第546話
「流石のクラウド様もレインくんの事になると親バカになりますか?」
「別にそんな気もないのだが」
ジーク達のところにクラウドが来ていることに気が付いたティミルは柔和な笑みを浮かべた。
彼女の言葉にクラウドは誤魔化すように1つ咳をするが、その様子からレインの意志を尊重してフォルムに向かわせたものの、やはり、レインの事が心配なのが見て取れる。
「レインくんは物事の分別もついていますし、冷静に物事を見ることができますから心配しなくても良いでしょう」
「……地味に不測の事態には対応できないけどな」
「そ、そうですね」
ティミルはレインがラースに指導を受けていた時の事を思い出しながら、何も心配ないと笑うがジークはフィーナの裸を覗いてしまった時に慌てて彼女に婚約を申し出たレインの姿を思い出したようで眉間にしわを寄せた。
ノエルもジークが何を考えているのか察する事が出来たようで苦笑いを浮かべている。
「ジークくん、ノエルさん、どうかしましたか?」
「い、いえ、なんでもありません」
「クラウド様も言っていましたが、レインは融通の利かない事もあるため、不測の事態に対応できない事が稀にあるだけです。しかし、フォルムでは地位や家名などをあまり気にしない生活をしていただいていますから、柔軟に対応できるようにもなってきています」
2人の様子に気が付いたティミルは首を傾げるとジークは慌てて首を振り、カインはジークへと追及がいかないようにフォローをする。
「そうか。そちらの成長はフォルムの地で学んでくれるだろう。武芸に関して言えば、カイン=クロークもいるから、安心だろうしな。1度、どれだけ成長している確認しておきたいな」
「カイン、レインの腕って上がってるのか?」
「十分に上がってるよ。レインだけじゃなく、ジークもフィーナもレインは2人と手合せをする事で戦いの幅も広がってるからね。その分、王城で騎士の戦い方しか学んでいない人達から見ると邪道とか言われてしまうかも知れないけどね」
カインのお墨付きを貰えた事にクラウドは小さく口元を緩ませるが騎士としての本懐はやはり武だとも思っているのか、レインの成長を自分の目で見てみたいとも言う。
ジークはレインと手合せはしているものの、改めて、成長と言われても理解できないのかクラウドには聞こえないようにカインに聞く。
カインは自分の成長にも気が付いていないジークの様子に小さく肩を落とすとレインの成長は著しいものと言いながらも騎士としての権力しか見えていない者達の事を考えたようで小さく肩を落とした。
「何、それは戦功を重ねていけばどうとでもなる」
「戦功……」
「ノエル、レインなら大丈夫だろ」
クラウドはレインが王都に戻ってきた時に騎士として名前を売れるだけの実力を備えている事が重要だと笑う。
しかし、騎士として名を上げると言う事はレインの剣で倒れる者が出ると言う事であり、ノエルは表情を曇らせる。
ジークはレインが無駄に命を奪う事などないと信じており、彼女を励ますように軽く肩を叩くとノエルは不安を振り払うように笑顔を見せた。
「ふむ」
「どうかしましたか?」
「いや、この2人やカイン=クロークやセス=コーラッドの話を聞いているとレインにもそろそろ、浮いた話の1つくらい有っても良いのではないかと思ってな。何もないなら私も少し考えなければいけないと思ってな。カイン=クローク、お主の妹をレインの元に嫁がせるのは可能か?」
ジークとノエルの様子を見て、クラウドはコホンと1つ、咳をするとティミルは首を捻る。
クラウドは昔からレインに浮ついた話もないため、父親として家名を守るために必要な事だと思っているようでカインに1つの提案をする。
その言葉にジークとノエルは顔を見合わせた後、慣れないドレスでライオに連れまわされてぐったりとしているフィーナと2人の様子に困ったように笑っているレインへと視線を移す。
「……いや、ダメだろ」
「そ、そんな事はないと思いますけど、ほら、フィーナさんとレインさんは仲が良いですし」
ジークはフィーナがレインに釣り合うわけないと思っていることもあり、眉間にはくっきりとしたしわが寄る。
ノエルは普段、フォルムで見ている2人の様子から不和にも見えないため、苦笑いを浮かべた。
「光栄ですが、本人が望むようにしてやりたいと思っています。仮に本人がレインを恋愛対象として見るなら、私に何かを言う権利はありません。私自身、勝手にやっていますから、フィーナに政治的価値は見出したくありません」
「それは残念だ。それならば、私ももう少し積極的に相手を探してみるか」
「そうですね。レインくんに嫁がせるより、もう少し長い目で見ていると面白い事になりそうですからね」
カインはきっぱりとフィーナに政略結婚のような事をさせる気はないと答える。
クラウドもカインの答えは予想できていたのか特に気分を害する事はないが、ティミルはフィーナ達に視線を移し、何か感じたのか楽しそうに笑う。
「あの、クラウド様はレイン様の相手の家柄ってのはやっぱり気にするんですか?」
「いや、当人同士の問題なのでな。特に言う気はない。それにそれなりに長い間、生きているとな。反対されて家を捨てて行った者達も見ている。そして、跡取りがなくなり、潰れて行った者達もな。それを見ていれば反対などできないが……そのような事を言うなら、フォルムで何かあるのか?」
ジークは騎士の名門となると婚約者などにいろいろうるさいのかと思い、質問をする。
クラウド自身は選民意識もないのか気にする気はないと言うが、ジークの質問にフォルムにはレインの良い人がいると思ったようでジークとの距離を詰める。
「別にそういうわけではないですけど、ファクト家ってのはやっぱり有名ですから、フォルムの娘達がレイン様を狙っています」
「なるほど、だが、レインの事だ。戸惑い逃げ回っているだけだろう」
「……流石、お父さんですね」
ジークは言うべきか悩みながらも、フォルムのレインの事を話す。
クラウドはその言葉に頷く物のレインの性格を熟知しているようで正確にレインの行動を言い当て、ノエルは2人の会話に苦笑いを浮かべた。