第511話
「これが本当なんだな」
「レインの反応が当たり前よね」
レインの姿に苦笑いを浮かべるジーク。
ノエルがドレイク族だと知っても頭を撫でまわしていたセスに平然としていたミレットと気にしない人間ばかりだったため、フィーナはレインの反応が当然だと言いたげに頷く。
「ドレイクって、なんで、そんな反応なんですか!! 本当なら、大問題ですよ!!」
「安心しろ。エルト王子もノエルの正体を知ってるから」
「レインさん、落ち着いて下さい。こんな可愛いドレイクがいますか?」
慌ててまくし立てるように言うレインだが、ジークはエルトも1枚かんでいる事を話し、ミレットは涙目のままのノエルを指差す。
「……まず、ノエルさんがドレイクだと言うのが信じられないわけですが」
「この反応も懐かしいな」
「私達もそうだったわよね」
ミレットに促され、ノエルを見たレインは毒気が抜けたようで眉間にしわを寄せながら、ノエルがドレイク族だと言う事を確認しようとする。
彼の反応に自分達が初めてノエルと出会った時の事を思い出したようでジークとフィーナは顔を見合せて苦笑いを浮かべた。
「レインが信じられなくてもノエルがドレイクな事は変わらないんだけど、ノエル、レインにわからせるためにいつもの頼むよ」
「いつものですか? は、はい……あの、ジークさん、セスさん、どうしたんですか?」
ノエルの舌の痛みが取れたのを見て、カインは自分のおでこを指で軽く叩いた。
彼の行動に首を傾げるノエルだが直ぐに意味を理解したようで頷き、レインの隣に移ろうとするが彼女の行動をなぜかジークとセスが遮る。
ノエルは2人の行動の意味がわからずに首を傾げるが、ジークはノエルを引き寄せた。
「いや、何となく、レインに頭をなでさせるのはイヤだ」
「……たまに出るこの無駄な独占欲は何なんだろうね」
「ジークも男の子ですから、それより、セスさんが反応した方に問題があると思うんですけど」
ジークは男のレインがノエルの頭を撫でるのはイヤなようであり、ノエルを抱きしめ、彼の腕の中でノエルは耳まで真っ赤にしている。
2人の様子にカインは大きく肩を落とすとジークと同様にレインとの間に割って入ったセスを引き寄せた。
ミレットはその姿に苦笑いを浮かべるとセスは身体が反応してしまった事にバツが悪そうな表情をしている。
「とりあえず、ノエルはある魔導機器を使って、ドレイクの象徴である2本の角を隠している。でも、それ以外は?」
「赤い髪に金色の瞳? 確かにドレイクの特徴ですが……ノエルさんですよ。ドレイクの運動神経は」
ジークの様子からレインに角を確認して貰う事を諦めたカインは誰もが知っているドレイクの特徴を尋ねる。
レインはノエルの容姿を改めて確認するとドレイクの特徴と重複する事は多い。
認めたくないレインはドレイクとは思えないノエルの運動神経のなさを指摘する。
「それに関して言えば同感ね」
「も、申し訳ありません」
「それでも人族としては説明できないくらいの魔力は持ってるよ」
ノエルの運動神経のなさは異常ともいえると思っているのは大半の意見であり、ノエルは申し訳なさそうに頭を下げた。
カインはレインに運動神経のなさは目をつぶって欲しいと言い、レインは難しい表情をしている。
「とりあえず、魔族への偏見は薄れましたか?」
「……薄れたと言うか、よくわからなくなりました」
ミレットはレインの様子から彼の悩みに変化があった事を感じ取ったようで彼に尋ねる。
今までの知識にあった魔族とノエルやギド、ゼイが重ならないようで困ったように頭をかいた。
「この反応もわかるわ」
「カインやエルト王子にセスさん、ミレットさんって、動じない人ばかりだったからな」
「わ、私はノエルが魔族だと知った時に慌てましたよ。へ、変な事を言わないでください」
セスはジークに変人扱いされたと思ったようで、拳を握り締めて自分はまともだと主張する。
しかし、彼女の反応はさらにおかしな方向に飛びぬけていた事も有り、ノエルとレインを抜かしたメンバーの目線は冷たい。
「とりあえずはもっと長い目でレインが見極めれば良いんじゃないかな? ノエル達が人族と好んで争いを起こすように見えるかをね」
「それは見えないですよ」
レインに自分で見極めて見たら良いと言うカインだが、レインにもフォルムでノエル達と過ごした時間があり、彼女達が争いを好んでいないのは理解できているようである。
「あれ? そう言えば、ギドさんとゼイさんはゴブリンでザガロさんはリザードマンだと言いましたよね?」
「あぁ、姿形は魔法で変えてるんだよ。たまにゼイとザガロはいなくなるだろ。探索時間も魔法の効果時間を考えて決めてるからね」
「魔法は便利ですね……と言うか、そんな魔法を悪意を持って使われたらどうするんですか?」
レインは人族と姿形の近いノエルに対し、まったく姿が違うゴブリン族とリザードマン族に気が付かなかった事に首を傾げた。
カインは苦笑いを浮かべてネタバラシをするとレインは1つの疑問を口にする。
「悪意を持って使われたら、どうしようもないだろ。だけど、悪意があるのは魔族とは限らないんじゃないか?」
「それを言ってしまうと何もいえませんけど」
その疑問はジーク達も考えはしたものの、魔族だからと言う偏見で見るものではない事をすでに彼等は知っている。
レインも騎士としてエルトやライオの護衛をしていた事もあるため、自分の疑問は魔族だけに言う事ではない事を理解したようでため息を吐く。
「少なくとも、レインさんが知っている魔族の方達は心配しているような事をするつもりはなさそうですよ」
「そうです。わたしはジークさんとみなさんと一緒に暮らせるようになれば良いんです。戦いたくなんてありません」
「私だって、ノエルさん達には剣を向けにくいです」
ミレットはノエルを指差して心配するのは余計な気を張るだけだと笑う。
彼女の言葉にノエルは大きく頷くとこの居心地の良い生活がずっと続けば良いと自分の気持ちを話す。
彼女の必死さはレインにも伝わっており、レインも自分の素直な気持ちを口にする。
彼の素直な言葉に囲んでいたテーブルには柔らかい空気になり、気持ちが伝わった事が見て取れる。
「ただ、ここまで私をだましていた事は納得がいかないんですけど」
「何事にもタイミングと言う物があってね。だけど、気をつけなよ。レインの魔族に対する偏見が和らぐとフォルムの娘達のアタックは勢いを増すだろうから」
「……私は今日の話を聞いていない事にしておいてください」
レインはだまされていたと言う事を思い出し、カインを責めるような視線を向けるが、カインに口では敵うわけもなく、レインは顔を引きつらせた。