第52話
「いらっしゃいませ」
「その変わり身は同じ商売人として尊敬するな」
ジークはドアが開いた瞬間に、シルドをお客として笑顔で向かいいれ、シルドはジークの様子に苦笑いを浮かべる。
「シルドさん、こんなところに何のよう?」
「あの。フィーナさん、こんなところって言うのはどうかと思いますけど」
「まぁ、ジークに仕事を依頼しにきたんだ」
フィーナはシルドが店に来た理由がわからずに首をかしげ、ノエルは彼女の様子に苦笑いを浮かべるとシルドは口元を緩ませた。
「お断りします!!」
「あ、あの。ジークさん、話も聞かずに断るのはどうかと思いますけど」
ジークはシルドの表情にいやな予感がしたようで話も聞かずに断ろうとするが、ノエルはどうして良いのかわからずにおろおろとしながら、ジークに話を聞くように言う。
「ノエル、言っておく。基本的にシルドさんがこの顔をしている時は厄介事を持ってきている時だ。それも俺がフィーナと同じくらいに関わり合いたくない人間関係での事だ」
「ジーク、あんた、それってどう言う事よ!!」
「いや、金も払わずに店の商品を持って行く人間には正当な評価だろ」
ジークはシルドの話を聞きたくない理由をフィーナを引き合いにして話し、フィーナはジークの言葉に声をあげる。しかし、小さな頃からのジークとフィーナを知っているシルドはジークの評価が正しいと頷く。
「まぁ、ジークの予想した通り、俺からの仕事の依頼はアーカスのところに行って来て欲しいんだ」
「当然、却下です」
シルドはジークが自分が持ってきた仕事の内容を理解していると判断して話を続けようとするが、ジークは笑顔で却下しようとする。
「あの。アーカスさんって?」
「あぁ。ノエルは面識ないのか? 『アーカス=フィルティナ』、村から離れたところに1人で住んでいるハーフエルフなんだけど、魔導機器や古代魔法に妙に詳しい人でな。うちで取り扱っている消耗品の魔導機器を作って貰ってるんだ。ジークの魔導銃を作った本人でもなる」
「その人ってさっき、話に出てきた人ですよね?」
ノエルはシルドの話で『アーカス=フィルティナ』と言う人物がジークとフィーナの苦手としている人物だと気づくが、2人は関わり合いたくないようでノエルから視線を逸らした。
「あの。そんなに苦手なんですか?」
「まぁ、苦手にしている分、その反応を面白がっているように見えるけどな」
ノエルは2人の反応に苦笑いを浮かべるとシルドはため息を吐く。
「ジーク、お前が嫌がろうとお前に依頼したからな。だいたい、アーカスがまともに取り合うのはお前くらいなんだ。他の冒険者に頼んでも問残払いになるから、わざわざ、お前に頼みにきてるんだからな」
「だとしても……ほら、俺、魔導銃が壊れて遠出は危険だし」
「魔導銃が壊れたなら、行かないといけないだろ。一緒に済ませてこい。任せたからな」
ジークは適当な言い訳をして逃げようとするが、当然、逃げられるわけはなく、シルドはジークの返事を聞かずに店を出て行ってしまう。
「……」
「あの。ジークさん、大丈夫ですか?」
ジークは増えた厄介事に大きく肩を落とすとノエルは心配そうに彼に近寄る。