第526話
「このバカ」
「誰がバカよ!!」
舌打ちをするジーク。
その言葉にさらにフィーナの怒りのボルテージは上がり、彼女の攻撃は鋭さを増して行く。
「聞けって言ってるだろ。アーカスさんがそんな便利な物をくれるわけがないだろ。裏があるに決まってるだろ」
「うるさい。だいたい、私に実験台を押し付けたのは誰よ!!」
「……そんな事は忘れた」
ジークは攻撃を交わしながらフィーナに落ち着くように言うが、ブレスレットの実験台を押し付けた彼の言葉をフィーナは聞きいれるわけがない。
都合の悪い事を忘れたと言うジークの姿にフィーナのこめかみの青筋はくっきりと浮かぶ。
「……ジークのうかつさも相変わらずだな」
「彼女ができて変わるかとも思ったけどね」
「そうだ。ジークはどこでノエルを捕まえたんだ? ジオスじゃ、ノエルみたいな娘は嫁に来ないだろ?」
フィーナを説得できないジークの姿にカインとソーマの年長組はため息を吐く。
ソーマはふとジークとノエルの馴れ初めが気になったようであり、視線をノエルに移す。
「え、えーと、あの、そんな事より、ジークさんとフィーナさんをどうにかしてください!!」
「とりあえず、ノエルからは無理そうだから、後でジークに吐かせるか」
ノエルは恥ずかしいのか耳まで真っ赤にして誤魔化すように話を戻そうとする。
彼女の反応は見てて面白いが、今は聞けないと判断したようでジークをターゲットに変える。
「……何かイヤな予感がする」
「それはあんたが地面に這いつくばるって事よ!!」
ソーマの視線にジークの無駄な危機察知能力が動き始め、ジークは身体を震わせる。
その瞬間をフィーナは見逃さず、一気にジークとの距離を詰め、剣を振り下ろす。
「いや、お前の攻撃何か喰らう気ないから」
「何するのよ」
ジークは剣を交わし、目標を失った剣は地面に突き刺さった。
その時にできた隙を狙い、ジークは彼女の横腹に魔導銃の銃身を叩きつける。
突然の事にフィーナの顔は苦痛にゆがむものの負けず嫌いの彼女はジークを睨み返し、痛みに耐えながら、両手に力を込めて剣を引き抜こうとするがジークは既に次の行動に移っており、剣を握っていた彼女の手を下からけり上げた。
「……ここで1発」
「くっ」
フィーナの手は1度、剣から放れ、フィーナは直ぐに剣を握り直そうと手を伸ばした。
ジークの彼女の手から放れた剣へと魔導銃を撃つ、伸ばされた彼女の手をあざ笑うかのように剣は地面へと倒れ込む。
フィーナは追いかけるように剣へと手を伸ばそうとする。
剣に手を伸ばした事で前のめりになった彼女の足元をジークはすくい、彼女は地面に転がった。
ジークはフィーナと剣の距離を開けようと倒れ込んだ剣を蹴り飛ばした。
フィーナは自分を見下ろして立つ、ジークを睨みつけるも剣をどうにか取り戻そうと考えているようで剣の場所を確認する。
「これで終わりだな」
「勝手に勝ちを確認しないでくれる?」
「ちっ」
冷気の魔導銃の銃口を向けて言うジーク。
フィーナはジークを睨みつけると地面の砂をつかみ、ジークに向かいぶつける。
彼女の言葉の通り、ジークは勝ちを確信してしまったのか油断していたようで砂が目に入ってしまい、彼の視界は遮られる。
その隙にフィーナは一気に剣まで駆け出す。
「これで私の勝ちよ!?」
「……このタイミングで爆発か。日頃の行いの差か?」
「まぁ、フィーナだからね」
フィーナは剣をつかみ、勝利を確信したようで高笑いをあげた時、タイミング良く自爆の魔法が発動した。
ポンと言う小さな爆発音とともにフィーナは爆発に巻き込まれ、地面に倒れ込む。
その様子に日頃の彼女の行いのせいだとカインとソーマはため息を吐いた。
「……何があったんだ?」
「フィ、フィーナさん、大丈夫ですか?」
目が開いたジークは先ほどの音と地面に倒れ込んでいるフィーナを見ても状況は理解できておらず、首をひねる。
ノエルは爆発に一瞬、呆けていたが我に返ったようで慌ててフィーナに駆け寄ると治癒魔法の詠唱を始め出す。
「どう言う事だ?」
「あのブレスレットの宝玉には低位の自爆魔法が組み込まれていたんだよ」
「……どうして、そんなものを組み込んであるんだ?」
状況を理解しようとカインに聞くと、カインは苦笑いを浮かべて答える。
誰が考えても意味のない魔法が組み込まれている事にジークは理解できないようで制作者であるアーカスへと視線を向けた。
「自爆はロマンだ」
「……いや、意味がわからないから」
アーカスは迷う事なく、言い切るがジークは彼の言いたい事が理解できず、大きく肩を落とす。
「まぁ、自爆は置いておいて、それを外せば良い道具だよな。カイン、自爆魔法を解除できないか?」
「そうだね。少し研究してみる価値はあるよね。フィーナにはもったいないから、レイン、使う?」
ソーマは気絶しているフィーナからブレスレットを取り外すとカインに向かって軽く投げる。
カインは上手くキャッチすると興味深く魔導機器を覗き込むとフィーナよりレインの方が有効利用してくれると思ったようで声をかける。
「えーと、それを頂くと実験台になったフィーナさんに悪い気がするんですけど」
「貰っておけよ。ノエル、埃まみれだけど部屋に運ぶか?」
レインは自分は貰える立場ではないと苦笑いを浮かべるが、ジークもレインの方が持ち主にふさわしいと思ったようで彼に薦めるとノエルの下に向かい、気絶しているフィーナを背負うとどうするか聞く。
「とりあえず、着替えさせますから、浴場に運びましょう。身体を洗います。ミレットさん、手伝ってください」
「わかりました」
ノエルは部屋には運べないと判断し、フィーナの汚れを落とそうと思ったようでミレットに救援要請を出す。
ミレットは苦笑いを浮かべるとジークとノエルの後ろについて行き、その後をクーが付いて行く。
「……なぁ、今更だけど、あれ、ドラゴンの子供か?」
「そうだよ。ジークとノエルがこの間、卵を拾ったんだ……アーカスさんはドラゴンの子供に興味はないんですか?」
「ないな。長い時間を生きていれば、ドラゴンの子供くらい何度でも見る」
屋敷の中に入って行く4人と1匹にソーマは首をひねる。
カインは頷くとブレスレットの研究をしたくなっているようで屋敷に入って行こうとするがアーカスがクーを見ても何も興味を示さない事に疑問を持つ。
アーカスは興味がないようだが、返事をするとすでに目的を達したようで転移魔法の詠唱を始め、ジオスに戻ってしまう。
「一緒に戻れば良いのにな」
「まぁ、アーカスさんだし仕方ないね。中に戻るよ」
アーカスが先ほどまで立っていた場所を見てため息を吐くソーマ。
カインは苦笑いを浮かべるとこれ以上、中庭にいても仕方ないため、屋敷に入るように言う。