第529話
「……何で、こんな事になったんだ?」
「私が聞きたいわよ? ひらひらして歩きにくいわ」
ソーマとラースを引き合した日。ジオスに戻る前にティミルから頼み事があると言われ、ジークとノエルはフィーナを連れて王都にあるオズフィム家の屋敷に顔を出した。
応接室に案内されると思っていた3人は使用人達に拉致され、3人は強制的に正装に着替えさせられる。
応接室に通されて、顔を見合わせた3人。
ジークは状況が理解できずに大きく肩を落とし、フィーナは着なれないドレスのすそを上げ、ため息を吐いた。
「何なんですかね?」
「……ノエルは似合ってるわね。元々、お嬢様だから、生まれの差ね」
2人の様子に苦笑いを浮かべるノエル。
彼女は2人と違い、正装にもなれているようで特に慌てる事なく、ティミルが何をしたいかわからずに首をひねっている。
フィーナはさまになっているノエルを見て、自分と比べて自信をなくしたのか大きく肩を落とした。
「3人とも似合ってますね」
「クーちゃんはいないのですか?」
しばらくするとカルディナとティミルが応接室に入ってくる。
3人の姿にティミルは柔らかい笑みを浮かべているが、カルディナは同行していないクーを必死に探しているようで応接室を隅から隅まで見回している。
「……いろいろと聞きたい事があるんですけど」
「クーちゃんはどこですか!!」
「今日はいない……何なんだろうな?」
ティミルがソファーに腰掛けるとジークは状況の説明を求めるが、カルディナはジークに詰め寄り、クーの居場所を聞く。
彼女の様子にジークは大きく肩を落とすが連れてきていない事を告げる。
その言葉にカルディナは余程ショックだったようで膝から崩れ落ちてしまい、ジークは彼女を支えるとソファーに座らせる。
「それでおっさんの奥さんが私に何のようなの?」
「フィーナさん、もう少し言葉を選びましょう。あのティミル様、わたし達はどうしてこんな恰好をさせられているんですか?」
着なれないドレスのせいでいつもより、さらに血の気が多くなっているのかフィーナはティミルに臆する事なく、問い詰めるように説明を求めた。
ティミルにつかみかかりそうなフィーナを何とか押さえ、ノエルはこの状況について聞く。
「そうですね。見て見たかったからと言ったら、怒りますか?」
「こらえ性のない人間がいるから、他に意味がある事を願いますよ。ただでさえ、慣れないものに着替えさせられて気が立ってるんですから」
冗談めかしてくすくすと笑うティミル。
彼女の様子にフィーナのこめかみのあたりにはくっきりとした青筋が浮かび上がり、ジークはため息を吐く。
「今日は衣装合わせです」
「……衣装合わせって本番があるんですか?」
ティミルはにっこりと笑うが、彼女の言葉にジークは眉間にしわを寄せて聞き返す。
「はい。先日、イオリア家のご長男が騎士洗礼を受けたんですけど、そのお披露目があるんですよ。私とカルディナはあの人の代わりにオズフィム家の代表として出席するんですけど、あなた達に私達の護衛をしていただこうと思ったんです」
「……なぁ、イオリア家ってなんだ?」
「それくらいも知らないのですか? これくらいは常識ですわ。まぁ、ジークが知らないのでしたら、他の2人も知りませんわね」
ティミルは3人に護衛をして欲しいと頭を下げる。
ジークは断りにくいのか苦笑いを浮かべるも聞きなれない家名にカルディナに聞く。
その質問にカルディナは呆れたようにため息を吐き、ノエルとフィーナの表情もうかがう。
ノエルは気まずそうに苦笑いを浮かべ、フィーナは興味などないと欠伸をしており、カルディナはもう1度、ため息を吐いた。
「イオリア家はオズフィム家やファクト家と同様に何度も聖騎士を出している名門ですわ」
「騎士の名門? ……」
「言っておきますけど、騎士のすべてをあれと一緒に考えないでください」
ティミルは視線でカルディナに説明を指示する。
彼女は1度、頷くと3人に向かい『イオリア家』について簡単に説明するがその表情はどこか不満げに見えた。
説明を聞くがジークの知るハイム国の騎士はラースとレインしかいない事もあり、微妙な表情をする。
彼の表情に気が付き、カルディナはジークを見下すような視線を向けるが彼女自身もあまり、イオリア家に良い印象がないのかふくれっ面である。
「カルディナ様、どうかしたんですか?」
「……別に何でもありませんわ」
「カルディナはイオリア家にあまり良い印象がないですからね」
彼女の表情にノエルは何があったかと聞くが、カルディナは答える気がないのかそっぽを向いてしまい。
ティミルは娘の様子に困ったように笑う。
「カルディナ様は騎士が嫌いなんだし、仕方ないか?」
「……違いますわ」
先日、カルディナから騎士が嫌いだと聞いていた事もあり、苦笑いを浮かべるジーク。
しかし、カルディナはそれ以外にも何か理由があるようで眉間に深いしわを寄せた。
「違う?」
「イオリア家は確かに名門ですが、金で聖騎士の地位を買うような家ですわ。私は騎士など滅びてしまえば良いとは思っていますが、あれはそれ以下ですわ」
「金でって? そんなんで聖騎士になれるの? 何度かラング様に会ったけど、そんな事を許すような人じゃなかったでしょ?」
カルディナは吐き捨てるようにイオリア家を認めないと言う。
彼女の言葉はフィーナには信じられない事だったようでエルトやライオを抑えつけ、現国王を補佐しているラングの顔を思い出し、首をひねる。
「聖騎士を選ぶのは国王様やラング様だけではないですからね。王族の中にも志など持っていない方達もいます」
「……何かイヤになるわね」
「そうだな。できればそんなところに行きたくないんだけど……ティミル様が俺達をここに呼んだって事にはわけがあるんだよな?」
ティミルは恥だと思っているようで申し訳なさそうに頭を下げる。
フィーナは納得がいかないようで乱暴に頭をかくとジークはイオリア家に何かある事は感じ取ったようで面倒だと言いたいのか頭をかく。