第528話
「……なるほどね。状況は理解した」
「何だよ?」
しばらくするとラースとティミルが応接室を訪れる。
2人にソーマを紹介した後、ラースの口からソーマにワームの現状が説明された。
ソーマはしばらく黙りこむと状況を理解したようで小さくため息を吐き、ジークへと視線を向ける。
「フィーナにまでそんな話があるなんて、世も末だな。シルドには嫁も来ないのに」
「それに関して言えば、同感だ」
「あ、あの、ジークさんもソーマさんも言い過ぎじゃないでしょうか?」
ソーマにとってはワームの現状より、ガートランド商会のギムレットがフィーナに言い寄った方が驚きであり、眉間にはくっきりとしたしわが寄っている。
ジークは彼の言葉に大きく頷くとノエルは大きく肩を落とした。
「そんな事もないですよ。カインは次代を担う有能な人間ですから、彼と友好を結びたい人は多いですよ。エルト様の方にも婚約者にできないかと言う申し入れがあるようですけどね。エルト様の方で断ってくれているようです」
「本人はそんななか、学生時代からの付き合いがあるセスさんとくっ付いてるからな」
「本人がダメになったら、妹か? 節操無いよな」
ティミルは苦笑いを浮かべるがソーマは権力者の考えなどわかりたくないのか、乱暴に頭をかく。
「うむ。確かにそうとも言えるが、それも生き抜く手段の1つなのだ。自分の力だけで生きているお主にはわからないかも知れないがな」
「まぁ、おっさんはそう言うしかないないよな」
「そう言うわけではないが」
ラースは1つ咳をすると権力者達の考え理解して欲しいと言う。
その様子からは以前にカインとカルディナを婚約させようとした事から気まずさもあるようにも見える。
「あの、ソーマさん、それで」
「そうだな。依頼として受けても良いとは思うけどな。今、組んでる奴らは新人も多いから、下手な事は出来ないんだよ。権力争いに巻き込まれて命を落とすなんてばからしいからな」
ソーマの出す結論が気になるようでノエルは遠慮がちに聞く。
その問いにソーマは難しい表情をすると一緒に行動している新米冒険者達の身の安全が心配のようである。
「別に何かやってくれってわけじゃないだろ。お前は流れ者の冒険者だって有名なんだし、王都で知り合いだったみたいな感じで何食わぬ顔でおっさんの知り合い冒険者を演じておけよ。それに冒険者が集まってるなら、他に知り合いもいるだろ。何人か信頼できるヤツを物色して協力して貰えよ」
「確かにそう言う手段もあるな……待て。こんな厄介な話をホイホイと他の奴に言えるか?」
「ほら、この依頼を受ければ、オズフィム家とエルア家とつながりができるぞ。充分なメリットだろ? 新米だから心配じゃなくて、そっちの仲間にも聞いてみろよ。ダメなら、お前1人でだって動けるだろ」
ジークは紅茶をすすりながら、ソーマの判断に任せると言う。
ソーマは納得しかけるがかなりの問題であり、眉間にしわを寄せる。
危険はあるものの、それに見合うだけのものもあり、ジークは冒険者として生きるなら考える価値はあるため、仲間と考えるべきではないかと問う。
「それは一理あるんだけどな」
「新米だとは言え、常識も運動神経もあるんだろ。成長する余地があるなら、選択肢を消すのはお前じゃないだろ」
「まぁ、お前の周りはフィーナはバカだし、ノエルは運動神経なさそうだしな。後は猪突猛進に性格破綻者……俺の周りはまだましか?」
ジークの言い分には納得できるもののあり、頭をかくソーマ。
ジークの周囲にいる人間は欠点も多いがそれを有り余るほどの長所もある。
ソーマは今日、会った人間も含めてジークの周りにはアクの強い人間が多いとため息を吐く。
「わ、わたし、ちゃんと運動神経あります!?」
「ノエル、主張するのも良いけど、自分の正確な能力を把握してないといざって時に正確な判断ができないぞ。ジークの言う通りだ。最近は新米の世話をしすぎて大切なものを見落としてたな」
ソーマの言葉を否定しようと全力で声を上げるノエル。
しかし、ソーマは年下のノエルに言い聞かせるように言った後、自分もまだまだだと言いたいのか苦笑いを浮かべた。
「ラース様、この話はジオスに戻ってから、俺の仲間達に相談します。それでもよろしいでしょうか?」
「あぁ、構わん」
「それじゃあ、ジオスに戻るか?」
ソーマは表情を引き締めるとラースに向かって頭を下げる。
ラースは大きく頷くと話がまとまったと思ったジークはソーマに意見を求めた。
「そうだな。俺は構わないぞ」
「と言う事で、俺達は帰るからクーを放せ」
「イヤですわ」
ソーマはラース相手でも態度を変えないジークの姿に苦笑いを浮かべるもラースが何も言わない事もあり、何も言わない。
ジークはカルディナに向かい、クーを返せと言うが彼女はクーを抱きしめる手に力を込める。
「カルディナ様、クーちゃんの意思を無視するとまた嫌われますよ」
「今のその姿はおっさんと重なるぞ」
クーはジークの元に戻りたいようで彼女の腕の中で暴れており、ジークとノエルは苦笑いを浮かべながらカルディナの説得を開始する。
「……この中年と同じ? 仕方ありませんわ。クーちゃんに嫌われるのは私の本意ではありません」
「ジーク、それはいったいどう言う事だ?」
カルディナはジークの言葉で少し冷静になったようで名残惜しそうにクーをジークに返す。
そんな彼女の様子にティミルは苦笑いを浮かべるが、ラースは納得がいかないようでジークに聞く。
「いや、おっさんはカルディナ様を構い過ぎたから、嫌われたんだと言う事をこの間からカルディナ様に教え込んでいるんだ。本人の意思も尊重するべきだってな。おっさんもこの間、ティミル様に言われてただろ」
「そうですね」
「……」
ジークは悪びれることなく、ラースがカルディナに取って悪い見本になっていると言い切るとラースの顔は真っ赤に染まって行く。
ティミルはジークの意見に全面的に賛成なため、彼の意見を支持するとティミルには逆らえないのかラースは不機嫌そうな表情をするがそれ以上は何も言わない。