第521話
「ちっ」
大きく振り下ろした剣をジークは地面を転がり交わす。
剣は地面にぶつかり、大きく跳ね上がった。
ジークは地面に転がったまま、フィーナの背後に回り込むと追いかけるようにフィーナは振り返ろうとするが身体は直ぐに動かない。
「相変わらず、頭が悪くて助かるな」
「何ですって!!」
「はい。終了」
簡単な罠には引っ掛かったフィーナの頭部に銃口を押し当て、ジークはため息を吐いた。
背後からのジークの言葉にフィーナは怒りの声を上げるが、これ以上付き合う気のないジークは引鉄を引く。
フィーナは叫ぶ猶予もなく、頭部から凍りついて行き、ジークは魔導銃をホルダに戻す。
「ジークは元々、効率的だったけど、これはこれで鮮やかだな」
「完全にあの魔導銃はツッコミや捕縛用になってるよね」
「手は凍らないか? アーカスさん、今更ですけど、フィーナをどうするんですか?」
フィーナが凍りついた様子にソーマはため息を吐き、カインは苦笑いを浮かべた。
フィーナの両手は剣を握っているためか、完全に凍りつかず、ジークはフィーナの手から剣を取り上げるとアーカスに彼女の処置を聞く。
「一先ずは氷が溶けた時に逃げ出されても困るからな。これで手足を縛っておけ」
「はいはい」
「ジークさん、助けてください!?」
アーカスから縄を受け取るとジークはフィーナを縛りつける場所を探そうと周囲を見回し、庭の木の下に引きずって行く。
ノエルは相変わらず、セスに捕まったままであり、ジークが歩いて行く姿に置いて行かれると思ったのか泣きそうな声で助けを求める。
「こっちが終わったらな。と言うか、カイン。セスさんをどうにかしろよ。お前の管轄だろ」
「はいはい。セス、仕事もあるし、そろそろ行くよ」
「は、放しなさい!? 私にはノエルの頭を撫でまわすと言う使命が」
「ないから、アーカスさん、ソーマ、俺はまだやる事があるから、出かけるんでゆっくりして行ってください」
ノエルの声を聞きながらもジークはセスを引き離すのは自分では無理だと判断しているようで振り返る事なく、カインに言う。
カインは苦笑いを浮かべるとセスの首根っこをつかみ、セスをノエルから引きはがす。
セスはノエルに再度、抱きつこうとするが、カインは有無を言わせずに彼女を引きずって行く。
「良し、これで良いな」
「ジーク、フィーナ、ドウスル?」
「俺も知らない。アーカスさんに任せるだけ」
フィーナを木に縛りつけるとゼイはジークに何をする気かと聞く。
しかし、ジーク自身、アーカスの実験内容を聞かされておらず、首をひねった。
「一先ずは、このままでは何もできんからな。しばらくは放置だ」
「放置か? ミレットさんでも手伝ってくるか?」
「ジーク、ちょっと待て。セスって言ったか? あの娘はどうしてカインの管轄なんだ?」
アーカスは持ってきた荷物から魔導書を取り出すと庭にあるイスに腰をおろした。
ジークは頭をかきながら屋敷の中に入って行こうとする。
ソーマは先ほどのジークの言葉が気になったようでジークを呼び止めた。
「ジークさん、ミレットさんのお手伝いはわたしがしてきます。ゼイさんも手伝ってください。ジークさんはソーマさんを案内してきて下さい」
「ワカッタ」
ノエルはゼイにかかっている魔法の効果が切れ、彼女がゴブリンの姿に戻っている事に気が付き、ソーマから彼女を隠すように立つと背中を押して逃げるように屋敷に入って行く。
「ソーマ、ちょっと歩くぞ。俺は行かないといけない場所があるから」
「あぁ。せっかく、フォルムまできたんだ。あいつらも連れてきて、こっちで仕事ってのも良いかもしれないから、冒険者の店にも行きたいからな」
「了解。アーカスさん、ちょっと出てきて来ますんで」
ノエルが慌てている様子にジークは気が付いたようでゼイから視線がそれるようにソーマに声をかけた。
ソーマはジークの持つ転移の魔導機器を利用しようと思ったようで素直に頷くと目的地を指定する。
ジークは頷くとアーカスに声をかけるが彼が返事する事はなく、2人でフォルムの街に向かって歩き出す。
「あいつ、本当に領主なのか?」
「本当、結構、精力的にいろいろやってるぞ。よくわからないけど住みやすいな。ジオスの方も考えてくれたら良いのに」
フォルムの街中は田舎ではあるが道もしっかりと整備されており、人で溢れている。
以前、フォルムに来た時とかなり違う印象を受けたのか、ソーマは首をひねる。
ジークはカインやセスの政策を理解しきれないが、実際、フォルムは住みやすいようで苦笑いを浮かべている。
「いや、ジオスはここまでする必要ないだろ」
「その通りなんだけど、言われるとムカつくな」
ソーマにジオスをバカにされたように感じたようで表情をしかめるとソーマは彼の様子に苦笑いを浮かべた。
「これだけ、人がいるって事は冒険者の店にも仕事があるんだろうな」
「それはわからない。俺は冒険者の店に行かないからな。もしかしたら、フィーナの方が詳しいかもしれない」
「それはない」
田舎町とは言え、活気がある様子にソーマは良い仕事がある事を期待するがジークは良くわからないと首を横に振る。
フォルムの周囲の探索を冒険者に手伝って貰う時もあり、ジークはフィーナの方が詳しいと言うがソーマは直ぐに否定する。
「フィーナさんは冒険者のお店に顔を出してますよ」
「レイン、お疲れ」
「……はい」
その時、2人を見つけたレインが声をかけた。
彼のそばにはフォルムの女性が数名立っており、レインは彼女達から逃げるように2人に駆け寄ってくる。
「……レイン=ファクト? ファクト家って聖騎士も輩出してる名門だろ。そう言えば、あのセスって娘もコーラッドって言ってたよな?」
「ソーマ=ゼリグリム? ジオスは本当にただの田舎なんですか?」
「何だ。知ってるのか?」
面識のない2人にジークはお互いを紹介するとレインもソーマも何か考える事があるのか眉間にしわを寄せた。
ファクト家が名門だとは聞いているため、ソーマの反応は理解できたようだがなぜ、レインが首を傾げているのかわからないようである。