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勇者の息子と魔王の娘?  作者: まあ
カインの罠
499/953

第499話

「カイン殿、あなたはもう少し賢いと思っていたんですけどね」


「そうですね。ガートランド商会とフィーナの利用価値で言えば、フィーナの方が『まだ』使えますから」


ステムはカインがバカなことを言った事にため息を吐き、考え直すように圧力をかける。

しかし、カインはステムの言葉がつまらないと言いたげにため息を吐く。

その言葉にステムの視線は商人と思えないほどの鋭さを放つが、カインはその視線を笑顔で交わす。


「……使えるのか?」


「フィーナさんは優秀な冒険者だからね。利用価値は高いよ」


「いやいや、優秀じゃないだろ」


ジークはフィーナをステムに売り渡すとは別にして、フィーナにカインが評価するほどの価値があるかと首をひねる。

ライオはフィーナに高い評価を付けているようであり、その言葉にジークの眉間にはくっきりとしたしわが寄った。


「あ、あの。ジークさん、今はそう言う事ではないと思いますけど」


「そうですね……」


ノエルはジークがまたフィーナを怒らせてはいけないと思ったようで彼の服を引っ張り、セスはノエルの言葉に相槌を打ちながらもカインがどのような手段に出るのか心配のようで不安そうにカインとステムへと視線を向けている。


「フォルムはガートランド商会にケンカを売ったと判断しても良いと言う事ですね?」


「勘違いしないでいただきたい。私は商売の話をしようとしたはずなのに話をぶち壊したのはそちらの方ですよ」


「フィーナさん、あなたもそれで良いのですね? あなたが判断を見誤ったせいで、フォルムは滅びるかも知れませんよ」


ステムは再度、カインに考え直すように言うがカインは非はステムにあると言い切った。

カインが自分に屈しない事に苛立ちを覚えてきたのか、ステムはフィーナに自分の物になるように声をかける。


「あんたみたいなバカに潰されるほどフォルムの人達は弱くないわよ」


「そうですか。それなら、私の力を見せつけて、あなたを私の物にして見せましょう」


「何をする気だい?」


ステムの問いをフィーナは鼻で笑うとステムはこれで話は終わりだと思ったようで席を立ち、フィーナの前まで歩く。

ステムはカインとフィーナに宣戦布告をすると彼女の頬にくちづけをしようとするが、いつの間にかライオがステムの背後に近付いており、彼の行動を止める。


「邪魔をするなんてどう言うつもりかな?」


「女性に対する礼儀を少しはわきまえた方が良いと思うね。それに私が止めなければどうなってたか?」


「……止めなくても打ん殴るわよ」


ステムはライオを睨みつけるが、ライオは小さくため息を吐く。

その瞬間、フィーナは拳を握り締めてステムの顔を殴り飛ばそうとする。


「何度も女性に殴られるほど、私も殊勝ではないですよ」


「ちっ」


しかし、フィーナの拳はステムに触れる事無く、ステムは柔らかい笑みを浮かべた。

フィーナは交わされるとは思っていなかったようで舌打ちをすると、ステムと距離を取り、追撃に移ろうとする。


「フィーナ、暴れるな」


「何するのよ!? ジーク、放しなさいよ!!」


「人の仕事場で暴れるな。それと用が済んだなら、さっさと帰れよ」


フィーナの行動を読んでいたジークは彼女の首根っこをつかみ、フィーナを引き止める。

フィーナはステムを殴り飛ばさないと腹の虫が収まらないようで暴れるが、ジークはステムに帰れと言う。



「何だい? 君は私と縁を結んでおきたいと言う事かな?」


「いや、まったくそんなつもりはない。それに利益だけを追いかけたいとも思わないしな」


「なるほど、この中では1人も状況が理解できない者はいないと言うわけですか」


ステムはジークが商人だと言う事もあり、彼は自分側だと思ったようで小さく口元を緩ませた。

ジークはアリアの教えを引き継いでいるため、利益だけを求める商売をしておらず、ステムの考えを否定するとステムは話が通じない事に小バカにするように笑う。


「状況が理解できてないのはきっと、そっちだ。商人だって言うなら、物や人の価値を見極める力を身に付けた方が良いぞ。それができないとあんたの代で店を潰す事になるぞ」


「その言葉はそっくり返させて貰おう。それではカイン殿、失礼するよ。これが最後の忠告だ。いろいろと気を付けるんだよ。ああ、後、その気になったらいつでも私の元にくると言い」


「そんな事にはなりませんのでお気になさらないでください」


ジークはステムに忠告するがステムはジークの言葉がただの負け惜しみだとしか思っていないのか鼻で笑うとカインを指差す。

カインはステムの言葉を笑顔で交わし、ステムはすでに自分が上だと思い込んでいるようで高笑いを上げながら調合室を出て行く。


「……何と言うか、鬱陶しい男だな」


「何? あの小者臭?」


しまったドアを見て、ジークは変な人間にからまれと言いたげに大きく肩を落とす。

フィーナはステムがいなくなり、調合室を出て行く理由がなくなったため席に戻るがその機嫌は戻っておらず、両腕を組んで眉間にしわを寄せている。


「あ、あの、カインさん、フォルムは大丈夫なんですか?」


「あの感じだとフォルムへの流通は全部、止められそうだね」


「……そうですね」


ステムのフォルムへの宣戦布告にノエルはどうしたら良いかわからないようで不安げな表情でカインに聞く。

カインは軽い調子で答えるがかなり深刻な問題のようでセスの顔色は優れない。


「実際、フォルムはそんなに規模が大きいわけじゃないから、別に困らないんだけどね。基本は自給自足だし、ある程度なら転移魔法で購入してこれる」


「そ、そうですか」


カインはノエルの心配を払拭するように笑う。

ノエルはカインの言葉が全て本当だとは思っていないもののカインの笑顔に少し不安が払拭されたようで表情を和らげる。


「まぁ、俺達が何か言うより、カインが頭を動かしてくれるだろうし、俺達は俺達でやれることをするしかないな」


「そうですね……まったく、次から次と問題が起きてイヤになりますわ」


ジークは自分にできる事は限られている事を知っているため、苦笑いを浮かべるとセスは大きく肩を落とすがすでに腹は決まっているようで目には強い光が宿っている。


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