第541話
「……これ、どういう事よ?」
「俺に言うな。俺とノエルも初めて知ったんだから、それもわざわざ、俺達がフォルムを出てから、王都に来るって言う徹底ぶりだ」
「そ、そうですね」
イオリア家のパーティーの当日、正装に着替えたジーク、ノエル、フィーナはオズフィム家の応接室でカルディナとティミルをまっていたのだが、なぜかカイン、セス、レイン、ミレットの4人が遅れて応接室に現れる。
予想していなかった事にフィーナは状況が理解できないため、ジークの胸ぐらをつかむ。
4人が現れたことはジークとノエルも知らず、フィーナの問いかけに答えることなどできないため、ジークはため息を吐き、ノエルは苦笑いを浮かべた。
「で、どういう事よ?」
「いや、この間、ティミル様がフォルムに来た時に俺達も出席してみないか? て言われてね。せっかくだから、ご厚意に甘えてみたんだよ。もちろん、3人には内緒で4人ともそれなりに立場があるからね。ねじ込みやすかったよ」
「……内緒にする意味がわからないです」
フィーナはジークから答えが得られないことでカインを睨み付ける。
カインはひょうひょうとした口調でネタばらしをし、ノエルは大きく肩を落とした。
「ガートランド商会がレギアス様の父親とつながってるなら、ミレットがレギアス様の後継者として出席するのは我慢できないだろうからね」
「それはずいぶんと好戦的だな」
「……まったく、もう少し平和的にして欲しいのですけど、せっかくのティミル様のお心遣いですから」
カインの行動は先日のステムの宣戦布告へ対する返事であるようで、ジークは好戦的な彼の態度に大きく肩を落とす。
セスはカインのやり方に納得がいっていないのか眉間にしわを寄せているが、ティミルの顔を立てないといけないとも思っているようで何とか自分を落ち着かせている。
「とりあえず、状況は理解できた……と言うか、全員で王都にきて、頼んでたクーの世話はどうしたんだよ?」
「クーちゃんはテッド先生に任せてきましたよ。流石に連れてくるわけにもいきませんから」
「子供のドラゴンには希少価値もありますからね。クーがさらわれる可能性もありますから」
ジークは半ば諦めた様子ではあるがクーの姿がないため、心配になったようでクーをどうしたかと聞く。
クーはテッドの診療所に預けられており、レインはイオリア家で何かあっても困るための処置だと言う。
「騎竜はある種のステータスだからね。育てて騎竜にするも良し、子ドラゴンとして見世物にするにも良し、金で地位を買うような人間ならクーは喉から手が出るくらい欲しいだろうね」
「ダメです。クーちゃんは渡しません」
「いや、誰もクーを渡すつもりなんてないから、それより、カイン、時間って良いのか? まだ、ティミル様もカルディナ様も来てないけど」
カインはイオリア家のパーティーには良からぬことを考える輩が多いと考えており、彼の言葉にノエルは不満げな声を上げる。
ジークはノエルを押さえつけると時間が気になるようでカインに聞く。
「そんなに時間はかからないよ。馬車だしね……ノエル、まだ、馬車苦手?」
「はい……」
「とりあえず、飲むだけ、飲んでおくか? ……あ、着替えた時に忘れてきた」
カインはティミルから馬車で移動することを聞いているようで安心したらいいと笑うが、馬車と聞いたノエルの顔は見る見る間に真っ青になっていく。
ジークはノエルの様子に首筋をかくと酔い止めを取り出そうとするが、正装に着替えた部屋にいつも持ち歩いている薬類を忘れてきたようで困ったように笑う。
「とってくるか?」
「いや、勝手に歩き回るのは不味いでしょう。待っていてください」
ジークは応接室を出て行こうとするが彼の行動は褒められたものではなく、レインはジークを止めると応接室の外に控えている使用人に詳細を説明し、薬類を取ってきて貰うようにお願いする。
「自分で行くのに」
「そういうわけにも行きませんよ。ジークくん達は私の客人となりますから、何かあっても困りますし、それに対応するのが仕事でもあるんですから」
わざわざ人に頼むことでもないと言うジーク。
その時、タイミングよくティミルとカルディナが応接室に入ってくる。
途中で使用人から話を聞いていたのかジークには気にする必要などないと笑う。
「立場もありますが、オズフィム家にもいろいろありますから、勝手に屋敷内を歩き回れるのは困ります」
「公務にも世間に秘密にしとかないといけないこともあるからね。世間に知られると足の引っ張り合いに巻き込まれたり、ジークは考えなしにぽろっと話することもあるだろ」
「俺はそんなに口は軽くない」
納得ができないジークは首をかしげており、ティミルは彼の姿に苦笑いを浮かべる。
カインはティミルの立場を考えるように言うとジークはため息を吐いた。
「ジーク、そんな事より、クーちゃんはどうしたんですか?」
「……カルディナ様はいつもそれだな。クーはフォルムに置いてきた」
「どうしてですか!!」
カルディナは応接室に入ってくるなり、クーを探しており、見つからないため、ジークにつかみかかる。
その様子にジークは苦笑いを浮かべると事実を口にするがクーに会えると思い込んでいたカルディナは怒りの声を上げる。
「どうしても何も連れて回るわけにも行かないだろ」
「そうですね。カルディナもわがままを言うんじゃありません。クーちゃんには後で会いに行きましょう」
「……後でまたフォルムに来る気ね?」
ティミルはカルディナを叱りつけると彼女はしぶしぶ、ジークと距離を取る。
ティミルの言葉にはフォルムへの来訪の意味が含まれており、フィーナはため息を吐く。
「フォルムは良いところですからね。ゆっくりとできますから」
「よくわからないわ」
「忙しいとそういう時もあるんですよ。それより、フィーナさんは大丈夫ですか? ここでおさらいしておきましょうか?」
ティミルは1度、フォルムに来た時でフォルムを気に入ったようでくすりと笑う。
フィーナはティミルの考えが理解できないようで眉間にしわを寄せた。
ティミルは苦笑いを浮かべた後、フィーナがマナーを覚えきれたか心配になったようで質問するとフィーナの目は泳ぐ。
「大丈夫だと思いますよ」
「形にはなっていると思います」
「そうですか」
セスとミレットはティミルの心配を振り払うように言い、ティミルは2人から言われて安心したのか胸をなで下ろした。