第503話
「本当に申し訳ありません」
「別にジークを責めていませんよ。それより、私としてはライオ様とカルディナ様がいる方が気になるんですけど」
結局、クーは食い意地のままお茶菓子を頬張り続け、屋敷に戻る頃には腹を抱えて眠っている。
その様子を見て屋敷に戻ってきたミレットは苦笑いを浮かべた。
ジークは夕飯の準備を始めようとしていたミレットに謝るが、彼女は苦笑いを浮かべたまま、首を横に振る。
ミレットの言う通り、未だにライオとカルディナは王都に帰る事無く、屋敷の居間でくつろいでいる。
「それに関して言えば、今から作戦会議だと思ってね」
「作戦会議ですか?」
「えーとですね」
ライオはくすりと笑うが、意味がわかっていないミレットは首を傾げ、ノエルは苦笑いを浮かべると彼女に今日、ステムが現れた時の説明をする。
「ステム=ガートランドですか? それは厄介な人に目を付けられましたね」
「ミレットは知っているのかい? 私は詳しくないから教えて貰えないかな?」
「そうですね。私もあまり詳しくありませんが……カインさんから聞いていないんですか?」
ミレットはステムの名前に心当たりがあるようで眉間にしわを寄せた。
その様子に何かを察したライオは彼女に質問をする。
ミレットは頷きはするものの、自分よりカインの方が詳しいと思ったようで彼を探すがカインはセスとともにまだ執務室で仕事を行っており、屋敷に帰ってきていない。
「カインはまだ仕事、それでミレットさん、あいつって何者? ガートランド商会ってでっかい商家だって事だけはわかったけど、何してるか俺は知らないんですよね」
「この様子だとライオ様もカルディナ様も知らないんですよね?」
「興味ありませんから」
ガートランド商会の事を誰もよく知らないようであり、視線はミレットに集中する。
ミレットは周囲の様子に大きく肩を落とすが、カルディナに至っては興味がないと言い切り始末である。
「ライオ様もカルディナ様も研究者ですから知らないとしても不思議ではありませんが……ジークは仮にも商人なんですから」
「仮にじゃないです。れっきとした商人です」
ジークへと視線を向けたミレットはジークにだけは知っていて貰いたかったようでもう1度、ため息を吐いた。
ジークは心外だと言いたいのか肩を落とすが、彼女から向けられる視線は酷く冷たい。
「とりあえず、かなり有名だって事はわかるね」
「そうね」
ミレットの様子からもステムの家にかなりの金の力がある事は理解できたようでライオは苦笑いを浮かべる。
フィーナはステムの話自体が不愉快のようで眉間に深いしわを寄せ、両手を組んで頷いた。
「ガートランド商会はハイム王国の中で手広く商売を行っています。武器から日用品、食品まで、活動範囲としては元々はこの周辺だけでしたけど、現頭首が後を継いでからは王都にまでその活動範囲を広げています」
「それは手広くと言うか考えなしなんじゃないのか?」
「王都までね? シュミットは何か知ってるかな?」
ガートランド商会は力はかなりのものであるが、ジークは身の程をわきまえていないとしか思えないようでため息を吐く。
ライオは真剣な表情をすると最近はエルトの補佐として王都内を動き回っているシュミットの顔を思い浮かべた。
「知っていると思います。シュミット様がワームにいる時にも接触してきましたしね」
「シュミット様に接触? ……何か引っかかるんだよな」
「ジークさん、どうかしたんですか?」
ミレットの言葉にジークは何か思い浮かびそうなのか眉間にしわを寄せて頭をひねる。
その様子にノエルはジークの顔を覗き込んだ。
突然、ノエルの顔が目の前にきた事でジークは驚き、飛びあがり、その様子にライオはニヤニヤと笑っている。
「で、何か思い出したの?」
「いや、前にシュミット様、俺の店に嫌がらせしようとしてたよな? 何か圧力かけて」
「あー、あれね。村だけで売ってるようなものだから、別に変な事にもならなかったし、すっかり忘れてたわ」
ジークは思い出した事を話すが、実際、何も被害がなかった事でジークだけではなく、ノエルとフィーナも完全に忘れており、3人は顔を見合わせると苦笑いを浮かべた。
「それだけ聞くと……小者だね」
「あまり地盤は固まっていませんでしたしね。ワームはレギアス様を中心にして不正のような事は許しませんから、シュミット様の時にその触手を伸ばしたのですが、シュミット様が直ぐに王都に引き抜かれてしまいましたので、入り込むスキは表向きはなくなったのですが」
「……レギアス様の足を引っ張ろうとする勢力に目標を変えた?」
ジーク達に関わりながらも完全に無視されていた事にライオは苦笑いを浮かべる。
ミレットはシュミットと築こうとした関係がなくなったと言うが、その言葉でジークは彼女が何を言いたいのか察したようで首をひねった。
「そう言う事です。シュミット様を利用できないと判断すると直ぐに目的をレギアス様のお父様に変えました。表向きには何もできませんが、裏では今も繋がっているようですから、ワームの権力者ではジークやフィーナはそれなりに名前が知られていますからね」
「そう考えると……フィーナを口説いたのには何か裏があるか?」
「そうかも知れませんね。大手を振ってレギアス様達の支援を跳ね返してくるかも知れません」
ミレットはステムが本気でフィーナを口説いていたとは思っていないようであり、ジークは乱暴に頭をかくもののフィーナはないと言いたいのか小さくため息を吐く。
「何よ?」
「何でもない。商人か? ……武器をレギアス様の親父に安く横流しして反乱でも起こされたらたまったもんじゃないな」
「ええ、ゴブリン族とリザードマン族の件もありますからね」
ジークのため息にバカにされている事を理解したフィーナだが、ジークはレギアスを引きずり下ろそうとしている勢力の事が気になるようで乱暴に頭をかく。
ミレットも同様の事を考えているのか、彼女の眉間には深いしわが出来上がっており、2人の間に流れる空気は張り詰めている。