第538話
「ラース様がいる?」
「カインさん、お帰りなさい」
カインは仕事を終えて屋敷に戻ってくると中庭の方から声が聞こえて顔を出す。
中庭ではフィーナとラースが木剣を合わせており、本来、いるわけがないラースがフォルムにいる事にカインは眉間にしわを寄せてその場に立ち止まる。
ノエルはカインを見つけて、彼を呼ぶように手を振り、カインはフィーナとラースの訓練を眺めているジーク達の元に歩く。
「何で、ラース様がフォルムにいるんだ?」
「いろいろとあったんだよ」
「確かにいろいろ有ったみたいだね」
カインは直ぐにジークに説明を求めるがジークは面倒なのか一言で済ませようとする。
その言葉でカインはセスとミレットへと視線を移すと2人はぐったりとしており、何が起きたかわからないカインの眉間にしわはさらに深くなって行く。
「あのですね」
ノエルはカインの様子に見かねてラースがフォルムにくる事に至った経緯を説明する。
「2人には良い薬だったのかな?」
「どうかな?」
ノエルからセスとミレットがぐったりとしている理由を聞き、苦笑いを浮かべるカイン。
ジークは良くわからないと言いたいのかセスとミレットを見てため息を吐いた。
「フィーナには息抜きが必要だっただろうから良い事として行こう」
「お前が2人を止めてればここまでならなかっただろ」
「いや、あそこまでなると俺には無理だよ。ジークだって、ノエルとフィーナが協力して意見を言ってきたら逆らえないだろ? 意見が完全に間違っていれば言えたとは思うけど、フィーナの事を思ってだからね」
ジークはカインがしっかりしなかったせいだと言うが、カインは2人がフィーナの事を心配していてくれたため、強くは言えなかったと笑う。
「そのせいでさらに被害が拡大した気もするけどな」
「それはちょっと後悔してる。ラース様も忙しいのにフォルムまで来てもらってるわけだしね」
「それに関して言えば、問題なさそうだぞ。むしろ、フィーナ相手に体を動かすことで気晴らしになってるっぽいからな」
カインはラースが多忙なことは理解しており、ワームの運営に影響が出ることを心配しているようで困ったように頭をかく。
カインの心配はもっともなのだが、当の本人であるラースは純粋にフィーナとの手合せを楽しんでいるようでその表情は嬉々としている。
「……2人とも頭で考えるのは苦手そうだからね」
「おっさんもストレス溜まってるだろうからな」
「そ、そんな事を言ったらダメですよ!?」
ラースの表情を改めて確認したラースの表情を改めてカインは2人の共通点に大きく肩を落とし、ジークは同感だと頷く。
2人の言っていることはラースにとってはかなり失礼なことであり、ノエルはラースに聞こえてはいけないと慌てて2人の口を手で押さえる。
「おっさんは気にしないだろ」
「気にする。気にしないの問題じゃないです」
ラースの性格を知っているジークは気にする必要性を感じておらず、ノエルの手をよける。
「ノエルも気にしなくて良いと思うよ。ラース様はあれを楽しんでるからね。あんなバカでもラース様の気晴らしになるなら役に立つだろう」
「そうは言っても」
「そうですね。ラース様はフィーナさんと剣を合わせるのが楽しいんだと思いますよ。平和なこともあって最近の若い騎士達は武芸をないがしろにする者もいますから、ラース様のところに指導を受けに来る者も減っていますし」
カインの言葉を聞きながらも納得がいかない表情をするノエル。
その背後から苦笑いを浮かべたレインが顔をだし、ラースのためだと思って欲しいと笑う。
「レイン、お疲れさま」
「あの。レインさん、どういうことですか?」
「カルディナ様は魔術師の才能を持った方ですから、ラース様が騎士としてカルディナ様に残してあげられるものはあまりありません。そして、ラース様が培ってきたものを引き継いでくれる方もいませんから」
レインはジーク達の隣に移動するとノエルは彼に聞き返す。
レインは少しだけ寂しそうに笑うと後継者のいない騎士の宿命だと言う。
「レインが継いでやるわけにはいかないか?」
「そうですね。私にはファクト家の教えもありますし、ただ、騎士としてラース様の教えも忘れてはいけないと思ってます」
「そうか。おっさんも大変なんだな……まぁ、騎士とかの教えはフィーナには関係ないだろうけどな。あの前のめりな戦い方は似てる」
レインもラースの師事を受けていたことを思い出したジークだが、彼はオズフィムとは異なる騎士の名家の出身であり、全てを受け継ぐことはできないと困ったように笑う。
ジークはレインの心境も理解することはできたようだが、真剣に話を聞いていたくもないのか茶化すように2人の性格が似てると頷く。
「休憩だ……レイン、久しいな」
「はい。お久しぶりです。ラース様」
「カイン、領地運営は上手くいっているのか?」
その時、フィーナとラースの手合せも一段落ついたようであり、2人は木剣を下す。
ノエルは2人にタオルを渡すとラースは汗を拭きながらレインと挨拶を交わした後、カインにフォルムの様子を聞く。
「初めてのことばかりですので戸惑うことも多いですが何とかやっています」
「そうか」
カインは当たり障りのない返事をし、ラースはあいさつ代わりだったようで深い追及はしない。
「フィーナさん、大丈夫ですか?」
「……ここ数日のせいで体力が落ちてるわ。おっさんに全部、防がれた」
「いや、そこまで変わらないだろ」
カインやレインと普通に会話をしている横でフィーナの息は切れており、悔しそうに地団駄を踏んでいる。
ジークは彼女の様子に苦笑いを浮かべるとフィーナはジークを睨み付けた。
「ジーク、なんなら、今から私の相手をする? 今なら、あんたを血祭りにあげられる気がするわ」
「安心しろ。それは気のせいだ。それに俺は手合せをする気などない。それにミレットさんがあのままだから、夕飯の準備を始めないといけないからな」
「ジークさん、わたしもお手伝いします」
フィーナは持っていた木剣の剣先をジークに向ける。
しかし、ジークにその気はまったくなくため息を吐くと木剣を夕飯の準備を言い訳に屋敷の中に入って行き、ノエルは慌てて彼の後を追いかけて行く。
更新が遅れて申し訳ありませんでした。
先日から、体調を崩したのとパソコンが壊れて執筆できない状況でした。
本日から再開したいと思いますが、まだ体調の方が本調子ではないため、
更新時間がしばらく安定しないと思います。
ご了承ください。