第518話
「ようやく、抜けた」
「お疲れさまです。ジークさん」
「……よく考えられてますね」
アーカスの家に向かったジーク達だが途中の罠は健在であり、全ての罠を解除したジークの顔には疲労の色が見える。
ノエルは心配するようにジークに声をかけるが、ミレットは何かあるのか通ってきた道を見て難しい表情をしている。
「どうかしましたか?」
「いえ、何でもありません」
「そうですか?」
ミレットの様子に気が付いたジークだが、ミレットは表情を和らげて何もないと首を横に振った。
ジークはたまに見せるミレットの表情に何か感じながらも深入りしてはいけないのかと思っているようで頭をかく。
「ジークはもう少し、踏みこんでも良い気がしますね」
「何ですか?」
「いえ、こっちの話です……気を抜きましたね」
「ジ、ジークさん、だ、大丈夫ですか!?」
ミレットの目にはジークが村の出身者とノエル以外にはどこか距離があるように見えており、小さくため息を吐いた。
ジークはミレットの様子に何か納得がいかない物を感じながらもそれ以上は何か言う事もなく、アーカスの家のドアに手を伸ばした時、彼の身体を衝撃が突き抜ける。
ジークは衝撃に膝から崩れ落ち、ノエルは慌ててジークに駆け寄るがミレットはノエルの腕をつかむ。
「どうして止めるんですか!?」
「ノエルがこのまま行ったら、二次被害ですから、ジーク、大丈夫ですか?」
ジークの手は未だにドアに触れたままであり、ミレットはノエルをジークと同じ目に遭わせるわけにはいかないと思っており、彼女を引き止めるとジークに意識があるか確かめる。
「……あぁ、油断した」
「よ、良かったです」
「行くか!?」
衝撃は単発だったようでジークはふらふらと立ちあがり、ノエルは安心したように胸をなで下ろした。
ジークはこれで罠は最後だと思ったようでドアを開けて、家に入った瞬間、天井からタライが落下し、彼の頭に直撃をする。
「……意地が悪い罠ですね」
「最近は慣れてきた感があったからな。初心に帰ろうと思ってな」
「アーカスさん、どうして後ろから出てくるんですか!?」
頭を押さえてもだえるジークと彼に駆け寄るノエルの姿にミレットは眉間にしわを寄せると彼女の背後からアーカスが声をかけた。
その声にノエルは驚きの声を上げるがアーカスは気にする事無く、家の奥に入って行く。
「……凄いですね」
「そうですか? 使い方も良くわからないものばかりだし、放っておくとゴミ屋敷になりますよ」
アーカスが研究室に入ってしまったため、復活したジークは魔導機器の物色を開始する。
ミレットは見慣れない魔導機器に驚きの声を上げるが、ジークは部屋の片づけを並行して行ってくれているノエルへと視線を向けて苦笑いを浮かべた。
「と言うか、アーカスさん、あまり屋敷から出てこないのにどうやって魔導機器の材料を集めてるんだ?」
「そう言えば、そうですね。いつもここにくると魔導機器がたくさん置いてありますけど、材料ってどうしてるんですかね?」
「ジークは昔からここにきてるのに今更ですね」
ジークは頭に1つの疑問がよぎり、首を傾げる。
ノエルも言われて初めて気が付いたようで首を傾げるとミレットは呆れたのか小さくため息を吐いた。
「……転移魔法があればある程度は融通がつく」
「そう言えばそうですね」
その時、ドアが開きアーカスが顔を見せる。
彼の表情はいつもと変わらず、無表情だが様子からは呆れているのが解り、ジークは気まずそうに頭をかいた。
「アーカスさん、何かあったんですか?」
「今日はフィーナはいないのか?」
「今更ですね。あいつはフォルムにいますよ」
アーカスはフィーナに何か試したい事があったようであり、彼女を探すが今回はフィーナはいないため、ジークはため息を吐く。
「ふむ。それなら、ジークで良いか?」
「いや、遠慮します」
「そうか。それなら、フォルムまで連れて行け」
アーカスはフィーナ不在につまらなそうに舌打ちをするとフィーナの代わりにジークで試そうとしたようでが、ジークは当然のように却下する。
アーカスは実験はしたいようでフォルムに足を運ぶと言い、ジークはどうするか考えているようで頭をかいた。
「あの。フィーナさんの意思は?」
「何の問題もない」
「ノエル、気にするな。フィーナなら問題ない。別にかまわないですけど、これをシルドさんの店に持って行かないといけないから、村によりますよ」
ノエルはフィーナの身の安全を心配するが、ジークもアーカスも彼女の意思を尊重する気はない。
「それくらいはかまわん」
「あの、良いんですかね?」
「ど、どうでしょう?」
フィーナの人権を無視する2人の様子にノエルはミレットに助けを求めるが、彼女はアーカスがどう言う人間なのかわからないようで苦笑いを浮かべる事しかできない。
しかし、結論を出したジークとアーカスの動きは速く、見る見るうちに準備が整って行く。
「アーカスさんが村に降りてくるなんて珍しいな」
「そう言う日もあるんですよ」
「……わかってるよ」
準備を終えるとジークの持つ魔導機器でジオスにある店に戻る。
そのまま、4人で再度、シルドの店に顔を出すがシルドはアーカスが村にきた事に苦笑いを浮かべた。
ジークはため息を吐くと持ってきた魔導機器をカウンターに下ろし、対価を渡せと言いたいのか手を出す。
シルドはアーカスの話を振って誤魔化す気だったのか舌打ちをすると彼の掌に硬貨を置く。
その金額は子供のお使い程度だが昔からの事でもあり、ジークは何も言わずに硬貨を懐にしまう。
「相変わらず、ぼったくってるな」
「余計な事を言うな」
「アーカスさんの家に行って魔導機器貰ってくるなんて、俺でもしんどいぞ。ただ、勉強にはなるけどな」
その姿を見て、ソーマはため息を吐く。
ソーマは何度かアーカスの家に向かう罠解除に挑んだ事があるようで頭をかくとテーブル席で盛り上がっている新米冒険者達へと視線を向ける。
「止めておけ。下手したら全滅するぞ」
「わかってる。まだ早い」
ジークはため息を吐きながら首を横に振るとソーマはつられるようにため息を吐いた。




