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勇者の息子と魔王の娘?  作者: まあ
カインの罠
512/953

第512話

「それじゃあ、少しの間、クーの事を頼むぞ。俺とノエルは買い物をしてくるから、クーも大人しくしてるんだぞ」


「わかっていますわ」


「クー」


ティミルから頼み事もあり、クーを連れて王都に来たジークとノエル。

2人はオズフィムの屋敷を訪れるとすでになれない仕事にカルディナの欝憤は溜まっており、ジークとノエルに当たろうとしたのだが、クーがいる事に気づき直ぐに表情をだらしないくらいに緩ませた。

彼女の様子に息抜きができていると判断したジークは彼女にクーを預けてフォルムでは手に入らない物を買いに屋敷を後にする。


「カルディナ様、大丈夫ですかね?」


「大丈夫だろ。ティミル様がいないって事は元々、約束を取り付けているようなものはないだろうし、あの人、とぼけてるように見せてかなりのキレ者だろ。ぜったいにおっさん、尻に敷かれてるぞ」


商店街を歩くもノエルはカルディナが心配なのか不安そうな表情で聞く。

ジークは特に心配はしていないのか店頭に並ぶ商品を手に取りながら答えるとティミルの手のひらで転がされている事を少し面白くないと思ったようで顔を歪ませた。


「ティミルは確かにキレ者って感じがするね」


「……頼むから、毎度、毎度、どこからともなく現れないでくれないか? 心臓に悪いから」


「エ、エ……今日はどうしたんですか?」


その時、背後から声が聞こえ、声の主がジークの肩を軽く叩く。

声の主に心当たりがあり、大きく肩を落とすジーク。

エルトは名前を叫ばれるのは不味いため、ノエルの口を押さえると彼女はこくこくと頷いた後、エルトにどうしたのかと聞く。


「息抜き?」


「……息抜きをしないといけないのは逃げられて胃を痛めてるシュミット様だろうな」


エルトはいつものように王城を抜け出してきたようであり、ジークは今、エルトを探して歩き回っているであろうシュミットや兵士達の事が気になったようで大きく肩を落とした。


「それで、2人は王都まで出てきて何をしてるのかな? せっかくだから、カインの屋敷でお茶でも飲みながら聞かせてよ」


「え!? え!? ど、どうしたんですか!? ど、どうして、引っ張るんですか!?」


「……拒否権はないんだろうな」


エルトは人目につく場所より、カインの屋敷で話をする事を選んだようでノエルを引きずって歩き出す。

ノエルは何が起きたかわからずに驚きの声を上げているが、ジークはノエルを人質に取られてしまったため、ため息を吐くと2人の後を追いかける。


「へぇ、カルディナが当主代行ね」


「そう言う事だ」


カインの屋敷に到着するとジークはエルトにカルディナが転移魔法を使えるようになった事を伏せつつ、カルディナの状況を話す。

エルトはカルディナが四苦八苦している姿が目に浮かんだようで苦笑いを浮かべるが、ジークは巻き込まれている事もあり、大きく肩を落とした。


「カルディナ様は大丈夫ですかね?」


「うん。能力的には問題ないと思うよ。次代を担う優秀な文官候補だしね。経験を積んでもらうために私としては賛成かな?」


「そうですか」


カルディナの事が心配なノエルはエルトにも彼女の事を聞く。

エルトはカルディナを高く評価している事もあり、問題ないと笑う。

その言葉でノエルは安心したのか胸をなで下ろした。


「それより、ジーク、この間、シュミットを訪ねたんだよね。酷いな。私の時間が空くまで待っていてくれても良かったのに」


「俺だってヒマじゃないんだよ。それより、アンリ様の事ってどうなってる?」


エルトは先日、2人が王城に訪れた時の事を責めるように言う。

ジークはエルトに振り回されたくないとため息を吐くと話を変えようと思ったのか、アンリの診察の件について聞く。


「何も上がってきてはいないね。バーニアにも協力して貰っていろいろと情報を集めてるんだけどね」


「……情報を集められてヤブ医者だって言われるのはイヤだな」


「そ、そうですね。テッド先生を見ているとお医者さんと患者さんには信頼が大事だってわかりますから」


バーニアの協力は仰げたもののあまり状況は芳しくないようでため息を吐くエルト。

ジークは力なく笑い、ノエルはフォルムで見ている人達の事を思い出し苦笑いを浮かべた。


「こっちもやれる事はやるから、ジークはしっかり勉強してよ」


「やってるけどな。面倒な事が多くなりすぎて大変なんだよ」


「フィーナが結婚を申し込まれたんだっけ? 面白い事になったね」


ジークは一般人にこんなに仕事を持ってくるなと言いたげに大きくため息を吐く。

エルトはシュミットからのガートランド商会の報告を受けているようでからかうように笑う。


「話だけ聞けば面白いんだけどな。厄介事が重なってるから、面白くない」


「ガートランド商会とレギアスの父親が繋がってるんだよね」


話しだけは面白いが、そこから見えてくる野心にジークは頭をかく。

エルトもそこは不味いと思っているようで先ほどまでの緩んでいた表情を引き締めた。


「レギアス様を引きずり降ろすためにアンリ様の病気も利用しようとしてる節があるから、そっちをどうにかできれば良いんだけど」


「アンリの病気の原因は魔族の呪いだって事だよね? だけど、アンリの方は手詰まり感があるから、先に動かれたら不味いよね」


ガートランド商会とレギアスの父親の野心には気が付いているものの表だって対応できるわけでもなく、2人は頭を悩ませる。


「アンリ様の病状はあれから悪くなってないんでしょうか?」


「一応ね。顔を見合せている限り、体調は悪そうだけど、悪くはなってなさそうだよ。リュミナもアンリの面倒を見てくれてるし」


ノエルはアンリの事が気になったようでエルトに尋ねた。

エルトは毎日、アンリと顔を合わせており、彼女の体調を確認しているようで心配はないと言う。


「リュミナ様はアンリ様に受け入れられてるのか? いきなり、姉さんができたようなもんだろ?」


「そうだね。仲良くやってるみたいだよ」


突然、現れた兄の婚約者にアンリはどう思っているのか気になったジークだがエルトの目には2人は上手く行っているように見えており、笑顔を見せる。


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