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勇者の息子と魔王の娘?  作者: まあ
カインの罠
488/953

第488話

「あれ? 今日は早いな」


「おはようございます。ジーク、さっそくですが手合わせをお願いできますか?」


翌朝、欠伸をしながらジークが中庭に顔を出すとすでにレインが1人で槍を振りまわしている。

汗の量からかなり早い時間から訓練を始めていたようにも見え、ジークは欠伸をかみ殺しながらレインに声をかけた。

ジークの声にレインは動きを止めると直ぐにジークに手合わせを頼む。


「イヤだ」


「なぜですか?」


「俺は寝起きなんだ。今のレインの相手をしたら死ぬ」


ジークは既に身体が温まりきっているレインの相手は面倒だと思ったようで彼にタオルを投げて渡すと柔軟運動を始め出す。

レインはジークの言葉に納得する部分があったようで受け取ったタオルで汗を拭き始める。


「……なんだ?」


「聞いても良いですか?」


「答えられる事ならな。昨日、カインも言った通り、考え方はいろいろだからな」


柔軟運動をしているジークはレインが自分を見ているのに気づき首を傾げた。

レインは1つ深呼吸をすると表情を引き締め、ジークに質問をして良いかと聞く。

ジークは難しい事は聞くなよと言いたいのかため息を吐くとレインは小さく頷いた。


「ジークは医療にかかわる人間として魔族の命も人族の命も同じと言いました。それなら、それを抜きにした場合、ジークは魔族と共存できると思いますか?」


「そうだな……正直、わからないな」


「わからないんですか?」


レインはジーク個人としての意見を聞かせてほしいと頼む。

ジークは少し考えるような素振りはするものの苦笑いを浮かべて素直な言葉を言い、レインはジークの答えには予想していなかったものだったようで呆れたような表情をする。


「レイン、呆れてるだろ?」


「そ、そんな事はありませんが予想外だったもので」


「実際、偉そうに何か言ったってこんなもんだ」


レインは首を横に振り、否定しようとするがジークは苦笑いを浮かべて、そんなに難しい事は考えてないと言う。


「そんなものでしょうか?」


「人族にだって善人も悪人も居れば、話の合う奴、合わない奴もいる。種族が違ったって、そこら辺はきっと一緒だろ?」


「それはそうかも知れませんが、私は魔族と関わった事がありませんから」


難しく考えすぎだと笑うジークだが、気真面目なレインは魔族とかかわりがない事が引っかかっているようで真剣に頭を抱えて悩んでいる。

その様子にジークは少し罪悪感を持ったようで頭をかくと柔軟運動を終えたようで立ち上がった。


「白状すると俺も少し前までレインと一緒で魔族に偏見を持ってたよ」


「それなら、ジークはその偏見をどうやって取り払ったのですか?」


「そうだな……俺は薬を採取しに行った時に魔族に助けて貰った事があるんだ。助けて貰ったのに魔族だから武器を向けますはおかしいだろうし、その魔族はたまたま人族の言葉を話せたからな」


身体を伸ばしながら、悩んでいるレインに視線を向けるジーク。

レインの姿はノエルやギド達と出会う前の魔族に対して偏見しか持っていなかった自分と重なったようで苦笑いを浮かべる。

レインはジークが偏見を取り除けた時の事が気になったようであり、ジークは少し考えるとノエルやギド達ゴブリンの事を隠し、魔族に助けて貰った事があると話す。

ジークが魔族に助けて貰ったと聞いたレインは信じられないのか難しい表情をする。


「信じられないか?」


「いえ、そんな事でジークが嘘を吐くとは思えないので真実なんだと思います。ただ、よくわかりません……」


聞き返すジークにレインは首を横に振るものの、やはり、納得はできていないようであり、晴れない気分を振り払おうと思ったのか再び、槍を振ろうと思ったのか中庭の中央に向かって歩き出す。


「レインは真面目すぎるんだよな」


「ジークがちゃらんぽらんすぎるって言うのもあるけどね」


「……頼むから、気配を消して背後に回り込まないでくれ」


中庭の中央まで移動したレインは一心不乱に槍を振り始め、その様子にジークは融通が利かない彼の事を心配になってきたようで頭をかく。

その時、カインがジークの背後に回り込み、彼の肩を叩いた。

ジークが慌てて振り返るとカインは2人の話を少し距離を聞いていたのか楽しそうに笑っている。


「いや、せっかく、真面目な話をしてるから、邪魔をしたら悪いかな? と思ってさ」


「俺が話すより、お前が話をした方が説得力があるだろ」


「どうかな? 俺はどちらかと言えば科学者寄りの人間だからね。感情よりも知的好奇心や知識を優先する。そう言う人間の話ってのは時に冷たく受け取られる事があるからね。俺より、ジークの方が人の心を動かす場合もあるんだよ」


「なんか、バカにされてる気しかしないんだよな」


カインにはカインの考えがあり、ジークに任せた方が良いと判断していたようだがジークは納得がいかないようで眉間にしわを寄せている。


「してない。してない。それより、クーは? まだ寝てるの?」


「あぁ、ぐっすりだ。昨日もかなり寝てたのに良く寝れるよな」


「まぁ、子供は寝るのも仕事のうちだからね」


カインは苦笑いを浮かべると、ジークのそばを付いて回っていたクーがいないため、居場所を聞く。

ジークはクーが生まれてから、少しの時間でも解放された事に肩の荷が下りているのか大きく身体を伸ばす。


「だけど、どうにかしないといけないね。このままだと仕事にならないかもしれない」


「だよな……部屋に乱入してないよな?」


カインはクーと生活する上でノエルとセスの暴走をどうにかしないといけないと頭をかく。

その言葉でジークは急に不安になったようで自分の部屋の窓へと視線を移す。


「……考えるの止めよう。朝から疲れたくない」


「そうだね。それでジーク、レインの相手をしなくて良いの?」


ジークはノエル達は寝てるクーを起こすような事はしないと思ったようであり、考えるのを拒絶する。

カインも昨日のノエル達の様子から、寝た子を起こすようなバカな真似はしないと自分を納得させるとレインを指差し、レインの訓練に付き合わないのかと聞く。


「身体を動かしたいなら、俺よりフィーナの方が良いだろ」


「そっちの方が何も考えないくらいに身体を動かせそうだしね。それなら、叩き起こしてくるかい?」


「いや、無理やり起こすとうるさいからもう少し待てば起きてくるだろ」


ジークはレインの様子から朝からあまり動きたくないと思ったようでフィーナに丸投げし、カインも同感だと思ったようで顔を合わせて笑う。


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