第553話
「これが遺跡の入り口ですか?」
「みたいだな」
研究者の中で遺跡を探索するつもりなのはフィリムだけのようで他の研究者を残し、フィリムの指示で鉱山の奥で見つかった遺跡の入り口まで移動する。
遺跡の入り口には門があり、中は闇が続いている。
遺跡自体は巨大ミミズが通った時に崩れた場所から見つかっており、研究をするのには足場が悪かったため、鉱員を何度か入れたようで入り口までの道はしっかりと出来上がっており、難なく入り口までは到着する。
入り口は魔法で封鎖されているのかキズ1つ付いていなく、状態は良さそうに見える。
フィアナは新米冒険者であり、遺跡自体初めてなのか興味深く覗き込んでおり、その姿にジークは苦笑いを浮かべた。
「……待て」
「……」
「フィリム先生、この遺跡、どこまで進んだんだ?」
アノスは遺跡の学術的意味など興味がないのか遺跡調査など早く終わらせたいようで遺跡の入り口に近づこうとするが彼の行動をフィリムが止める。
魔術学園の教授とは言え、格下と見下しているアノスはフィリムの声に不満げな顔をするが、フィリムの言おうとしている事を理解したジークは遺跡探索の進捗状況を聞く。
「ここまで来たのは昨日だ。中にはまだ足を踏み入れていない」
「未踏遺跡って事ですか?」
「不服そうだな?」
入り口までの道の補強が終わったのが昨日のようでフィリム自身も遺跡内には入っておらず、フィアナは貴重な1歩に同行できる事に歓喜の声を上げる。
アノスは何もわかっていない遺跡探索はそれなりに進んでいると思っていたのか何も進んでいない状況に舌打ちをし、フィリムは彼の様子を鼻で笑った後、小石を拾う。
「フィリム先生!?」
「別にこれをぶつけるわけではない。見てみろ」
「……いきなり、前途多難だな」
ノエルはフィリムがアノスに向かって小石を投げつけると思ったようで声を上げる。
フィリムは勘違いするなとため息を吐くと小石を遺跡の入り口に向かって軽く投げた。
小石は入り口を潜り抜けようとした時、空中で止まり、粉々になってしまう。
その様子から、遺跡内に入るのは難しいとわかり、ジークは面倒だと言いたいのか頭をかいた。
「よく気が付きましたね」
「長い間、このような事をしていれば、入り口に罠があるのも何度か見ているからな。それに巨大ミミズがミンチになった姿もこの目で見たからな」
「……」
フィリムは遺跡の入り口を発見した時の状況を説明すると巨大ミミズとは何度か接触した事があるのかそれがミンチになったと聞き、自分がこのまま進んだ時の事を思い浮かべたのかアノスの顔は引きつらせる。
「これから、調べるって事なら俺達はフィリム先生が調べてる間に巨大ミミズが来ないか警戒か?」
「何を言っている。行け」
「……何を言っているんですか?」
「行け」
遺跡の中に入る方法がわかっていない事にジークは周囲を警戒に移ろうとするが、フィリムはジークに直進指示を出す。
ジークは耳を疑ったようで聞き返すがフィリムは何度も言わせるなと言う。
「ちょ、ちょっと待ってください。巨大ミミズさんがミンチ肉になってしまったんですよね。そんな事をしたらジークさんもミンチになってしまいます!?」
「さ、流石にそれは」
ノエルは慌ててフィリムに思い直すように言うとジークがミンチになるのを想像したのか、フィアナは顔を青くしている。
「あの、ジークに罠を調べて欲しいと言っているんじゃないでしょうか? ジークはアーカスさんの罠地帯を通り抜けているわけですし、カインが師事していたのですから、話を聞いているんだと」
「……そ、そんな事、わかっていたさ」
レインはフィリムがジークに罠解除を頼んでいると思ったようであり、苦笑いを浮かべる。
その言葉でジークは気が付いたようで逃げるように入り口に歩き出す。
「……罠解除って言われても、いつの時代のかわかんないんだから、アーカスさんの罠が役に立つのか?」
「ジーク、1人で大丈夫ですか?」
「大丈夫も何も何から手を付けて良いか、わからない」
ジークは小石が粉々になった場所の手前に到着すると遺跡の入り口を眺めてため息を吐いた。
レインはジークの罠解除に興味があるのか、背後から覗き込む。
その言葉に力なく笑ったジークは罠の発動条件を探したいのか、小石を拾い上げ、遺跡の入り口に向かって放り投げる。
小石はまたも空中で制止すると強力な圧力をかけられたのか粉々になってしまう。
その様子にジークは困ったように頭をかくともう1度、小石を拾い上げる。
「何をするんですか?」
「レイン、せっかくだから、奥の方を見てて貰って良いか?」
「奥ですか? わかりました。見ていれば良いんですね?」
ジークは小石が砕ける時に何か起きていないか確認したいようでレインに暗闇の中を見ているように頼む。
レインは意味がわからないようで首を傾げるが頷き、暗闇へと視線を向ける。
ジークは再び、小石を入り口に向かって放り投げると、三度、小石は空中で制止し、粉々に崩れ落ちる。
その時、遺跡の奥の闇の中には小さな光が灯った。
「……奥が光りましたね」
「そうだな……どっちかな?」
その光をジークもレインも見逃しておらず、レインは首を捻った。
ジークは頷くと大まかにあの光の正体を掴んだようで面倒だと頭をかく。
「どっちと言うと?」
「いや、あの光が侵入者を感知してるか、ただの攻撃か、後はこれは大丈夫か?」
「なぜ、魔導銃を抜くんですか?」
ジークは腰のホルダから1対の魔導銃を引き抜いた。
レインはジークが何をするつもりかわからずに質問をするとジークは横に移動し魔導銃を構える。
「レイン、ちょっと、小石を入り口に向かって投げ込んでくれるか?」
「は、はあ」
レインはジークから指示を受け、首を傾げながら小石を拾い上げると小石を放り投げた。
遺跡の奥は再び光が灯り、ジークはそれと同時に魔導銃の引き金を引く。
ジークの魔導銃の銃口から放たれた光は直進して行き、闇の中で何かにぶつかったのか、小さな破裂音が響いた。
その少し後に、空中で制止していた小石は地面に落ち、破壊される事無く転がって行く。