。
銃口から放たれた光は石人形が放つ、赤い光を飲み込み、一直線に石人形の顔に埋まっている赤い宝石を撃ち抜いた。
それと同時に石人形は動きを止めたようであり、膝から床に向かって崩れ落ちて行く。
「やりましたね」
「まだだ。ノエル、支援魔法を頼む」
「は、はい」
ノエルは石人形が倒れたのを見て、喜びの声を上げるがジークの視線は鋭いままである。
残りの石人形は音を聞く力がないのか、石人形1体が倒れていても同じように動いている。
ジークは一気に決めてしまおうと思ったようでノエルに支援魔法を頼むと彼女は大きく頷き、魔法の詠唱を始める。
彼女の身体は淡い光を放った後、光はジークを包み込んだ。
ジークは身体に伝わるノエルの魔力に表情を小さく和らげると部屋の中に駆け出し、もう1体の石人形のコアを撃ち抜く。
「最後だ」
「ジーク、位置を考えろ」
最後の1体がこちらへと視線を向けたのを狙いジークが魔導銃の引き金を引こうとした時、フィリムの声が響く。
その声でジークは自分と石人形の間に円柱がある事を思い出す。
ジークは地面を転がり、身体を隠すと再び、石人形のコアを狙える場所を探そうとする。
「ジーク、そこから離れてください!!」
「え? ……コアは別かよ」
その時、ジークへ向かいレインが叫ぶ。
ジークはその声に反応すると先ほど、コアを撃ち抜いたはずの石人形が立ち上がり、ジークに向かい拳を振り下ろそうとしている。
ジークは再び、地面を転がり、その攻撃を交わすと頭が破壊されても立ち上がってくる石人形を見て舌打ちをする。
「フィアナさん、何でも良いです。魔法を使い、体勢を崩させてください。ノエルさんは」
「は、はい。わかりました」
「支援魔法ですね」
レインはジークを助けに行くつもりのようで、ノエルとフィアナに支持を出す。
フィアナは慣れない戦闘ではあるが、このままではジークが危険な事はわかるため、声を震わせながら返事をする。
ノエルはジークから貰った薬を飲み干すとすぐに支援魔法の準備に移った。
「アノス、行きますよ」
「わかっている。俺に命令をするな」
フィアナはジークを追いかけまわしている石人形に向かい、火球を放つ。
火球は石人形にぶつかり、一時的に石人形の動きを止めた。
それを見て、レインはアノスにも声をかけて中へと駆け出す。
アノスは訓練以外では剣をふるった事がないようであり、その腰は引けているがレインの後を追いかける。