第494話
「居心地が悪いね」
「ジークにはわからないかな?」
ジークはライオの言う居心地の悪さを味わった事がないため、よくわからないのか首を傾げる。
ライオは彼の立場から理解はできないだろうと苦笑いを浮かべた。
「いや、ライオ王子やエルト王子に巻き込まれたせいでラング様の引っ張り出された時は酷く居心地が悪かったぞ」
「ジークさん、それは少し……かなり、意味合いが違うと思いますけど」
ジークは若干の悔しさがあったのか意味のわからない意地を張り、ノエルは苦笑いを浮かべる。
「わかってる。それに居心地が悪いや交友関係が狭いって言ったって結局はライオ王子しだいだろ。だいたい、交友関係の狭さなら、俺だって自信があるぞ」
「ジークさん、胸を張る事じゃないと思いますけど」
「そうは見えないんだけどね」
ジークはライオの言い分は言い訳でしかないと言い切るがその言葉にはどこか自虐が見え、ノエルは大きく肩を落とす。
ライオにはジークの交友関係は広く感じるようで苦笑いを浮かべる。
「見えなくたって事実だ。村以外だとルッケルに少しいただけだからな。後はルッケルで誰かさん達に巻き込まれたのとカインのせいだ」
「カインがいるんだから、私のせいじゃないね」
ジークはここ最近、交友関係が広がってるのはルッケルでのイベントのせいだとため息を吐く。
ライオはルッケルでジーク達を巻き込んだ事には少しだけ、申し訳ない気はしているようで視線を泳がせる。
「まぁ、良いか。それなら、おっさんの娘はどうだ? 物怖じはしないぞ」
「いや、流石に遠慮したいね。それより、ジークはあの子ドラゴンをどうするつもりなんだい?」
「どうするつもりって、どう言う事だ?」
ジークは試しにとカルディナを指差すが、ライオは恋愛対象外だと首を横に振ると話を逸らそうとしたのか話題をクーへと変える。
しかし、ジークはライオの言いたい事がわからないようで首を傾げた。
「いや、せっかく、ドラゴンの子供を手に入れたんだし、使い魔として契約するか、育てて騎竜として使うか」
「使い魔って、魔力の塊じゃないのか?」
「説明しないとダメ? と言うか、ノエルは魔術師なのに使い魔について知らないの?」
カインの使い魔を見ているため、ジークはライオが言いたい事がわからないようである。
ライオは魔法の知識が浅いジークには説明が必要だと思ったようで苦笑いを浮かべるとノエルがいるため、彼女にも説明が必要かと聞く。
「すいません。知りません」
「そうなの? まぁ、簡単に説明すると使い魔は自分の魔力を何かの形にして動かすのと他の生物と契約する2種類があるんだよ……カルディナ、勝手にクーを使い魔にしようとしない」
「そ、そんな事はしていませんわ」
自分に聞くと言う事は魔術師として常識の範疇だと理解したのか、ノエルは申し訳なさそうに首を横に振った。
ライオはノエルが知識に偏りがある事を不思議に思っているのか首を傾げると完結に使い魔について説明をする。
その時、ジーク達の話が聞こえたカルディナは使い魔の事を思い出したのか、クーを自分の物にしようと思ったようで小さな声で呪文の詠唱を始め出す。
それに気が付いたライオはカルディナを静止し、カルディナは慌てて首をするが、その様子から彼女が何をしようとしていたのかは明らかである。
「回収」
「は、放しなさい。クーちゃんは私の物ですわ!!」
ジークは席を立つとカルディナの腕から眠っているクーを取り上げた。
カルディナは手を伸ばし、クーを取り戻そうとするがジークはクーを抱えたまま、席に戻る。
「で、使い魔が魔力じゃないのもいるのはわかったけど、使い魔にして縛りつけるのは違うだろ。クーは成り行きでここにいるわけだし、自分でどこかに行きたくなるかも知れないしな」
「ジークはこのドラゴンの意思に任せるって言いたいんだね。まぁ、ジークらしいかな? それにこのドラゴンが自分でジーク達の元に残るって考えたら、魔法で契約を結ぶより、強い絆になるかもね」
「クー?」
ジークは小さく寝息を立てているクーの頬を指で突きながら、使い魔にする気も騎竜として飼う気もないと笑う。
ライオはその答えを否定する事はなく、むしろ、好感を持ったようであり、身体を伸ばし、眠っているクーの鼻先を指で撫でる。
頬と鼻先をいじられ、クーは重たいまぶたをゆっくりと上げると初めて見るライオの顔に首を傾げた。
「ちょっとだけ、カルディナの気持ちもわかったかな? クーって言ったかな? 私の使い魔にならないかい?」
「これ以上の厄介事はゴメンだぞ」
「使い魔がドラゴンって言うのは魔術師のある種の憧れだけどね。流石に冗談だよ。契約で縛りつけたら、こんな風に相手をしてくれるかわからないからね」
ライオは寝ぼけ眼のクーの姿にちょっとだけ、女性陣の気持ちがわかったようでクーの頬を指で突きながらクーにスカウトをかける。
クーはライオが何を言っているか理解していないようで首を傾げており、ジークはおかしな事を言わないで欲しいとため息を吐いた。
ライオはジークの反応に満足したのか楽しそうに冗談だと笑い、クーの鼻先を指で撫でる。
クーはライオに撫でられるのが気持ちいいのか鼻を鳴らしており、その様子をノエルとカルディナが羨ましそうな視線を向けている。
「何か、私、不味い事をしたかな?」
「クーはノエルとセスさんは苦手みたいだからな。かまい過ぎたから、起きてる時は逃げる時が多い。カルディナ様も起きてる時にはあまり相手をしてないからな」
「ノエルもなのかい? それじゃあ、契約もダメだね。使い魔契約はある程度の信頼関係がないとダメだから」
ジークはため息を吐くとクーをテーブルの上に下ろし、クーはノエルとカルディナの視線に気が付いたのか逃げるようにジークの頭の上に移動する。
ライオはジークの言葉に苦笑いを浮かべると今の段階では2人にはクーを使い魔にする事は出来ないと言い、苦笑いを浮かべるとノエルとカルディナの表情は重く沈んで行く。
「これはダメだね」
「そうだな」
「ジーク、ノエル、あのクズはどこ!!」
2人の様子にジークとライオは顔を見合わせた後、大きくため息を吐く。
その時、調合室のドアが壊れるのではないかと言う大きな音とともに勢いよく開き、ひたいに青筋を浮かべたフィーナが怒鳴り込んでくる。