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勇者の息子と魔王の娘?  作者: まあ
カインの罠
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第491話

「フィーナさん、調子良いみたいですね」


「当然よ。今ならあのクズの鼻っ柱もへし折れるわ」


「……返討ちになるから、止めておけ」


クーがふ化してから数日が経った頃、ジークは調合室で調合を行っている。

フィーナとレインを中心としたフォルム周辺の探索を仕事をしていた者は、前領主の圧政から逃げ出していた者達の合流により、順調に進んでいるようで時間があるのかフィーナ、レイン、ギドの3人は調合室で休憩を取っている。

フィーナは自分の手柄だと思っているのか上機嫌であり、そんな彼女の様子にジークは不安しか感じないのか大きく肩を落とした。


「そ、そうですね」


「ジーク、ホメロ」


「おう。よくやった。だけど、油断するなよ」


苦笑いを浮かべながら、ジークに賛同するレイン。

その隣でゼイはフィーナと同様に上機嫌のようで胸を張っている。

ジークは少し投げやり気味にゼイの頭を撫で、彼女の頑張りを誉め、ゼイはさらに機嫌を良くしているように見える。


「今の私に敵はないわ。ゼイ、今こそ、あのクズを叩き潰すわよ」


「……カイン、コワイ」


フィーナは拳を握り締めるとゼイを誘ってカインを叩き潰すと言う。

しかし、ゼイにはカインへの恐怖が刻み込まれているようで小刻みに身体が震えだし、ジークの背中に隠れる。


「まったく、情けないわね」


「フィーナより、ゼイの方が賢いな」


「賢いと言うより、ここまで怯えている理由の方が気になるんですけど」


フィーナはゼイの姿にため息を吐くと1人でカインの執務室に向かって駆け出す。

ジークはフィーナが出て行ったドアとゼイを交互に見た後、大きく肩を落とし、レインはゼイの怯えように眉間にしわを寄せる。


「まぁ、フィーナとザガロが血祭りにあげられたのを生で見てるからな」


「……杖とローブがフィーナさんとザガロさんの血で真っ赤に染まってました」


ジークはゴブリンとリザードマンの集落で起きた事を思い出し、遠い目をするとノエルは苦笑いを浮かべながら、5人分の紅茶を並べた。


「ノエル、ありがとう」


「はい。ですけど、フィーナさんの分が無駄になってしまいましたね」


ノエルはフィーナが調合室を出て行ってしまったため、あまった紅茶のカップを見て残念そうに肩を落とす。


「ノエルさんもやっと落ち着きましたね」


「お、落ち着いた? って、どう言う事ですか?」


「あぁ、セスさんは時々、不安になるけど落ち着いて良かった」


クーの魅力に骨抜きになっていたノエルが普通の状態に戻った事にレインは安心したようで苦笑いを浮かべる。

ノエルはレインが何を言っているのかわからないようで首を傾げるが、ジークは調合室の隅で眠っているクーへと視線を向けた。


「まぁ、心配ごととしてはおっさんの娘がきた時だな。引っ張られて暴走しなければ良いけどな」


「……日が開いた分、暴走しそうですからね。それにそろそろ、転移魔法が上手く行っていればフォルムに来ますしね」


落ち着いては来たものの、カルディナと言う不安があるのは否定できず、ジークは大きく肩を落とす。

レインも同感のようで彼女がいつ来訪するの不安に思っているのか眉間にしわを寄せた。


「だ、大丈夫ですよ。カ、カルディナさんもきっと落ち着いてますよ」


「そうだと良いんだけどな」


「お邪魔するよ」


ノエルは心配しなくても良いと笑うが、ジークは不安しか感じないようで眉間にしわを寄せた時、勢いよくドアが開き、ライオが調合室に乱入してくる。

ライオの後ろにはバツが悪そうな表情をしているカルディナが立っており、ジークは2人の顔を見て大きく肩を落とした。


「わ、私は悪くありませんわ」


「説得力がないな。取りあえず、カインを呼んでくるか? ノエル、お茶、追加で淹れておいてくれ」


「わかりました」


カルディナはジークの様子に気が付き、全力で自分は悪くないと主張する。

ジークはカルディナが下手を打ったとしても、もうどうしようもないため、カインを呼びに行くと席を立ち、カインの執務室に向かう。


「カイン、良いか?」


「どうぞ。開いてるよ」


カインの執務室の前でノックをし、中からの返事を待つ。

カインから返事にジークはドアを開けて執務室に入ると血で染まった杖を布で拭いているカインと血だらけで床に転がっているフィーナの姿があり、その様子をセスは眉間にしわを寄せて眺めている。


「……やっぱり、返討ちか?」


「ジーク、どうかした? もしかして、フィーナと同じ理由?」


「そんなわけあるか」


フィーナの姿にジークは大きく肩を落とすとカインはフィーナを足蹴にしてジークが執務室を訪れた理由を聞く。


「それなら、何か厄介事?」


「あぁ、おっさんの娘が転移魔法を使える事がライオ王子にバレた」


「……それは厄介だね」


カインはフィーナから足を下ろすと再度、ジークに執務室を訪れた理由を聞く。

ジークはため息を吐きながら、ライオとカルディナの来訪を告げるとカインの眉間にはくっきりとしたしわが寄る。

その隣でセスは血だらけになったフィーナへ治癒魔法をかけ、フィーナの身体を淡い光が包み込む。


「なぜですか?」


「クーに会うために転移魔法の発動が待ちきれなくてところ構わず、使ってたんじゃないのか?」


「それがありそうだね」


セスは眉間にしわを寄せながら、転移魔法がライオに見つかった理由を聞く。

ジークは詳しい話を聞いてこなかったものの、何となく理由は予想が付いているようでため息を吐き、カインも同感なのか苦笑いを浮かべた。


「とりあえず、ライオ様がきたなら、俺が会わないわけにもいかないよね」


「やっぱり、おっさんの娘に転移魔法を教えたのは失敗だったんじゃないのか?」


「いや、クーが生まれたのが計算外であって、それがなければ問題なかったはずなんだけどね。セスも行くよ」


ジークはやはりカルディナに重要なものを任せたのは失敗だったのではないかと肩を落とす。

カインは苦笑いを浮かべたまま、偶然が重なったと言い、調合室に向かおうとセスに声をかける。


「わかりましたが……フィーナはどうするんですか?」


「そのままで良いよ。後は血の処理をさせないとね」


「……お前、容赦ないな」


セスはライオに会わないわけにはいかないため、頷きはするものの、気を失っているフィーナをそのままにしておく事はできないようでため息を吐く。

カインは無駄な事を増やしたフィーナにかける情けはないようでメモ書きを残すと1人で執務室を出て行き、ジークはため息を吐くと彼の後を追いかける。


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