第505話
「……まさか直ぐにばれてしまうとは」
「言っておくけど、俺は悪くないぞ」
ライオとカルディナを連れて王都を訪れたジークとノエル。
エルトはタイミング良く公務があるようで席を外しており、ライオがいた事でシュミットへの面会は直ぐに叶った。
シュミットはライオがフォルムまで足を運んでいた事に眉間にしわを寄せており、ジークは自分は悪くないと主張する。
「それについてはわかっている。まったく」
「何ですか?」
シュミットはジークを悪いとは思っておらず、原因であるカルディナへと視線を向けた。
しかし、カルディナはクーと離れた事もあり、不機嫌そうに睨み返す。
「……ジーク、ノエル、何があったんだ?」
「気にしないでください。カルディナ様はちょっといろいろとあったんです」
彼女の様子にシュミットは眉間にしわを寄せるとノエルは苦笑いを浮かべながら首を横に振った。
「それより、シュミット、シュミットに聞きたい事があるんだけど」
「何ですか?」
ガートランド商会の事を聞きたいライオはシュミットに声をかける。
シュミットは勝手に王都を離れていたライオに言いたい事があるようだが、ジーク達の前で苦言を言うわけにもいかないと思っているのか聞き返す。
「そ、そうです。シュミット様、最近、リアーナさんと仲が良いって本当ですか!!」
「……ノエル、それを聞きにきたわけじゃない」
「……何を言っているんだ? ライオ様、説明をお願いいただけますか?」
ノエルの興味はなぜかガートランド商会より、ライオが勘ぐっていたシュミットとリアーナの仲になっており、ジークは眉間にしわを寄せる。
シュミットは意味がわからないようで眉間のしわはいっそう深くなって行くが、ライオが苦笑いを浮かべている事に気づき、原因を彼と判断したようで問いただすように聞く。
「いや、最近、妙に仲が良いと思うんだって事をノエルさんに話したんだよね」
「そ、それでどうなってるんですか?」
「何もない」
若干、気まずそうに答えるライオ。
ノエルはすでにおかしな方向に火が点いており、シュミットに詰め寄った。
彼女の様子にシュミットは大きく肩を落とすと指でジークにノエルを落ち着かせるように指示を出す。
「ノエルも落ち着け。シュミット様も悪かったな」
「で、ですけど」
「そんなヒマがあるか。ただでさえ、エルト様もライオ様も好き勝手に動き回って、私の仕事が減らないんだ。もう少し自覚を持っていただかないと困ります」
ジークはノエルをシュミットから引き離すと彼に謝る。
ノエルはそれでも知りたいようでシュミットをじーっと見ており、シュミットは大きく肩を落とした。
「そうですか……」
「いや、口ではああ言ってるけど、絶対に怪しいんだよ」
がっかりしたと言いたげに肩を落とすノエル。
ライオはそんな彼女にまたも余計な事を吹き込もうと口元を緩ませた。
「シュミット様、あの2人は置いておいて、聞きたい事があるんだけど、ガートランド商会について教えて欲しいんだ」
「ガートランド商会?」
ジークは2人の事を無視するとシュミットに本題を訪ねる。
その言葉にシュミットは難しい表情をすると眉間にしわを寄せて考え込む。
「覚えてないか?」
「……覚えているが、その件は謝ったはずだが」
「いや、別に責めてるわけじゃないから、ちょっと面倒なことになって、シュミット様に知っている事があったら教えて貰おうと思っただけだ」
シュミットは以前にジークの店に圧力をかけようとした事に何か言われると思ったようで眉間にしわを寄せたまま聞き返す。
ジークは勘違いさせた事を謝るとシュミットにガートランド商会の後継者であるステムと揉めた話を説明する。
「ガートランド商会のステムか?」
「シュミット、知っているかい?」
「いえ、直接の面識はありませんね。ただ、以前に少しだけ調べましたが」
説明を聞き、考え込んでいるシュミット。
ライオはその様子に何かないかと聞く。
シュミットは首を横に振るが何かあるのかその口ぶりは重い。
「やっぱり面倒なのか?」
「面倒だ。力を手に入れるためなら何でもしようとする奴らだからな」
「そんなものと手を組んでいたあなたも同類ではないですか?」
ため息を吐くシュミットを見て、カルディナは同類が偉そうに言うなと舌打ちをする。
彼女のあまりに礼儀を重んじない様子にシュミットは鋭い視線を向けるが、カルディナは悪びれることなく、彼を睨み返す。
「カルディナ様、一先ず、落ち着きましょう」
「私は睨まれる筋合いはない。ガートランド商会の息がかかったものと接触はしたが、誘いは断ったからな」
「そうなのか?」
ノエルはカルディナの服を引っ張り、カルディナとシュミットの距離を取らせる。
シュミットは仲裁に入ってくれたノエルの顔を立てるためか、1度、深呼吸をして気持ちを落ち着かせると自分とガートランド商会につながりがない事を話す。
ジークは意外に思ったのか首を傾げるとシュミットはバカにされたと思ったようで目つきを鋭くする。
「シュミットはどうして誘いに乗らなかったんだい?」
「ガートランド商会と手を結ぶには危険すぎましたから、私は1度、過ちを犯しましたが、ガートランド商会は私の後ろ盾になると言いました。ただ、それに乗るほど、私もバカではありません。乗せられて上手く使われる気は起きませんでした」
シュミットはガートランド商会の使者と面会した時に自分の身の危険を感じ取ったようであり、首を横に振った。
それはルッケルで駒の1つとして扱われた事でしっかりと学ぶべきものは学んでいた証拠である。
「それじゃあ、詳しい事はわからないのか?」
「あぁ。すまない。ただ、知っている人間ならわかるぞ。レギアスの父親であるギムレットは懇意にしているはずだ。ギムレットの使いを伴って私に会いにきたからな」
「……すでに繋がってるのかよ」
シュミットの口からガートランド商会の使者と面会した時の事を聞き、状況はすでに悪い状態になっている事に気が付いたジークの眉間には深いしわが寄った。