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勇者の息子と魔王の娘?  作者: まあ
カインの罠
498/953

第498話

「商人?」


「あぁ、フォルムに支店を作りたいって言ってたんだけどね」


「それがどうして、フィーナさんを口説いているのかな?」


気を失ったステムの顔を見て首を傾げるジーク。

カインはため息を吐きながら彼がフォルムを訪れた理由を話す。

ライオは眉間にしわを寄せながらステムの行動について質問をするとライオと同様の疑問を持っているのかノエルが大きく頷いた。


「それはフィーナさんが美しいからですよ」


「……目を覚ますと直ぐにこれか? なんと言うか、鬱陶しいな」


「ジーク、少し、ガートランドさんを抑え込んでいてくれるかな? 話しが進まないから」


その時、ステムが目を覚ましたようで直ぐにフィーナのそばに寄ろうとし、ジークは手を伸ばして彼の首根っこをつかむ。

ステムの行動にカインは大きく肩を落とすとジークに指示を出す。


「カイン殿、あなたになんの権利があって、私とフィーナさんの恋路の邪魔をするんですか?」


「……少なくとも実兄(カイン)には口を出す権利があるだろ?」


「何を言っているんだい。愛し合う2人の間には何人たりとも入り込む隙間などないのさ。それが実の兄妹であってもね」


ステムはカインに口を挟むなと言うが、その言い分は自分勝手であり、ジークは眉間にしわを寄せてため息吐く。


「……少なくとも私はあんたと愛し合ってないわ」


「で、ですよね」


「あぁ、何かに似てると思ったら、そう言う事か? 兄妹そろって変なのに好かれるな」


フィーナはステムから距離を取るように席を移動し、ノエルは苦笑いを浮かべている。

ジークはフィーナのステムの言い分に何か思い出したようでクーと遊んでいるカルディナへと視線を移して頭をかいた。


「確かに似てるかもね」


「ステムと言ったかな? フィーナさんは君を拒絶しているんだ。自分の気持ちを押し付けるのは良い事とは言えないね」


「……」


カルディナに猛烈なアタックを受けていたカインは苦笑いを浮かべる。

ライオはステムの勝手な言い分を責めるような視線を向けた。

その視線はかなり鋭く、ステムは何かに気が付いたのかライオを挑発するように口角を上げる。


「……何かおかしな空気になってないか?」


「そ、そうですね。どうしてこんな事になったんでしょう?」


ライオとステムの視線は交差しており、その様子からは互いに相手の事を気に入らないと印象を持ったようにも見える。

ジークは2人の様子に眉間にしわを寄せ、セスはどうして良いのかわからずに困ったように笑う。


「で、結局、フィーナはどうしてこいつに見初められたんだ? いくらなんでもフィーナの本性を知っていれば、口説くなんて暴挙に出ないだろ?」


「……ジーク、それって、どう言う事?」


「ジーク、少し黙っていなさい。話がおかしな方向に進みますわ。フィーナも落ち着きなさい」


ステムがフィーナを口説く理由がまったく理解できないジークは首をかしげた。

ジークの言葉はフィーナには我慢できなかったようで額に青筋を浮かべながらジークに問いただす。

セスは2人の間に割って入り、仲裁をするとフィーナは納得がいかないようで腕を組み、むすっとしている。


「ジークと言ったかい。仕方がないから、君の質問に答えよう。光栄に思いたまえ」


「……いや、まったく興味がないんだけど、カイン、俺は調合に戻りたいんだけど、応接室に戻ってくれないか」


「ここまで、話を振っておいて聞きたくないなんて、君は商才がないね。商人(我々)にはどんな些細な情報でも有益なものに繋がるかも知れないんだよ」


ステムは前髪をかき上げるとジークを指差すが、ジーク自身、ステムが鬱陶しく思えてきたようで調合鍋の様子を見ようと立ち上がった。

ジークの態度にステムはつまらないと言いたげにため息を吐くが彼の言葉はジークを小バカにしており、その言葉にジークの額には小さく青筋が浮かび上がる。


「ジークさん、落ち着きましょう」


「……ノエルも落ち着け」


ノエルはジークに落ち着けと声をかけるが、彼女の目的はすでにステムがフィーナを好きになった理由であり、その瞳は輝き始めている。

彼女の様子にジークは怒りが霧散してしまったようで大きく肩を落とす。


「別に興味がないわ。私はあんたと付き合う気はないし、こんなくだらない事に付き合う理由もないわ」


「フィーナさん、良いんですか? 私の誘いを断るデメリットを理解していますか?」


「理解してるわけないだろ。メリット、デメリットでなくて感情で動くのがフィーナだ。口説く気ならそれくらい理解してこいよ。それにな」


フィーナはステムの話など聞く気はないと言うと席を立ち、調合室を出て行こうとするが、ステムは口元を緩ませてフィーナに問う。

ジークは情報のなんたるかを語っていたにも関わらず、フィーナの性格を理解していないステムの顔を見てため息を吐くとカインへと視線を向ける。


「フィーナさん、あなたが私の物になれば、ガートランド商会がフォルムを支援しようと言っているんです」


「フォルムの支援? くだらないわ。そんなもの私には関係ない。だいたい、そんなくだらない条件を出すようなバカ相手にそこの性悪が首を縦に振るわけないでしょ。あんた何かの支援がなくても、そこの性悪がどうとでもするわ」


ステムは金の力を盾にフィーナを自分の物にしようとしているようだが、フィーナはステムの言葉を鼻で笑う。

彼女の言葉からは口ではカインに反発しているが、カインの才能を信じており、その程度の脅しには屈しないと跳ねのける。


「そんな事ができると思っているんですか? 私の力を使えばフォルムへの流通を止める事だってできるのですよ。そうすれば、フォルムなど直ぐに潰れてしまいます」


「甘く見ないで貰えますか? 愚妹を売り渡さなければいけないほど、私は落ちぶれてはいません。これ以上は話し合いの余地はありません。お引き取り願えますか?」


ステムはカインに圧力をかけ、フィーナをその気にさせろと言うがカインがそのような脅しに屈する事はない。

小さく口元を緩ませるカインの様子にジークはステムとカインでは役者が違うと言いたいのか頭をかく。


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