第556話
「……何かあったと言われても私は魔術学園には属していなかったのであまり詳しくはありません。ただ、イオリア家はカインの才能を取り組もうと思ったようで遠縁の娘を養女としてカインに嫁がせようとしていたと言う噂を聞いた事があります」
「カインさん相手にですか? ……無理ですよね」
「そうですね。その頃にはセスさんとの間を生温かい目で見られていたでしょうし」
レインは記憶を引っ張り出したようで、カインとイオリア家の間に有った事を話す。
その話にノエル驚きはするもの、カインと言う人間を見てきた彼女には彼が自分の名声のために動く人間ではない事を知っており、苦笑いを浮かべた。
レインはイオリア家と結ぶだけではなく、一途にセスの事を想っていたカインがそんな提案に乗るなどないと思っているようで人を見ようとしないイオリア家の面々の事を考えてため息を吐いた。
「……悪い。ちょっと静かにしてくれるか?」
「何かあったのか?」
その時、視線の先に何かを発見したのかジークは声量を落として後ろに止まるように言う。
フィリムはジークの言葉に視線を前方へと向けるが視線の先には深い闇が続いているだけである。
「……何があるんだ? 何もわかっていないのに止めたわけじゃないだろうな」
「ノエル、風の精霊に頼んで空気の膜を張ってくれるか?」
「わかりました」
アノスは時間を無駄にしたくないようで忌々しいと言いたげだが、ジークは彼の言葉を気にする事無く、ノエルに魔法を頼む。
ノエルはジークが何を考えているかわからないようではあるが、素直に頷くと魔法の詠唱を開始する。
「……毒か?」
「とりあえず、異臭がするから先手を打ってですよ。ここにはポイズンリザードがいたわけですし、古い文献だとポイズンリザードは1匹だけだったって言うけど、何匹もいたらイヤだし」
ノエルに頼んだ魔法から、フィリムはジークが危惧している事を毒だと判断する。
ジークは心配事をつぶして行きたいと言いながらも、すでに彼の無駄な危険感知能力は何かを見つけているようでため息を吐いた。
「ポイズンリザードですか? ……そんな大物相手に私達は無事に済むんでしょうか?」
「……無事に帰れたら良いな」
「あの、その前にポイズンリザードが本当なら、皆さんを撤退させた方が良いんじゃないでしょうか? それに他の騎士や冒険者達にも救援要請を出すべきです」
フィアナは戦う相手としてかなり上だと思ったようで身体を震わせる。
ジークの嫌な予感は治まっていないようで頭をかくとレインは彼の様子からかなり大きな問題だと思ったようで一時撤退を提案する。
「……そうしたいのは山々なんだけどな」
「この程度の事で撤退だと、ファクト家も落ちたものだな」
「ポイズンリザードか? ノエル、今日こそ、ポイズンリザードがドラゴン族だと言う事を教えてやろう」
しかし、依頼主のフィリムとレインが弱気になった事でアノスは自分が各上だと言いたいのか強行する気であり、ジークは大きく肩を落とした。
また、フィリムの言葉にはノエルを挑発するものも含まれており、魔法の詠唱を続けている彼女の額には小さな青筋が浮かび上がり出す。
「あの、ジークさん」
「……深く聞かないでくれ」
「ジーク、どうせ、直ぐにわかってしまいますよ……とりあえず、行けるところまでは行きましょうか? 対策を立てるのに必要でしょうし、私達で無理なら、カインや王都に救援を出さなければ行けませんし」
ノエルの額の青筋にはフィアナも気が付いたようでジークに説明を求める。
ジークはノエルがドラゴンマニアだと言う事実をどこかで認めたくないのか視線をそらして力なく笑う。
レインはジークの考えている事がわかったようで苦笑いを浮かべた後、2人を止めるのは無理と判断したのか撤退を視野にも入れて欲しいと忠告するが2人はレインの話など聞いていない。
「……フィアナ、撤退の時は協力頼むぞ」
「はい。わかりました」
「よろしくお願いします。フィアナさん」
最悪の場合はフィリムとアノスを取り押さえて撤退する事を決めたジークはフィアナに協力要請を出す。
彼女はポイズンリザードと言う強敵と戦い命を落としたくないようですぐに返事をする。
彼女の返事にジーク、レイン、フィアナの3人には妙な連帯感が生まれたようで3人は顔を見合わせた後、大きく頷いた。
「ジークさん、行きましょう。今日こそ、フィリム先生にポイズンリザードなんかがドラゴンに分類されないと言う事をわからせます」
「あの、ノエルさん、目的を見失わないでください」
「ふ。その言葉、そっくり返してやろう」
その時、ノエルが魔法の詠唱を終えたようで拳を握りしめてジークに先を進むように言う。
ノエルはこっちの味方だと考えていたようでフィアナは彼女の様子に戸惑うが、ノエルとフィリムの視線の間にはすでに激しい火花が散っており、助けを求めるようにジークへと視線を向ける。
「ノエル、落ち着け」
「落ち着いていられません。ジークさんはうちの可愛いクーちゃんがポイズンリザードのようなトカゲと一緒にされて我慢できるんですか? わたしは絶対にできません!!」
「……わかりました。行きましょう」
ジークは彼女を落ち着かせようとするが、彼女はジークの予想以上に興奮している。
それは先日から共に過ごしている幼竜であるクーへの行き過ぎた愛情から来ている物も混じっており、ジークは彼女の勢いに怯んでしまい、頷いてしまう。
「ジーク」
「……この状態のノエルを押さえるのは無理だ」
「……大丈夫なのかな?」
不甲斐ないジークの様子に肩を落とすレインだが、彼もノエルに何か言える様子ではない事に気が付いてはいるようでジークを責めるような事はしない。
2人の様子にフィアナは状況を理解したようで大きく肩を落とすと不安そうに奥へと視線を移した。
遺跡の奥は暗闇に覆われており、新米冒険者の域を脱していない彼女の不安をあおるには充分すぎるものである。
「それじゃあ、行きますか? フィリム先生、危険だと判断したら撤退しますからね。それだけは覚えておいてくださいよ」
「ああ」
ジークは頭をかいた後に、フィリムに撤退も視野に入れて欲しいと忠告し、フィリムは聞いているのかわからないが返事をする。
先日に続き、短編を1本書きました。
『神様試験? こんな性悪を神にしても良いのか!?』と言う作品です。
興味がわきましたらご一読お願いいたします。