第543話
「……お前達は何をしているのだ?」
「成り行きで」
イオリア家のパーティー会場に移動すると会場でシュミットとリアーナと顔を合わせる。
シュミットは本来、このような場所にいるわけのないジークの姿に眉間にしわを寄せ、ジークは苦笑いを浮かべた。
「成り行きでな」
「あんたは王族代表って事? ちょっと、何するのよ!?」
「……シュミット様、愚妹が申し訳ありません」
勢ぞろいのジーク達にシュミットはまたカインが悪巧みをしていると考えたようで小さくため息を吐く。
フィーナはまだシュミットを認めていないのか怪訝そうな表情をするが、その態度にカインは眉間にしわを寄せると彼女の頭を押さえつけ、フィーナと一緒に頭を下げる。
「いや、気にする必要はない。私は父上の代役だ。いくら、金を掴まされている者達がいるとしても騎士として任命したのだ。誰かが来なければいけないだろう」
「俺としては、エルト王子やライオ王子が来てなくて良かったと思うよ」
「来てるんですね? どうして、危険な場所に来たがるのかがわかりません」
シュミットはカインに謝る必要はないと言うと自分がラングの代役である事を告げる。
ジークはシュミットの言葉にエルトやライオが出席してないと判断したのか胸を撫でおろすがシュミットとリアーナの眉間にはしわが寄り始めた。
2人の様子にレインは1つの答えを出すと嫌な予感しかしないのか大きく肩を落とす。
「私だけだけどね。兄上には私とシュミットが出席するからと言って公務を押し付けてきたよ。何より、私もあの場所に同席していたからね。あの宣戦布告は私に対する物だろう? それなら、私にもこの場所に来る理由がある」
「……ライオ王子、なんでそんなに好戦的なんだよ?」
「ライオ様らしくありませんわ」
その時、背後からライオの声が聞こえた。
ジーク達が振り返るとライオはテーブルに並べられた料理を手に持って立っている。
ライオはステムの宣戦布告を自分に対する物だと言い、ガートランド商会が関係するなら敵として見極める必要があると言う。
彼の言葉にジークは大きくため息を吐くとカルディナは普段見ないライオの様子に怪訝そうな表情をする。
「好戦的と言うわけでもないと思うけどね。ただ、私は研究者ではあるけど騎士の在り方としてはオズフィム家やファクト家の方を好ましく思っているからね」
「いや、思ってても公の場で言ったらダメだろ」
「そうですね。流石に視線が痛いです」
ライオも騎士には騎士としての在り方があると思っているようでイオリア家はそれに反していると言う。
しかし、それはイオリア家のパーティーで話す事ではなく、ジークは大きく肩を落とし、ミレットは苦笑いを浮かべた。
ミレットの言う通り、ライオが王族だと知らない者も会場にはいるようで彼の発言に鋭い視線を向けている。
「気にする必要はないよ。それでジーク達こそ、どうしてこんなところにいるんだい?」
「……ティミル様が気を使ってくれて」
「ティミル? ……ラースの奥さんだったかな?」
「ご無沙汰しています。いつも、カルディナがお世話になっています」
ライオ自身は遠巻きに何かを言われるのは慣れているようで気にすることはなく、改めて、ジーク達がイオリア家のパーティーに出席している理由を聞く。
ジークはティミルの名前を出すとライオは首を傾げ、ティミルはライオに向かい頭を下げる。
「いや、私の方こそ、カルディナには迷惑をかけている」
「確かに迷惑をかけてるよな?」
「……それに関して言えばノーコメントですわ」
ライオとティミルが挨拶を交わす姿にジークは大きく肩を落とす。
カルディナは言いにくいことを自分に振るなと言いたげに視線をそらし、その様子からライオがカルディナを振り回しているのが見てわかる。
「なるほど、オズフィム家の後ろ盾か?」
「後はライオ様と同じ理由ですね。イオリア家がガートランド商会と懇意にしているなら、しっかりと見ておかないといけないと思いまして、大丈夫です。相手から何もしかけてこなければこちらからは何もしません。フィーナ以外は」
「シュミット様、胃薬、飲むか?」
シュミットはティミルがいる事でどうやってジーク達が会場に紛れ込んだか理解したようであり、この場所でおかしな騒ぎになるのではないかと思ったのかため息を吐く。
カインは心配する必要などないと言うが1人だけ不安要素がおり、小さくため息を吐くとシュミットもフィーナの行動には不安のようで眉間にしわを寄せ、ジークはシュミットに胃薬を渡す。
「……貰っておこう」
「あんた達は私をバカにしないと気が済まないの?」
「フィーナ、落ち着きましょう」
シュミットは胃薬を受け取るとイオリア家の使用人から水を受け取る。
フィーナは自分に対する評価に眉間にしわを寄せるとリアーナは苦笑いを浮かべながら彼女をなだめた。
「そう言えば、リアーナも騎士の任命受けたんじゃないのか?」
「いえ、私達はエルト様とリュミナ様の婚約発表の前の予定ですので今はシュミット様預かりの私兵団となっています」
「まだ、いろいろと準備が間に合わなくてな。まだ、騎士剣も騎士鎧も出来上がっていないしな」
イオリア家の長男が騎士に任命された時に一緒にザガードからリュミナに付いてきたリアーナ達も正式な騎士として任命されたと思ったジークだが、まだ、準備が間に合わなかったようであり、シュミットとリアーナは首を横に振った。
「そうなんですか?」
「そんなに簡単に出来上がらないだろ。5人分となると結構なもんだろうしな。バーニアだって他に仕事もあるだろ」
「ねえ。ライオ様、そう言えば、騎士になったって言うイオリア家の長男って、どんな奴なの?」
ノエルは残念そうに言うとジークは苦笑いを浮かべた。
フィーナはつまらなくなってきたのか、今日の主役の事をライオに聞く。
「あれ? 誰も話してないの?」
「イオリア家が金で騎士の地位を買ったって事は聞いたけど、人となりは聞いてないわ」
「そう言えば、そうだな。実はいい奴だったってオチはないよな?」
首を傾げるライオだが、ジーク、ノエル、フィーナの3人はまったく話を聞いていないようで苦笑いを浮かべる。