第487話
セスとカルディナは許可を貰うと直ぐにフォルムに戻ってきた。
そして、ノエルを部屋から出すとドラゴンをテーブルの中央に座らせ、1人ずつ考えた名前を呼んで行くがドラゴンは気に入らないのかそっぽを向いており、その姿にフィーナはため息を吐くとミレットは人数分の紅茶を淹れてきたようで彼女の前に湯気が上がっている紅茶を置く。
「ミレットさん、ありがとう」
「いえいえ、ですけど、あの様子を見るとやっぱり、ジークが決めた方が良いんじゃないですか?」
「そうよね」
フィーナはミレットにお礼を言うと紅茶を口に運ぶ。
ミレットは笑顔を見せると1度、ノエル達に視線を移した後、ドラゴンの資料とにらめっこを続けているジークへの前に紅茶を置く。
フィーナもどこかでこのおかしな騒ぎを終わらせたいようでミレットの意見に頷いた。
「そんな事を言っても俺はあそこに突っ込んで恨まれたくない」
「まぁ、それに関して言えば同感ね」
「クー」
ジークは2人の言いたい事は理解できているものの、3人の機嫌を損なってしまうと追々、面倒な事になるため、首を横に振る。
フィーナはあそこまで熱くなれる理由がわからないため、呆れたような表情をして3人を見た時、ドラゴンが3人の間にいるのがイヤになったのかジークに向かって飛び出した。
「お帰り」
「……あんた、慣れ過ぎじゃないの?」
「いや、俺は割と柔軟だと思うぞ。いろいろと振り回されてるから」
ドラゴンはお気に入りであるジークの頭の上に降り立つとジークは特に気にする様子も見せず、その様子にフィーナはため息を吐く。
ジークはフィーナの言葉に苦笑いを浮かべるとドラゴンを独り占めしているジークへと3人から鋭い視線が向けられる。
「これで決まったね。3人はその殺気を抑えつけるまでドラゴンに関わるのは禁止。ジーク、名前を付けちゃって」
「そうだな……って、言っても3人が付けると思ってたから、何も考えてなかったんだけど」
「クー?」
カインはこれ以上は付き合ってられないと判断したようでジークにドラゴンの名前を付けるように言う。
ジークは頭からドラゴンを降ろすとドラゴンの顔を覗き込み、小さくため息を吐いた。
ドラゴンはジークが何を悩んでいるのかわからないようで首を傾げる。
「ジークさん、それならわたしに」
「却下。もう黙っててくれ」
ノエルを先頭にセスとカルディナはジークからドラゴンを奪い取ろうと詰め寄るが、ジークは冷静になれない3人の相手はこれ以上、したくないようでその言葉を聞きいれることはない。
「もう、クーで良いんじゃないの? それしか話さないし」
「フィーナ、お前、凄く適当だな」
「クー? クー、クー」
フィーナはジークの顔を見て首を傾げているドラゴンの頬を指で突きながら適当に言う。
ジークは簡単すぎるだろうとため息を吐くがドラゴンは『クー』と呼ばれるのが気に入ったのか楽しそうに鳴く。
「気に入ったみたいですね」
「そうだね。まさか、フィーナが名付け親になるとはね」
「本人が気に入ってるなら、良いのか? なぁ、クー」
「クー」
ドラゴンの様子にミレットは苦笑いを浮かべるとカインはフィーナが名付け親になるとは思っていなかったようで頭をかく。
ジークは本人が気に入っている名前なら、それで良いと思ったようで正式に『クー』と名付け、クーはジークに抱きついた。
「な、なぜですか!?」
「いや、本人が気に入ってるし、ミレットさん、フィーナ、しばらく、クーを預かっててくれ」
カルディナは納得がいかないようで声をあげるが、ジークはため息を吐くとフィーナとミレットにクーを預けると言う。
クーはジークの指示に従い、パタパタと羽根を動かしてミレットの前まで飛んで行く。
「はい。わかりました」
「えー、私、今日は疲れたからもう寝る」
ミレットはクーを抱きしめるがフィーナは頬を膨らませて疲れたと文句を垂れる。
「うん。あれだね。フィーナはクーの教育のためにもあまり近付かせない方が良いね」
「それに関して言えば同感だけど、あっちの3人にも任せられない。フィーナ、俺ももう少しで寝るから、それまで相手をしてくれ」
「……わかったわよ」
カインはフィーナの様子にため息を吐くが、ジークから言わせれば現状ではノエル、セス、カルディナに近付かせるわけにはいかないと首を横に振った。
フィーナはため息を吐くものの、ジークの言いたい事がわかるようで頷くとミレットに抱かれているクーの頬を指で突く。
「そう言えば、クーの寝る場所がないね。何か使えそうなものでも探してくるよ。セス、ノエル、手伝って」
「ま、待ってください。私はクーの世話をしないといけないのです!!」
「そ、そうです。それにわたしとセスさんがそれをするなら、カルディナ様はどうするんですか!!」
クーの寝床を作るために物置を物色すると言うカイン。
ノエルとセスはクーの世話をしたいと首を大きく横に振る。
「少し冷静にならないと絶望的に嫌われるよ。もう修復不可能なくらいにね。それにクーのためにしっかりと何かすればクーが喜んでくれるかも知れないよ」
「やりますわ!!」
「……おっさんの娘には言ってないわよね?」
「それじゃあ、行ってくるね」
カインはクーの評価を少しずつ上げて行くように言うとなぜかカルディナが食いつき、フィーナは眉間にしわを寄せた。
カルディナがカインの口車に乗った事でノエルとセスも頷く事しかできず、4人は物置代わりの部屋に向かって歩き出す。
「やっぱり、こう言う時はカインに任せるのが1番だな」
「ですね。でも、カルディナ様に物置整理とかさせて良いんですかね?」
「良いんじゃないの? 使えるものは何でも使うのがあの性悪だし」
3人を引きつれて行ったカインの姿にジークは安心したようで胸をなで下ろす。
ミレットは苦笑いを浮かべるとカルディナに埃にまみれる仕事をさせて良いのかと首を傾げる。
フィーナは考えるのが面倒なようで全部、カインに丸投げする気のようでクーの目の前に指を出し、動かすとクーはフィーナの指を追いかけて首を動かす。




