第513話
「それはお兄さんとしては安心ですね」
「そうだね。アンリは反対するような子ではないけど、上手く行っていてくれてほっとしてるよ」
「こっちの兄妹は仲が良くて良いな」
ノエルはほっと胸をなで下ろし、エルトも安心したと笑う。
その様子にジークはカインとセスがまとまろうとしていた時に猛反対をしていたフィーナを思い出して大きく肩を落とす。
「フィーナは素直じゃないだけだと思うけどね」
「そうですよ。あの後は何も言ってないじゃないですか」
「どうして、ノエルがフォローしようとすると逆にダメに思えるんだろうね」
ノエルはフィーナを全力でフォローしようとするが、彼女のフォローはフォローになっていない事が多いため、エルトは苦笑いを浮かべている。
「そ、そんな事はないです。そうですよね。ジークさん」
「同意を求められても困る」
「どうしてですか!?」
ジークを味方に引き込もうとするノエルだが、ジークは首を横に振ると彼女はショックのようで声をあげた。
彼女の様子にジークとエルトは顔を合わせて笑う。
「フォルムもいつも通りみたいだね。そっちの情報が入ってこないから、話が聞けるとホッとするね」
「あのメンバーじゃ仕方ないだろ……あ、そう言えば、レインに話をした」
「そうなの? レインはどんな反応してた?」
いつも通りのフォルムの様子にエルトは安心したようで笑顔を見せる。
釣られるように笑うジークだが、ノエル達が魔族だと言う事をレインに話した事を思い出す。
エルトは生真面目なレインがどんな反応してか気になったようで席を乗り出して聞く。
「それは驚いてたけど……ノエルがドレイクだって信じて貰えなかった。と言うか、きっとノエルの事は今でも信じてないと思う」
「だろうね」
「ど、どうして、エルト様も納得するんですか? わたし、ちゃんとドレイクですよ」
レインは話を聞いても彼の知識のドレイクとノエルは相反するとこにあるため、未だに疑っているのではないかと言うのがジークの見解である。
エルトもノエルと言う人物をよく見ているためか、レインの考えも理解できるようで苦笑いを浮かべた。
しかし、納得のいかないのはノエルであり、不満なのかジークの服を引っ張る。
「別にジークも私もノエルがドレイクだって事を疑ってるわけではないよ。ただ、これまでの印象がね」
「まったくだ。レイン以外も聞いたら似たような反応をするだろうな。これからはきっとそう言うのが増えてくるだろうしな」
「そ、そんな事ないです」
ジークとエルトは少しずつでも同志を増やしていく必要があるため、真実を話した時の事を目に浮かべて笑う。
「でも、フォルムはそれなりに上手くやってるけど、エルト王子の方はどうなんだ? 正直、エルト王子の考えを知っている人間ってカイン以外にいたのか?」
「そうだよね。ジーク達から見れば気になるよね。どこから話せば良いかな?」
ジークはエルト側の事が気になったようであり、エルトが自分達と同じ思いを描いた時にカイン以外の賛同者がいたのかと聞く。
エルトはジーク達にその事を話した事はなかったと思ったようで1度、頷きはするものの話す内容を考えないといけないと考えているのかその表情は険しい。
「まだ、言えないか?」
「うーん。別に話しても良いかな? とは思うんだけど、話をするとジークはまだしもノエルがいろいろと口を滑らしたりしそうだからね」
「それに関して言うと自信がないな」
彼の表情に首を傾げるジーク。
エルトはノエルの顔を見て大きく肩を落とす。
エルトの様子から見ても重要な話が混じっているのは予測でき、ジークはどうするべきかと頭をかく。
「ま、待ってください。どうして、わたしをバカな子にしたがるんですか!?」
「いや、ノエルはバカな子じゃなくて、残念な子だからね」
「ざ、残念ってどう言う意味ですか!? ジークさん、どうして、笑ってるんですか!?」
ノエルは2人の評価に納得がいかなかったようで声を上げるが、エルトは彼女をからかうように笑う。
からかわれているのにも気づかないノエルはジークに否定して欲しいようだがジークは笑いをかみ殺しており、ノエルは半泣きで声をあげた。
「もう少し時間をくれるかな? カインとも相談したいし、ちょっと、ノエルは心配だから」
「とりあえず、エルト王子の周りに他にも協力者がいるって事がわかっただけでも良しとするよ」
「いや、カインと相談したいって言ってるんだけど」
エルトは時間が欲しいと言い、ジークは無理をする必要はないかと苦笑いを浮かべる。
しかし、エルトの言いたい事は自分をフォルムに連れて行けと言う事であり、彼は笑顔でジークの肩をつかむ。
「そろそろ、王城に戻れよ。シュミット様もエルト王子を探すのに時間を取られるわけにもいかないだろ」
「そうですよ。エルト様にだってやる事があるんですから、わたし達もそろそろ、クーちゃんを迎えに行かないといけませんし」
「そうだな。おっさんの娘に預けておくのも不安だからな。クーがいると代行の仕事を放り投げそうだし」
ジークはエルトをフォルムに連れて行って面倒なことになるのは遠慮したいため、王城に戻るように言い、ノエルも声を出して賛成する。
ジークとノエルは席を立つとエルトにも屋敷を出るように促す。
「いやいや、カインとの相談も大切だよ」
「突然、こられても領主様は忙しいんでそんなヒマはありません」
「そんな事を言わないで、ノエルもカインとの情報交換は必要だと思うよね?」
エルトはフォルムに行きたいようで2人を説得しようとするが、ジークが聞く耳を持つわけもなく、屋敷の外に出ようとエルトの背中を押す。
エルトは屋敷の外に出されるとカギをかけるノエルから崩そうとする。
「……まずは王城に戻っていただく事が最重要だと思います」
「へ?」
「タイミング、良いな」
その時、エルトの背後に落ち着いた口調で王城に戻る事を促す声が聞こえる。
その声は落ち着いてはいるもののかなり怒気が含まれており、エルトは顔を引きつらせながら後方へと振り返った。
そこには額に青筋を浮かべたシュミットと彼の護衛の兵士が立っており、ジークは苦笑いを浮かべる。
「ジーク、ノエル、迷惑をかけたようだな。エルト様は私が引き取ろう」
「はい。お願いします」
「ジーク、ノエル、私を裏切ったね」
シュミットはエルトの腕をしっかりとつかむとジークとノエルに頭を下げるとエルトを引っ張って行く。
2人はその様子に苦笑いを浮かべるもシュミットが全面的に正しいため、快く見送るが納得のいかないエルトは声を上げる。
しかし、彼の味方をする者は1人もおらず、彼の声はむなしく響くだけである。