第524話
「本日、2回目のこの対戦ですが、どう見ますか?」
「そうですね。1戦目を見る限り、ジークの圧勝でしょう」
「そこ、うるさいわよ!!」
再び幕を開けたジーク対フィーナの対決に茶化すように言うカインとソーマ。
フィーナの耳に届いたようで彼女は青筋を立てて怒鳴りつける。
「フィーナ、よそ見をしてて良いのか?」
「へ? ジ、ジーク、汚いわよ!!」
「……余計な事を」
ソーマは苦笑いを浮かべるとフィーナに対戦相手であるジークに集中するように言う。
その時、ジークの魔導銃からフィーナの足元を狙い光の弾丸が3発放たれた。
フィーナはソーマの注意でジークの攻撃に気づき、後方に飛んで何とか攻撃をかわす。
目標を見失った光の弾丸は地面に当たり、土煙を上げる。
土煙が舞い、フィーナの視界は奪われるがその先からはジークのつぶやきが聞こえ、彼女は剣を握る手に力を込めた。
「こんな目くらまし、今の私には関係ないわ」
「それがフィーナの最後の言葉だった」
「黙りなさい。ジークをぶっ飛ばした後はあんたよ!!」
フィーナが口元を緩ませるとブレスレットの宝玉は強烈な光を発した。
光とともに彼女の剣の風の刃は膨れ上がり、彼女の髪をなびかせ始める。
それを茶化すようにカインは笑い、フィーナは大声を上げるが対決に真剣になってきているのか、土煙の向こうにいるジークから視線を逸らす事はない。
「うっとうしいわね」
「……やっぱり、風を飛ばせるか」
フィーナは剣を薙ぎ払うとまとっていた風の刃が飛び、土煙を吹き飛ばす。
土煙の先にはすでにジークの姿はなく、フィーナの横に回り込み、ブレスレットへ向けて冷気の弾丸を放つ。
「あんたの攻撃何か、効かないわ」
「……相性悪くてイヤになるな」
「ジ、ジークさん、どうして、突っ込むんですか!?」
最初の対決では冷気の魔導銃で捕えられた事もあり、警戒はしっかりとしていたようで待ち構えていたように剣を振った。
彼女の剣は火の精霊の祝福を受けており、冷気の弾丸は無力化されてしまう。
その様子にジークは舌打ちをすると魔導銃の攻撃範囲とは真逆であるはずの近距離戦闘に持ち込もうとしたようでフィーナに向かい一直線に駆け出す。
ノエルはジークの行動の意味がわからずに声を上げる。
「あれで正解だな」
「そうだね。それとこう言う時はノエルはやっぱり、ジークを応援するんだね。愛だね」
「そ、そう言う事じゃないです!?」
驚きの声を上げているノエルの隣でカインとソーマはジークの判断が正解だと言う。
カインに至ってはノエルをからかう事も忘れない。
ノエルは顔を真っ赤にして否定するが、その目は心配そうに接近戦を始めたジークに向けられている。
「クー?」
「ジークは接近戦もできるんですね。クーちゃんは邪魔しない」
騒ぎに気が付いたミレットがクーを抱えて中庭に顔を出した。
彼女は早朝の手合わせの時間は朝食を作っている事もあり、ジークの戦いに感心したように頷いた。
クーはジークが何をしているのか気になったようでミレットの腕から出て、ジークの元に行こうとするが彼女に首根っこを捕まれる。
「ジークはラース様と接近戦で戦って勝ち取ってるからね」
「あの時のラース様は流石に本気ではなかったですけどね」
「本気ではなかったにしてもオズフィム家の当主が負けたら不味いよな」
ルッケルでのジークとラースの戦いを思い出し、苦笑いを浮かべるカインとレイン。
ソーマは観客席からその対戦を見ていたようでため息を吐いた。
「ソーマはどうして参加しなかったんだい?」
「ルッケルに着いたら、もう参加を締め切ってたんだよ。精霊のマントか? 良い値で売れたんだろうな。あいつが優勝したんなら、俺なら余裕だな」
「お祭り騒ぎで本気が出なかった人間もいるけどね」
ソーマはイベントに参加していれば確実に優勝できた確信しているのか残念そうに肩を落とす。
カインはソーマの実力を認めながらも、そう簡単には行かないと笑う。
「それはあるかも知れないけど、将来性込みだろ? 今のままじゃ、全然、足りてないな」
「余裕だと思っていてもいざ、目の前に立って見ると怖いよ。あんな感じだけど2人とも覚悟を決めてるしね。ただ、1人は脳味噌が存在しないから、バカ同士の対決だとめっぽう強い」
「2人? 俺はフィーナを頭数に入れる気はないな。本能だけで向かってくるなら、魔族と変わらないだろ? どうかしたか?」
カインがジークの事を言っているのは簡単にわかるが、才能は認めるもののまだ実力が不足していると思っているようでソーマは頭をかく。
その言葉には魔族に偏見を持つ人間の悪意が含まれており、ノエルは彼の言葉に一瞬、身体を強張らせた。
彼女の変化に気づき、首をかしげて聞く。
「な、何でもないです」
「魔族が本能だけで動くとは限らないけどね。何より、フィーナと同程度に扱ったら、魔族に失礼じゃないか、きっと」
「……カイン、フィーナさんへの評価が低すぎませんか?」
ノエルは大きく首を横に振ると彼女は勝手に自爆しそうなため、カインがフォローに入る。
その言葉はフィーナを完全にバカにしており、レインは大きく肩を落とした。
「実際、バカにされる戦い方だろ。せっかく、アーカスさんがくれたブレスレットの能力を生かしきれてないしね」
「そうですね。ジークの方が押しているように見えますね」
「あのブレスレットは魔導機器だからね。魔力を流しこめなければただの装飾品」
カインはジークとフィーナを指差し言う。
2人の対決は完全に接近戦になっており、小周りの聞くジークの方が手数で押しているように見える。
フィーナはブレスレットに魔力を流す余裕もないのか、何とかジークの攻撃を交わすが攻撃に転じる事は出来ないようで舌打ちをしている。
戦いに詳しくないミレットの目にもジークの方が優勢に映っており、カインの言葉に頷いた。
「そんなつまらないものを作ると思うか?」
「……あ、あの。アーカスさん、ジークさんじゃないんですけど、酷くイヤな予感がするんですけど」
「カイン、あのブレスレットですけど、よ、よく見てください」
アーカスは口元を緩ませており、彼の表情にノエルの背中には冷たい汗が伝う。
セスはブレスレットの宝玉には魔力が注がれている事に気づく。
ブレスレットには小さな魔法陣が浮かび上がっており、その魔法陣にセスは何か気がついたようで顔を真っ青にしてカインの服を引っ張る。
「本当だね。でも、フィーナの魔力じゃ……アーカスさん、あれって、何のために付けたの?」
「自爆はロマンだろ?」
「自、自爆?」
カインはブレスレットに宿る魔力を識別しようとしたようであり、目を細めると彼の知識にある1つの魔法と重なった。
流石の彼も何が起きたかわからないようで眉間にしわを寄せてアーカスに問う。
アーカスは迷う事なく、『自爆』と言い、ノエルの顔は真っ青になって行く。