第501話
「……と言うか、カルディナ様を待ってると王都に帰れないんじゃないか?」
「そうかもね。ジーク、やっぱり、ライオ王子を王都に戻してきたら」
「私ももう少し、クーと遊んでたいね」
カルディナの様子からこのままではいつまでたってもライオを王都に戻す事は出来ないと思ったジークは薬の材料を調合に入れながらため息を吐く。
彼の言葉にフィーナは頷くが2人の心配をよそにライオはクーの頬を突く。
クーはライオの事は嫌いじゃないのか、イヤな顔をする様子もなく、その様子がさらにカルディナの自尊心を傷つけて行く。
「ライオ様、クーちゃんを渡してください。このままではカルディナ様が立ち直れません」
「立ち直れないと言われても、私は何もしていないしね。そうだよね。クー」
「クー?」
クーの件ではノエルは完全に彼女の味方であり、カルディナのためにクーを呼び寄せようとする。
ライオは自分ではなく、クーの意思次第だと苦笑いを浮かべとクーに聞く。
彼の言葉に首を傾げるクーはノエルとカルディナの方を1度、向くがカルディナの相手をしたくないのかプイと顔を逸らす。
「き、嫌われたな」
「……そうね」
クーから顔を逸らされたカルディナの頬には涙を伝い始め、流石にかわいそうになってきたのかジークとフィーナは顔を見合わせた後、大きく肩を落とした。
「ジークさん、どうにかしてください」
「どうにかしろって言われてもな。ここまで嫌われると思ってなかったからな。取りあえず、クー」
ノエルに助けを求められたジークは調合鍋をかきまわすと火の勢いを弱めると膝を吐いているカルディナへと視線を向けた。
困ったジークは特に考えがあるわけではないが、クーを呼ぶ。
クーにとってはジークが第1であり、その呼びかけに直ぐにジークに飛びついた。
「……私のプライドを粉々に砕いて、楽しいのですか?」
「そんな気はない。だいたい、カルディナ様が嫌われてるのは、クーの意見を無視して自分の欲望だけを押し付けるからだろ」
カルディナは嬉しそうな表情をしているクーの姿に殺意までこもった眼差しでジークを睨みつける。
ジークはクーを抱きしめながらテーブルに戻るとため息を吐き、カルディナに正面のイスに座るように指差す。
カルディナはジークが何をしたいのかわからないようであり、怪訝そうな表情をするも彼女の中ではジークは狡賢く頭が回ると思っているため、何かあると思ったのか素直にイスに座った。
「ジーク、どうする気だい?」
「まずは距離を取ることから覚えて貰おうと思ってな。ノエル、何か、適当にお茶菓子出してくれ」
「はい。わかりました」
ライオはジークが何を考えているかわからずに首を傾げる。
ジークはカルディナに覚えて欲しい事があるようでノエルに指示を出すとノエルはジークの指示に従う。
「これで良いですか? ミレットさんが新作だって言ってましたから、わたしも食べた事はないんですけど」
「ジーク、お茶菓子なんか出してどうするの? おいひい。さすが、ミレットひゃん」
「フィーナ、お前は女としてそれはどうなんだ?」
テーブルの上お茶菓子が並ぶとジークの真意がわからないフィーナは手を伸ばし、ぼりぼりとお茶菓子を頬張る。
彼女の様子に呆れ顔のジークだが、フィーナとカルディナに睨まれ、小さくため息を吐くとそれ以上は何も言わずにお茶菓子を1つ手に取った。
「クー」
「クー?」
ジークはお茶菓子を小さく割るとその1つを手のひらにのせ、クーの名前を呼ぶ。
クーは1度、首を傾げてジークの顔を覗き込んだ後、ジークの手のひらのお茶菓子を頬張った。
「か、可愛いですわ」
「そこ、我慢しろ。後、手を出せ」
手のひらの上からお茶菓子を頬張る姿にカルディナの目は再度、輝き始めるがジークはカルディナに落ち着くように言うとお茶菓子の欠片の1つをクーの視線の先に動かす。
クーはお茶菓子の味が気に入ったようで視線の先のお茶菓子を追いかける。
その様子に身もだえるカルディナだがジークはカルディナに手を出すように言う。
「何をする気ですか?」
「まだ、1人じゃ物を食べれないのかい?」
「どちらかと言えば、甘えてるって感じかな?」
カルディナはジークに疑いの眼差しを向けながらも恐る恐る手を出す。
ライオはジークの考えを察したようであり、首を傾げると彼は苦笑いを浮かべながら、カルディナの手のひらにお茶菓子の欠片を置く。
「クー?」
「クーちゃん」
クーはジークの考えがわからないのか、彼の顔とカルディナの手のひらのお茶菓子を交互に見る。
カルディナはクーが自分の手からお茶菓子を食べて欲しいようで不安そうな表情でクーを呼ぶ。
「エサで釣るって言うのはどうかと思うんだけどね」
「まだ、自分1人で物を食わないから、それを逆手に取ってみた。フィーナ、余計な事をするなよ」
ライオは苦笑いを浮かべるが、ジークは割ったお茶菓子の残りを頬張り、それ以上はお茶菓子に手を伸ばそうとしない。
クーはまだ食べたいようだがジークがお茶菓子をくれないため不満そうに鳴く。
フィーナは不安そうなカルディナの様子に悪戯心が湧いたようでお茶菓子に手を伸ばし、小さく口元を緩ませるがジークは彼女の次の行動を読んだようでため息を吐いた。
「フィーナさんもカルディナ相手だと変な意地を張るね」
「いや、上から目線がムカつくから、少しくらい思い知らさないといけないでしょ」
「……俺、そのうち、自分用に胃の薬を調合しないといけないよな。後、ノエルも今は我慢しろ」
2人の様子に苦笑いを浮かべるライオ。
フィーナは迷う事無く腹いせと言い切り、ジークは胃の辺りが痛むのか腹をさするもノエルが妙にそわそわし始めた事に気が付く。
「な、何もしていません!?」
「説得力がないからな。今はカルディナ様に自分のやりたい事じゃなく、クーが喜ぶ事をやって貰うのが重要なんだから」
「そ、そうですね」
反論しようとするノエルだがその声は裏返っており、ジークは我慢するように釘を刺し、ノエルは視線を逸らしながら頷いた。
「ある程度、なれればクーもイヤな顔はしなくなるだろ」
「そうね。別にクーは誰かの腕の中にいるのが嫌いなわけじゃないしね。ジークが何かしてるとミレットさんかあの性悪の腕の中で寝てるからね」
「後、頭の上だな」
「それはあんたの頭だけよ」
クー自身は誰かの腕の中にいるのは嫌いではないようであり、フィーナは屋敷でのクーの居場所を思い出して苦笑いを浮かべる。
クーのお気に入りの場所は自分の頭の上だと言うジークだが、直ぐにフィーナに突っ込まれる。




