第558話
「それって、こいつらがまだ子供って事か? そんな事、あるわけがないだろ」
「……ここには何があると言ったか思い出せ」
「何って、地震の原因……これも同じ原因だって事か?」
目の前にいる巨大なポイズンリザードが子供だと信じられないジークだが、フィリムに言われてこの遺跡の中にミミズを巨大化させた魔導機器がある事を思い出す。
「そう言う事だ。ジオスでも感じた地震でここにあった魔導機器が動き出した可能性が高い。ミミズだけではなく、こんなものまで巨大化させてしまったようだな」
「……なんと言うか、今も昔も意味の分からない魔導機器を使う人間がいるんだな」
フィリムは足元に来た比較的小さなポイズンリザードの首根っこをつかみ、持ち上げるとポイズンリザードは何が起きたかわからないようでバタバタと両手足を動かす。
ジークは生物を巨大化させる魔導機器を作った人間が何を考えていたか理解できないようで大きく肩を落とした。
「意味はあるだろう。食糧が不足して、とりあえず、どうにか出来ないかとかな」
「だとしても、意味がわからない方法で巨大化したものを食いたいと思うか?」
「それでもその時の事情などがあるんだ。飢饉で食料が不足してしまえばな。それにポイズンリザードやモグラが巨大化しているとは言え、食糧に使えたかと考えれ別問題だからな」
フィリムは食糧問題はあくまで1つの推測であり、調べなければいけない事だと言うと持ち上げていたポイズンリザードを下す。
2人の侵入者に目が退化しているとは言え、ポイズンリザード達もようやく気が付いたようで2人へと見えない目を向ける。
それは密閉された空間で生きていたからか敵意より、好奇心に近いものに見える。
「どうするんですか?」
「とりあえずは眠って貰おう。幼体のポイズンリザードは珍しいからな。研究材料に使える。ポイズンリザードの毒の成分を研究できれば解毒方法も確立できるだろう?」
「それはそうですけど……数が多すぎますよ」
ジークは囲まれてしまったため、フィリムに何か考えがあるかと聞く。
フィリムはポイズンリザードを殺す気はないようであり、捕縛すると言うが彼の言葉は現実味がなく、毒は無くても巨大化した相手から逃げ切れるのかと不安なようで動きを止めるために冷気の魔導銃を構える。
「そんなものを構えるな。すぐに終わるからな」
「は、はあ……今から、魔法を使って間に合うのか?」
フィリムはジークに魔導銃を下げさせると魔法の詠唱を始める。
この状況でもまったく慌てていないフィリムの様子にジークはため息を吐くがポイズンリザード達はゆっくりと2人との距離を縮めて行く。
ポイズンリザードが2人のすぐそばまで近づいてきた時、フィリムの魔法の詠唱は終わったようでポイズンリザードを白い靄が包み込む。
「な、何ですか?」
「戦うだけが全てではないだろう」
「……寝てる?」
目の前に広がる白い靄に驚きの声を上げるジーク。
フィリムは終わったと言い、少しすると白い靄が晴れて行く。
靄が晴れると足元のポイズンリザードは動きを止めており、ジークはポイズンリザードが眠っている事に気づき、首を捻る。
「行くぞ」
「は、はい」
フィリムは足元で眠ってしまったポイズンリザードを踏まないようにジークが見たドアへ向かって歩き出す。
ジークは慌てて、追いかけるとフィリムの魔法はしっかりとポイズンリザードに
効果が有ったようでドアの前までは難なく到着する。
「なんか拍子抜けだ……けど」
「どうかしたか?」
ジークはドアの前に到着するとドアに罠がないか確認する。
罠はなかったように思うが、彼の危険感知能力はポイズンリザードが眠りについた今も警笛を鳴らしているようであり、その表情は優れない。
フィリムはジークの様子がおかしい事に気が付いたようだが、すでに興味はドアの向こうに向いており、早くドアを開けるように言う。
「とりあえず、レイン達を呼んできませんか? 中に何か有っても困りますし」
「別に必要がないだろう」
「いや、ここで何かあったらイヤですから」
ジークはフィリムを説得すると後方で控えていたノエル達を呼び寄せる。
ポイズンリザードが幼体で毒を作っていない事を説明しているフィリムの隣でジークは中の気配を伺いながらドアにかかっているカギを開けようとする。
カギはさほど複雑な構造ではなく、しばらくするとカチっと音がし、カギが外れた。
ジークは中を伺うようにゆっくりとドアを開けようとするが、フィリムはジークの背後から勢いよくドアを押す。
「……暗いな」
「そうですね」
「何だ?」
フィリムは部屋の中が確認できないため、舌打ちをするとノエルへと視線で灯りをつけるように命令する。
ノエルは小さく頷き、魔法の詠唱に移るがジークのイヤな予感はさらに大きくなっているようでフィリムの腕を引っ張り、ドアの陰に戻した。
フィリムはジークの行動に文句を言いたげだが、ジークは顔を覗かせ、中の様子を探る。
生物の気配はないように思えるが何かが動いている音がしており、時折、暗闇の中から何かを探しているように赤い光がこちらに向かい照射されている。
「何かいますね」
「そうだな。それも得体が知れないものが」
レインも中の異質さに気が付き、声量を押さえてジークの隣に移動する。
ジークは音を聞きたいようで静かにするように指を口元に寄せるとフィアナは大きく頷き、アノスは得体の知れないものがいると2人が判断した事もあり、何も言わないがその表情は緊張しているのか堅い。
「……あれ、何だろうな」
「フィリム先生、知っていますか?」
「ふむ」
ノエルの魔法が発動し、ドアの向こうを灯りが照らした。
部屋の中心には円柱の物が2つ並んでおり、その1つは破損しているようでそこから緑色の液体が流れ出している。
自分では何か予想もつかないため、フィリムに聞くとフィリムは中へと視線を向けた後、またも中に入って行こうとし、ジークとレインが彼の身体をつかみ、無理やり引き留めた。
「なぜ、邪魔をする?」
「落ち着いてください。何か居ます」
「……あれかよ」
フィリムは不満げに2人を睨み付けるが、レインは2つの円柱以外に何かいると言う。
フィリムを引きもどしたジークは改めて、ドアの奥を確認するとジオスの遺跡の奥で戦った事のある石人形と同じようなものが3体、2つの円柱を警護するように歩き回っている。