第53話
「……大丈夫。まあ、実際、行かないといけないんだけど」
「そうそう。イヤな事は早めに終わらせて来なさいよ」
ジークはノエルを心配させないように笑顔を作るとフィーナは自分は行く気はないと宣言しているようでジークを追い払うように手を払う。
「わかってる。それじゃあ、俺はアーカスさんのところに行ってくるから、フィーナは実家に戻れ。ノエル、店番、よろしく」
「ちょっと、それ、どう言う事よ!!」
ジークは自分がいない間にフィーナが店の商品を盗むと決めつけており、ノエルにだけ店番を頼むと出発の準備を始めようとするが、フィーナは彼の言葉に怒りの表情をする。
「そのままだ。シルドさんも言ってただろ。お前がやってるのは間違いなく犯罪の類だ。いくら、村長の娘だろうが、これ以上、やるなら、犯罪者として村長に引き渡すからな。証拠は十分にそろってるからな」
「証拠? そんなもの、どこにあるの? 言いがかりは止めてよね」
「あ、あの。フィーナさん、少なくとも服の中に商品を入れたままにしている状態では言いがかりも何もないと思いますけど」
ジークはフィーナが商品を持って行く事を彼女の父親であり、この村の村長に言いつけると言うとフィーナはそんな事実はないと言い切る。しかし、彼女の服からはジークの店から盗んだ商品がはみ出ており、ノエルは顔を引きつらせた。
「……気のせいよ」
「気のせいなわけあるか。お前みたいに冒険者とか言って手に職も付けないダメ人間が真面目に働いている人間が汗水流して働いているものを奪うなんて、その神経が信じられない」
「誰が手に職を付けてないダメ人間よ!!」
フィーナはノエルから視線を逸らすが、いつも商品を盗まれているジークとしてはたまったものではないため、追い討ちをかけるとフィーナは声を張り上げて反論する。
「未だに冒険者とか言ってるわりに親のすねをかじって生きている人間のセリフじゃないな。文句があるなら、自分の稼ぎで生活をしろよ。実家から人の家に上がり込んで生活費も入れないごくつぶしが偉そうに言うな」
「あ、あの、ジークさん、言い過ぎじゃないでしょうか?」
ジークはフィーナの反論を斬り捨てるとノエルは言い過ぎだと思ったようでジークの服をつかむ。
「言い過ぎだとは思わないな。ノエル、1週間、ここにいて、フィーナの働きをどう思った? 店の商品に手を出す。接客態度も悪い。調合の邪魔をする。真面目に仕事に向き合う気がないんだよ。実家に帰ればただ飯にありつけるしな。俺やノエルが働いている事をどこかでバカにしてるんだ。真面目に考えている人間はどんな事があっても人の店の商品を盗んで行かないからな。俺の言ってる意味もわからないんだろ。そんな人間の相手なんかしたくないんだ。出てけ」
「フィーナさん!?」
「ノエル、行く必要はないよ」
ジークは反省もしないフィーナの態度に彼女を突き放すとフィーナは余程頭に血が上っているのか反論する事もなく、勢いよくドアを開けて店を出て行き、彼女の様子にノエルは追いかけようとするがジークは彼女の腕をつかんで引き止めた。
「ジークさん、どうしてですか?」
「あいつは甘えてるんだよ。親にもこの村にもな。だから、自分勝手に動く。周りの人間の迷惑も考える事なくな。本気で冒険者になる気なら、誰かが現実を教えないとダメだろ。村長は甘すぎるからな」
ノエルはジークの行動に彼の顔を見上げるとジークは大きく肩を落とす。
「それじゃあ、俺は行ってくるから、店番、任せ……あの、ノエルさん? 手を放していただけますか?」
「いえ、ジークさんがフィーナさんの事を思っての事なのかも知れませんが、言い過ぎです。良いですか?」
「……失敗したな」
ジークはノエルに店番を任せてアーカスのところに行こうとするが、ノエルはジークのやり方に納得がいかないようで小言を始めようとし、ジークは眉間にしわを寄せた。