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勇者の息子と魔王の娘?  作者: まあ
ルッケル騒動、再び
557/953

第557話

「……帰るか?」


「そ、そうしましょう」


遺跡内はさほど広くなかったようでしばらく歩くと1つの部屋の前にぶつかった。

罠を警戒しながら中を確認すると大小さまざまのポイズンリザードが部屋の中を徘徊している。

大きさとしては以前にジーク達が戦ったものほどの個体はいないようだが、数の多さにジークは危険と判断したようで撤退を提案し、フィアナは大きく頷いた。


「怖じ気ついたか?」


「悪いな。変な意地を張って死にたくないんでね。それより、そっちこそ、進みたいのか腰が引けてるぞ」


「ジーク、ダメです」


アノスは撤退などあり得ないと言いたいのか、ジークを見下すように言うが、彼自身、予想を超えたポイズンリザードの数に顔を引きつらせており、ジークは冷静になれと忠告をする。

その忠告はアノスの無駄に高いプライドを傷つけるのに充分であり、レインは慌ててジークを止めようとするがすでに遅い。


「バカなことを言うな。騎士に撤退の文字などない。怖じ気ついたのは貴様だろう」


「……失敗した」


プライドを傷つけられたアノスはいつでも中に入ってポイズンリザードと戦えると言いたいのかまだ使い込まれていない騎士剣を抜く。

その様子にジークは自分が余計な事を言った事に気が付いたようで眉間にしわを寄せた。


「どうするかな? 変なやる気を出してるけど……フィリム先生、なんか弱点ってないんですか? あいつの血液とか唾液とか面倒なんで」


「そうなんですか?」


「血液や唾液も毒だからな。やる気になってるとこ、悪いけど、正直、邪魔なんだよな。武器がダメになったからって文句を言われても面倒だしな」


ジークは1度、ポイズンリザードと戦っているため、戦い難い事を知っており、生物の専門家であるフィリムに聞く。

フィアナは少しでも生き残る可能性を高めたいようで、ジークに詳しい話を教えて欲しいと言い、ジークはフィーナの剣がぼろぼろになった事を思い出す。


「そうだな。ドラゴン類に分類されるから鱗は堅い。狙うとすれば目や口の中だが、血液に対する対策を取らなければ意味がないな。魔導銃や魔法での遠距離からの攻撃が無難だろう」


「だよな……レイン、あの腕輪って持ってきてるか?」


「ええ、カインが使うかも知れないと言って、持って行くように言いましたから、ただ、自爆魔法が外しきれたかはわからないと言っていました」


フィリムの説明はジーク達が以前にポイズンリザードと対峙した時と変わらない事を示しており、ジークは困ったように頭をかくとアーカスの作った風の力を付加した腕輪の事を思い出す。

レインは懐から腕輪を取り出すが、扱いきれるかわからないようで苦笑いを浮かべた。


「それでも使わないといけないんですよね?」


「そうなるな……アーカスさんの魔導機器もタイミングが良かったのか?」


「ですね」


腕輪の力に頼らなければいけない事は理解できているようでレインは腕輪を付ける。

ジークはまともに戦えるのが自分とレインしかいないと思っているようで頭をかいた後、ホルダから魔導銃を取り出し、レインも騎士剣を抜き構える。


「アノス、あなたはここで3人の警護をお願いします。ノエルさんとフィアナさんは魔法で援護をお願いします」


「待て。何を勝手に決めている?」


「仕方ないだろ。剣は皮が硬くて切れないし、切れたとしても血は毒なんだ。あの血を直接、かぶったら解毒方法なんてないぞ。死にたいなら別だけどな」


レインは指示を出すが、アノスは彼の指示になど従う気はないと睨み付ける。

ジークは状況を理解していないアノスを見て、もう1度、落ち着くように言う。

解毒ができないと聞き、アノスは後ずさってしまう。その様子からも彼が騎士として相応しいとは思えず、ジークはため息を吐いた。


「それじゃあ、行くか? ノエル、支援魔法を頼むぞ」


「はい。わかっています。ジークさん、レインさん、気を付けてください」


「待て」


魔導銃を構え、部屋の中に入ろうとするジーク。

ノエルは彼を助けるように支援魔法の準備に取り掛かろうとした時、フィリムがジークとレインを引き留める。


「奥の部屋には魔導機器のようなものは見えるか?」


「待ってください……目につくような大きなものはないですね。奥に頑丈そうなドアが見えますけど」


「そうか」


フィリムはもう1度、奥を確認させるとジークの視界にはポイズンリザードの背後にドアが見えた。

フィリムはその言葉に頷くと何かを考え始める。


「ジーク、どうします?」


「とりあえず、フィリム先生が何かを考えているなら待つべきなんじゃないか? 一応は専門家だし」


フィリムの様子に突撃を躊躇したレインはジークに意見を聞く。

ジークはフィリムが戦闘以外でポイズンリザードがを無力化する方法があると思ったようでため息を吐くとポイズンリザードの気配を察して、身を守るように方向転換をする。


「ノエル、あの部屋の中を灯りで照らせ」


「良いんですか? 気が付かれませんか?」


「問題ない。ポイズンリザードは元々、視力が退化しているからな。多少、明るくなろうが関係はない。それに部屋の奥を見ておきたいからな」


しばらくするとフィリムは何か考え付いたようでノエルにポイズンリザードが歩き回ってる場所を照らすように言う。

躊躇するノエルだがフィリムは何も心配ないと言い、ノエルは頷くと精霊達に呼びかけ、魔法で灯りをともした。


「……ふむ。どうやら、問題はなさそうだな」


「ちょ、ちょっと、フィリム先生!? ちょっと、待っててくれ」


中を確認したフィリムは突然、ポイズンリザードの歩いている場所に入って行く。

突然の事に意味がわからずに声を上げるジークはノエル達にこの場で待機するように言うと慌てて彼の後を追う。


「フィリム先生、どういう事ですか?」


「ポイズンリザードはふ化してすぐは身体の中では毒を精製する事はできない。また、皮膚も成体より柔らかい」


フィリムに並び、説明を求めるジーク。

ポイズンリザードを幼体だと判断したようであり、身体は大きくても大した障害ではないとフィリムは言い切ると床にあった卵の殻らしき破片を拾い上げる。

 短編をまた書きました『私がボクになった理由』と言う作品です。

 興味がわきましたらご一読ください。

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