第554話
「どういう事ですか?」
「魔導銃の攻撃は通り抜けると」
「質量のあるものはこの先を通るのを禁止されると言う事か?」
転がる小石に首を傾げるレイン。
ジークは気にする事無く、思考を続けており、レインは独り言のようになってしまったと思ったようで苦笑いを浮かべた。
その背後から、2人のやり取りを覗き込んでいたようでフィリムは面白いと口を緩ませている。
「レイン、次はこの辺に」
「わかりました」
ジークはレインに指示を出し、何度か入り口に向かい小石を投げ込む。
それに合わせてジークは合わせるように小石を投げ込んだり、魔導銃を撃ったりし、小石の破損状況や奥で光っている場所を見ているようである。
「ジークさん、魔法で奥を照らせないか試して見ましょうか?」
「いや、大丈夫。だいたいの場所はつかめた。それにこの先の事を考えるとノエルの魔力は無駄遣いしたくないし」
ノエルは魔導銃の攻撃が通り抜けるため、奥も精霊魔法で灯りをともす事が出来ると思ったようで遠慮がちに手を上げる。
ジークは首を横に振ると魔導銃の出力を上げた。
「目もなれてきたし、ちょっと行ってくる」
「行く?」
「待ってください!?」
ジークの言葉に皆が首を傾げた時、ジークは入り口に向かい、数個の小石を投げ込むと同時に、奥に向かって走って行く。
ジークの突然の行動に驚きの声を上げるノエルだが、ジークは小石が空中で制止する場所を通り抜けて行き、ジークの姿は暗闇の中に消えて行く。
その場からは暗闇の中が小さく光って行くのが見えるが、ジークに何が起きているかは確認が取れず、ノエルは彼の無事を祈るように手を合わせる。
「これで奥に何もなかったら、進み損だな」
暗闇の奥から放たれる光は魔導銃の攻撃で相殺できるようであり、先ほどまでの行為は放たれる感覚やスピードを確認していたようであり、ジークは魔導銃で光を相殺しながら暗闇の中を進んで行く。
遺跡の床はしっかりと整備されており、何かにつまずく事はなく進む。
「到着したのは良いものの……分解できるのか?」
暗闇の中で光を放っていたと思われるものを見つけて横に回り込む。
横に回り込むと同時に罠の範囲内から外れたようであり、光の射出が止まる。
ジークは奥に来たものの少し考えなしの行動だったと思ったようで頭をかくと光を放っていたもののを覗き込む。
「……なんとなく分解できる気がするのは何でだろうな? アーカスさんに感謝するべきなのか?」
アーカスの家を訪れる度に無駄な罠を解除してきた事もあり、感覚的に罠を解除できると思ったようでため息を吐く。
ジークの腰のホルダには魔導銃と薬品以外にも細々(こまごま)として物が入っており、罠解除に仕えそうな道具を選ぶと分解を始める。
「戻ってきませんね」
「くたばったんじゃないのか? 光も止まったようだしな」
「……アノス」
ノエルが心配そうに暗闇の中へと視線を向けているなか、フィアナはぽつりとつぶやく。
アノスは遺跡探索には乗り気ではない事やジークに良い感情を持っていない事もあり、ジークの死を喜ぶように言う。
その言葉にレインは配慮が足りないと言いたいようでアノスを睨み付けるが、アノスにとっては騎士の名家に生まれ、騎士としての矜持を守っているレインが忌々しいため、珍しく見る感情を露わにした彼を見るのが楽しいようで口元を緩ませている。
アノスの態度は明らかにレインを挑発しており、レインは拳を握りしめた。
「……そう簡単にくたばるようにできていないだろ。この程度の事で死んでいるなら、カインに殺されている」
「た、確かにそうですね。ジークですから、大丈夫でしょうね。イヤな予感もするとは言ってなかったですし」
その様子にフィリムはレインに視線を向ける事無く言う。
レインはカインの言っていたジークの危険感知能力の事を思い出したようで自分を落ち着かせるように大きく深呼吸をする。
レインが冷静になった事が面白くないようでアノスは舌打ちをすると暗闇の中へと視線を移す。
「……あんなのがいくつもあったらイヤだな。巨大ミミズがミンチになるなら、威力は質量に対して上がるって事だろうし」
「ジークさん、大丈夫だったんですね」
「危ないぞ。一応、見えた罠は解除しましたけど、あれが複数あると奥には進むのは難しいですよ」
暗闇の中からジークは頭をかきながら戻ってくると罠解除が面倒だったようでため息を吐いた。
ジークが無事な姿にノエルは喜びの声を上げ、彼に抱き付く。
彼女を受け止めるとジークは少し照れくさそうに笑った後、集まる視線に気が付いたようで1つ咳をするとフィリムに遺跡の奥は面倒そうだと報告をする。
「ふむ……複数あると思うか? お前の勘で良い」
「勘で良いなら……無いですね」
「そうか? それなら行くぞ」
フィリムは少し考えるとジークに同等の罠があるかと確認する。
ジークは苦笑いを浮かべつつ、同等の罠は存在しないと答えた。
その答えにフィリムは小さく口元を緩ませると暗闇の中に向かって歩き出す。
「ちょ、ちょっと待ってください。どうして、罠がないと言えるんですか!?」
「……フィアナと言ったな。冒険者なのだろう。自分で考えろ」
「待ってください。1人で行くのは危ないですよ」
フィリムの行動にフィアナは驚きの声を上げるとフィリムの腕をつかむ。
フィリムは呆れたようにため息を吐くと腕を振り払い、先を進んで行こうとするがレインは自分達が彼の警護を担当しているため、フィリムを引き留める。
「フィリム先生、俺もレインの意見に賛成。あれほどの罠は無いにしても罠がある可能性は否定できないし」
「ふむ。仕方ない」
警護対象が1人で進むと何か有っては困るため、レインに同意を示す。
フィリムは自分が無理やり、ジーク達を遺跡探索に巻き込んだ事もあるため、頷くとジークに先に行くようにあごで指示を出した。
その様子にジークは眉間にしわを寄せるものの、フィリムの性格を理解してきているため、文句を言うのも諦めているのか先頭で歩き出す。
先日、短編『旧き約束の果てに見えるもの』を投稿しました。
べたな展開のオチなしですが、ご一読いただけたら幸いです。