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勇者の息子と魔王の娘?  作者: まあ
カインの罠
516/953

第516話

「客、いないな」


「わるかったな。だいたい、誰のせいだと思ってる?」


ノエルの提案で知り合いの冒険者達にワームに活動拠点を移して欲しいと依頼してから数日が経った頃、ジークは薬品の補充のためにシルドの店に顔を出す。

冒険者の店に関わらず、客は村の年寄りしかいない。


「ジークさん、そうですよ。みなさん、わたし達のお願いを聞いてくれたんですから」


「頼んでおいて言うのもなんだけど、役に立つのか?」


「目的が違うんですから、どちらでも良いんじゃないですか?」


店に冒険者がいなくなった事でシルドに申し訳ない思いがあるノエルはシルドの肩を持つ。

しかし、ジークはジオスに駐留している冒険者達の能力を疑っているため、ため息を吐きながら運んできた治療薬をカウンターの前に置く。

今回はミレットも同行しており、ジークの言葉に苦笑いを浮かべている。


「ジーク、ノエル、フィーナに続いて、3人目か?」


「違う。わけのわからない事を言うな」


シルドは初めて見るミレットの顔に彼をからかうように笑う。

その言葉が聞こえた村の年寄り連中はわざとジークに聞こえるような声で彼を非難するように話し始め、言われのない疑いにジークは大きく肩を落とす。


「へぇ、その年で医者ね」


「まだまだ、勉強する事はたくさんありますけどね」


預かった治療薬を棚に並べるシルドだが、ノエルからミレットが医者だと聞き、驚きを隠せないようである。

ミレットは少し気恥ずかしいのか困ったように笑うが、ミレットが医者だと聞き、年寄り連中はジーク達に聞こえるような大きな声で腰や膝の痛みを訴え出す。


「ああ言ってるし、少し診てやってくれないか?」


「そのつもりで来たんですけど、まぁ、診察するのはジークですけどね」


「どう言う事だ?」


シルドは耳に届くわざとらしい言葉にため息を吐き、ミレットに診察を頼む。

元々、ミレットはそのためにジオスに訪れたようで笑顔を見せるが彼女の言葉には続きがあり、シルドは眉間にしわを寄せてジークへと視線を向け、年寄り連中はジークより、ミレットの方が良いと文句を垂れる。


「……俺だと不安か?」


「ジークさん、落ち着いてください」


「そうですよ。物珍しいから私が良いと言ってるだけですから、心配しなくてもジークはしっかりと成長してますよ」


周囲の反応に眉間にしわを寄せるジーク。

ノエルはジークを落ち着かせようと声をかけ、ミレットは2人の様子が正しいのかくすくすと笑っている。


「しっかりと成長?」


「ジークは今、薬学だけじゃなく、しっかりと医学こっちの方も勉強中ですから」


「さっさと並べ」


ジークが医師の勉強をしている事を知らないシルドは首を傾げているが、ジークは店の一画で年寄り連中の診察を始め出す。

ジークは薬を調合するために村の人間を診察していたため、年寄り連中は文句を垂れながらも身体の不調はあるようでジークの前に並んで行く。

ミレットはジークが誤診をしないように彼の後ろで診察風景を眺めている。


「大丈夫なのか?」


「大丈夫です。今、フォルムで猛勉強中ですから」


ジークが医師の勉強をしている事が信じられないようで眉間にしわを寄せるシルド。

ノエルははっきりとジークなら問題ないと言い切り、ノエルが自信を持って言った事もあり、シルドはくすりと笑うと彼女の前に紅茶を置く。


「ありがとうございます」


「しかし、ジークが医者の勉強か? まぁ、良い事なのか? ノエル、もう1人は相変わらずか?」


シルドはカップを洗いながら診察を続けているジークの姿に彼の成長を嬉しく思っているようで笑顔を見せるものの、ジークが成長している分、フィーナが気になったようでその表情は一気に曇り始める。


「だ、大丈夫です。フィーナさんもしっかりと成長しています」


「ノエル、今度は声が裏返っているぞ。まったく、フィーナは相変わらずか? まぁ、カインがいる分、少しはまともになる事を祈ろう」


「あれ? いつにもまして人がいねえな。シルド、店は大丈夫なのか?」


ノエルはシルドの心配を直ぐに否定しようとする。

慌てたためか声は裏返ってしまい、シルドは彼女の様子を見てからかうように笑った時、ドアに取りつけられている来客を知らせるベルが鳴る。

ベルの音にノエルとシルドが入口へと視線を向けると5人の冒険者が顔を覗かせており、5人のリーダーなのか先頭で入ってきたシルドと男性がカウンターの中のシルドに聞く。


「何の問題もない。客が来なくても食材に困る事はないからな」


「流石、田舎。食料自給率が高い」


「お水、出してきます」


男性の言葉にシルドは軽口で返すと冒険者達は男性を抜かしてテーブル席に座り、男性だけがカウンター席に座る。

2人の様子から男性はシルドと懇意な人間のように見え、ノエルは男性をシルドに任せると当然のようにテーブル席に運んで行く。


「まぁ、良いか?」


「人を雇うだけの収入あったか?」


「うちの従業員じゃない。ジークの嫁だ。ソーマ、お前は会った事がなかったか?」


ノエルが自主的に手伝いに行った姿にシルドは苦笑いを浮かべる。

男性はノエルを従業員だと思ったようで首をひねるが、シルドは彼の前にカップを置くと笑いながらノエルの事を簡単に説明する。


「嫁? あいつ、生意気に、それでその旦那はどうしたんだ?」


「あそこで年寄り連中の相手をしてる。それより、何を食うんだ?」


「そうだな……取りあえず、いつもので良い」


シルドの説明は誇張があるが男性はあまり気にした様子もなくジークの事を聞き、シルドはジークを1度、指差した後、男性に注文するように言う。

男性は視線をメニューに移し、考え込むようなしぐさをするものの、考えるのが面倒になったのかここに来た時の定番のものを注文する。


「ノエルの事を知らないって事は、今回は長い間、空けてたな? あいつらとは長いのか?」


「それなりにな。でも、ルッケルまでは来てたぞ。あの時はイベントと重なってジルの店はいっぱいだったから他の店に泊まったけどな」


「その時になんで顔を出さないんだ?」


注文を聞き、料理を始めるシルドは男性がノエルと面識のない事に首をひねった。

男性は少し考えて改めてジオスに来てなかった事を思い出したようで苦笑いを浮かべる。

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