第492話
「ライオ様、お久しぶりです」
「あぁ、久しぶりだね。セスも」
「お、お久しぶりです」
カインを先頭にして調合室にジークが戻るとカインとライオは挨拶を交わす。
セスは慌てて頭を下げるが、ライオと顔を合わせるのは気まずいのかカインの後ろに隠れており、ライオはその様子に小さく口元を緩ませた。
「ライオ様、セスをあまりからかわないで頂けますか?」
「心外だね。まだ、何もしてないじゃないか」
「まだって事は何かするつもりだろ」
ライオの表情を読んだカインはため息を吐くが、ライオは何もしてないと笑う。
しかし、その言葉からライオがセスに何かをするつもりなのは明らかであり、ジークは眉間にしわを寄せる。
「何かと言うか、私はまだ2人におめでとうと言っていなかったから、2人を祝福するつもりだったんだけど」
「……嘘だな」
「そ、そうですね」
ライオは笑顔でカインとセスを祝福しようとしていたと言うが、その笑顔にジークは胡散臭いものを感じたようでため息を吐き、レインは苦笑いを浮かべた。
「ありがとうございます。それで用件はそれだけでしょうか?」
「カインは私がフォルムにいるのは都合が悪いみたいだね」
「いや、王子が王都から勝手に離れる事は充分に問題あるだろ」
カインはライオの心づかいに頭を下げた後、フォルムを訪れた理由を聞く。
その言葉にライオは不満げな表情をするがジークから冷静なツッコミが入り、レイン、セス、カルディナの3人は大きく頷く。
「良いじゃないか。私だって、城と学園の往復だけではストレスが溜まるんだから、兄上は王都の中も自由に動き回ってるんだし、私にだってそれくらいの権利はあると思うんだ」
「……何と言うか、似た兄弟だな」
「そ、そうですね」
ライオは疲労が溜まってると言うとわざとらしくテーブルの上に突っ伏し、ジークは似たような事をエルトが言っていた事を思い出して眉間にしわを寄せる。
「だけど、ジークもノエルも酷いよね。こんな面白い事を私に黙ってるなんて」
「別に黙ってたわけじゃない。あの時はあれがドラゴンの卵だってわかってなかったしな。意味がわからないものを王子に見せて厄介事に巻き込むわけにはいかないだろ?」
「ジ、ジーク、クーちゃんを抱きしめても良いでしょうか?」
ジークの言葉を気にかけることなく、ライオは調合室の隅で眠っているクーへと視線を向けた。
ジークは自分でもこんな事になるなんて思ってなかったとため息を吐く。
疲れているジークの事など気にする事無く、カルディナは眠っているクーの姿におかしな興奮状態になりかけているようで彼の服を引っ張る。
「起こさないようにな」
「わかってますわ!!」
「……本当にわかってるのか?」
ジークは苦笑いを浮かべながら許可を出すとカルディナは一気にクーの元に駆け出して行き、その姿にジークは大きく肩を落とす。
「だけど、ジークとカルディナがこんなに仲良くなると思わなかったね」
「別に仲が良いわけじゃないぞ。と言うか、用がないなら帰るぞ。送るから」
「いや、もう少し良いじゃないか? フォルムの統治の様子も見たいんだよね。滅多に見る機会もない事だしね」
ジークはライオを王都に戻さないといけないと思ったようだが、ライオはカインが統治するフォルムの地がどうなっているのか気になるようで楽しそうに笑う。
「すいません。ライオ様を案内できるほど私はヒマではありません。領主となると抱えている仕事が多いので」
「それなら、ジーク」
しかし、カインは甘やかせてはいけないと思っているのか、ライオの提案をきっぱりと断る。
その様子にセスは断ってはいけないと思っているようでオロオロとしているが、ライオはカインがダメならとその矛先をジークへと向けた。
「あのなあ。俺は調合中なんだ。正直、ここをたまり場にされてるのも迷惑なんだぞ」
「で、ですよね」
「それなら、レイン」
ジークは今日は調合予定であったため、邪魔をしないで欲しいとため息を吐く。
ノエルは苦笑いを浮かべて同意を示すとライオはレインへと視線を向ける。
「ゼイさん、そろそろ、私達も行きましょうか? 探索の打ち合わせもありますし」
「オレ、ウチアワセ、キライ」
レインはライオの視線から目を逸らすとゼイを連れて調合室を出て行こうとする。
ゼイにとっては打ち合わせはつまらないもののようで頬を膨らませた。
「そう言わないでください。ここに残ると打ち合わせより、面倒な事が置きます」
「ワカッタ」
「ライオ様、すいませんが私達は任務がありますので失礼します」
レインもゼイとは長い付き合いになってきたようで彼女の扱い方は理解しており、彼女を言いくるめるとライオに頭を下げ、調合室を出て行く。
「逃げたな」
「まぁ、逃げるだろうね。ライオ様、私達もヒマではありませんし、突然の訪問では対応できません」
レインが出て行ったドアを眺めてジークはため息を吐くと頭をかきながら、調合鍋に向かって歩き出す。
カインはため息を吐くとライオの突然の来訪に困っているようでため息を吐き、彼の行動の浅はかさを注意する。
「対応も何も私が突然きたくらいで他の領主みたく慌てて何かするような都合の悪い事がカインにはあるのかい?」
「……」
「セス、目を逸らしたけど、何かあるのかな?」
ライオはカインが悪政を敷く事は考えていないため、わざとらしく言う。
カインは視線を逸らす事無くふてぶてしく笑っているが、セスはフォルムの地には魔族との混血が多いため、それを黙っているのに罪悪感があるのか視線は泳いでいる。
ライオはセスの様子に大きく肩を落とすと鋭い視線をセスへと向けた。
「仕事中もカインと執務室でいちゃついてるから、領主の仕事が手に付かない事がある罪悪感だ」
「あぁ、なるほど」
「そ、そんな事はしていません!! 場所はわきまえています!!」
ジークは調合鍋の様子を見ながら、悪質な冗談を使ってセスをフォローに入る。
その言葉にライオは少し納得したのか、ポンと手を叩くがセスは顔を真っ赤にしてジークの冗談を否定する。




