第515話
「……ガートランド商会はフォルムにも触手を伸ばしてきたか?」
「ワームも大変そうだな」
ジークはフォルムにガートランド商会の後継者であるステムが現れた事を説明する。
ラースは状況を精査するようにつぶやくとジークは彼の様子とカインやシュミットからガートランド商会のやり口を聞いている事もあり、ラースに負担がかかっている事に気が付く。
「以前はガートランド商会の息のかかったものは少なかったが、最近は増えてきているようでな。無駄な騒ぎを起こしている者達が多く、駐留している兵士達が騒ぎを聞きつけてその場に行ってもすでにその者達はいなくなっている。もしくはギムレット殿の息がかかった兵士達がその場を収めている」
「……まるで、最初から騒ぎが起こるのを知っているって感じか?」
「うむ。それにその騒ぎを元にわざとらしくワームを統治するのはレギアスでは力不足だと風潮しておってな」
ガートランド商会はわずかなほころびを作ろうとしているのか、金に汚い冒険者を雇いレギアスの評判を落とそうとしているようである。
ワームでのレギアスの人気は高く、風潮を信じる者は少ないようだが、それでも噂と言うものには住民達を不安にさせる力はあるようでラースの顔は険しい。
「表だって、何かをするわけにはいかないんだよな?」
「元々、レギアス自身、懇意にしている冒険者もいない事もあり、冒険者の店にも関わりが薄い。今、レギアスが冒険者と会うとそれにもおかしな噂が立ちそうでな」
「治安を守るための兵士も不足がちですからね。王都から訓練を終えた兵士や騎士達の増援も考えましたけど、ワームは権力者が合議制で方向を決めていますから、下手な手を打ってしまえば、権力者がまとまらなくなってしまいます」
下手な手を打った時はレギアスの求心力の低下につながる事は明白であり、ラースとティミルは手詰まり感があるのかため息を吐く。
「冒険者ならカインが動いてくれないかな? あいつ、フィリム先生をワームに連れてきた時に騒ぎが起きそうだって言ってたし、なじみの店もあるような事も言ってたし」
「あ、あの、ジークさん、シルドさんのお店かジルさんのお店に集まっている皆さんに頼めませんかね? 今はルッケルとワームの街道整備をしているわけですし、ジオスやルッケルから冒険者が流れてきても問題ありませんし」
「……いや、ジルさんの店はまだしも、ジオスにいる奴らはポンコツだぞ。それにルッケルの毒ガスの時に冒険者が頼りにならない奴が多いのも見ただろ?」
カイン任せの作戦を立てようとするジークにノエルは普段、世話になっている冒険者達に頼めるのではないかと言う。
彼女の言葉でジークは自分達にもそれなりに冒険者の伝手があった事を思い出すが、彼の知っている冒険者達はあまり頼りになりそうにないのか肩を落とす。
「そ、そんな事はないですよ。確かに毒ガス騒ぎの時はルッケルから直ぐにいなくなった人達もいますけど、協力してくれた人達だってたくさんいたじゃないですか」
「けどな。いきなり、冒険者が増えたら、流石にレギアス様の父親にだって気付かれるだろ?」
ノエルは懇意にしている冒険者達を信じたいようであり、反論するがジークはジオス、ルッケル方面から冒険者が大量に流れるのは不自然だと言う。
「いえ、そんな事はないですね。ジークはジオスの冒険者達は質が低いと思っているでしょうが、冒険者が増えれば何かが起きるかも知れません」
「そ、そうですよね」
2人の会話を聞きながら、ティミルはノエルの提案を使えると思ったようで表情を引き締めた。
意外なところから賛同を得た事にノエルは驚きの表情を隠せないようだが、嬉しくなったのか笑顔で頷く。
「何か?」
「冒険者が増えると言う事はそれぞれ違う考えの者が増えると言う事だからな。ルッケルの毒ガス騒ぎの事は聞いている。それにあの時には多くの者が自主的に治安維持に力を貸してくれたのだろう?」
「そうです。ジルさんのお店の人達はたくさん、手伝ってくれたじゃないですか?」
意味がわからずに首を傾げるジークだが、ラースはティミルの考えを理解したようでルッケルに集まる冒険者達には見込みがあると頷いた。
ノエルは世話になっている冒険者達を信じたいようでラースの言葉に大きく頷き、ジークにも賛同を求める。
「ジルさんの店に集まる人達はおかしな事をすると2度と店の敷居をまたがせないって言われてるからな」
「冒険者はガートランド商会が増やしているんです。冒険者が増えていると聞けば、ワームに儲け話がると思う冒険者も自然に増えます。ルッケルやジオスからの冒険者が増えても不思議ではありません」
ジルの性格を思い出し苦笑いを浮かべるジーク。
ティミルは故意的にガートランド商会が冒険者を増やしているなら、こちらが故意的に冒険者を増やしても問題ないと笑う。
「小僧、ノエル、カインが懇意にしている冒険者の店があるのだろう? それを聞いて、お主の伝手を使い冒険者をワームに送ってくれ」
「わかりました」
「聞いては見るけど、期待はしないでくれよ」
ラースは何もしないよりはノエルの意見を聞き入れようと思ったようでジークとノエルに頼み込む。
ノエルは大きく頷くがジークは不安要素が大きいため、乗り気ではないのか頭をかいている。
「とりあえず、おっさん、アズさんに渡す報告書をくれ」
「うむ。少し待っていてくれ」
ジークは話がまとまった事もあり、ラースに報告書を要求する。
変わらないジークの態度にラースは苦笑いを浮かべるものの、特に気にする事無く、席を立つと応接室を出て行く。
「今更だけど、本当に娘の事しか頭になかったんだな。普通はここに報告書を持って来るだろ」
「あれでも良いところがあるんですよ」
ラースの背中を見送りながら、ジークはため息を吐いた。
彼の言葉にティミルはくすくすと笑いながら、ラースをフォローするように言う。
ジークとノエルもラースとの付き合いは長くなっているため、充分に心得ており、その言葉に苦笑いを浮かべる。