第483話
「ジーク、特有の魔力ね」
「あぁ」
カインとセスがフォルムに戻ってくると食事をしながら、王都でライオから説明を受けた事をカインに説明する。
カインはジークの説明に頷くと何か考える事があるのか眉間にしわを寄せた。
ジークはカインの返事に少し時間がかかると思ったようで料理を1つ取り、ドラゴンの口元に運ぶ。
ドラゴンは大きく口を開けて料理を頬張るともっと欲しいのかジークの顔を覗き込む。
「ジーク、私もご飯を食べさせても良いでしょうか?」
「……面倒だから却下です」
ドラゴンと触れ合う機会で後れを取った事でドラゴンを構おうと料理を構えるセス。
しかし、ジークは彼女に許可をするとノエルとカルディナも間違いなく参戦してくるため、これ以上の面倒事はゴメンだと首を横に振る。
「なぜですか!!」
「文句なら、そこの2人に言ってください」
「そうですね」
納得がいかないと声をあげるセスだが既にジークだけではなく、ミレットやフィーナですらドラゴンを構おうとするのを鬱陶しく感じているようで彼女への風当たりはきつい。
「まぁ、セスさんも落ち着いてください。しかし、ジークの魔力で薬の効果が上がっていると言うなら、アンリ様の件は行き詰ってしまったと言う事ですね」
「そうですね。やはり、アンリ様の症状を直接みたいですね」
真面目にアンリの事を話し合おうとするレインとミレットは話を元に戻そうとするが、手詰まり感はぬぐえず、どうして良いのかわからないようで困ったように笑う。
「そうだよな。やっぱり、解決策も何も見つからないと王都で広まってる魔族の呪いとか根拠も何もない物にされちまうぞ」
「流石にそれは笑えないわね」
「……実際、笑えない状況になりそうなんだけどね」
ジークは解決策のない状況では王都で広がっていた根も葉もない噂を信じる人達がですのではないかとため息を吐く。
フィーナはいくらなんでもそんな事はないだろうと苦笑いを浮かべるが、カインは難しい顔をして首を横に振った。
「どうかしたのか?」
「いや、先生をフィリムに送り届けた後なんだけど、ちょっと、昔なじみの冒険者の店に顔を出してきたんだけどね。面倒な事になりそう」
「面倒な事?」
カインはワームで情報収集をしてきたようであり、乱暴に頭をかくと彼の様子にただ事ではない事は理解できたようで空気が引き締まる。
「もったいぶらずに言いなさいよ。そこまで悩むなら、私達に関係ある事なんでしょ?」
「そうだね」
フィーナは自分達の考えを知らないレインとカルディナがいる事に多少は気を使いつつもカインが勿体ぶるのが面白くないようで彼を急かす。
カインはフィーナの様子に少しだけ彼女の成長が見えたのが嬉しかったのか表情を緩ませるも直ぐに表情を引き締める。
「現在、ワームの領主はシュミット様なんだけど、エルト様の補佐として王都に戻っている事は理解してるね?」
「あぁ」
「レギアス様が代行としてワームを取り仕切っている状況ですね」
カインはワームの状況を再確認して欲しいと言いたいようであり、シュミットが王都に戻った経緯を知っているジークは頷き、ミレットはカインの言葉を補う。
「元々、ワームは何人かの権力者の合議制で方針を決めていた。それのリーダー格がレギアス様、そして、シュミット様の補佐としてラース様が加わり、レギアス様の地位は上がった」
「それをよく思わない人間がいるって事か?」
「その最重要人物がレギアス様の実のお父様です」
ワームの権力はレギアスに集中しており、カインの言葉からそれをよく思わない人間がいる事がわかる。
ジークは権力争いと言う物が理解できずにため息を吐くが、ミレットはレギアスに敵意を持っている最有力者の名をあげた。
「正直、パッとこない話なんだよな」
「そうね。それにレギアス様なら上手くいきそうな気もするんだけど」
ジークは両親不在、フィーナはカインとは意地を張り合うため、不仲には見えるが実際は家族の中は良好であり、父親とそこまでぶつかり合う意味がわからないようで2人そろって頭をかいている。
「カイン、フィーナさんの言う通り、それでもレギアス様なら上手くやってくれると思いますが」
「俺もそう思いたい。だけど、以前、ワームからルッケル、ジオス周辺で魔族の目撃例がある。その上、王都で広がるアンリ様の病気の原因は魔族の呪い。利用しようと思えば利用する手立てなんていくらでもある。言い方は悪いけどね。ハッタリでも何でも、民衆に味方につければ良い。軍隊を動かし、魔族を討伐、もしくは討伐しなくても討伐したと言い切れば良い」
フィーナの言葉に賛同の意思を示すレイン。
カインは希望的にはレギアスの才覚を信じて任せたいと言うが、同時に他人の足を引っ張る方法などいくらでもあると言い切り、レギアスの父親の動向を心配しているようである。
「ワームの周辺か?」
「でも、最近は魔族と戦うなんてなかったでしょ。そんな事になるわけないじゃない。争いだって起きてないのにわざわざ、魔族を探して戦う理由もないでしょ」
「……いえ、魔族がいるなら討伐しなければいけません。人族と魔族の中で和解などありませんから、実際、目撃例があるなら、しっかりと探索を行い、直ぐにでも討伐隊を出すべきです」
ワームの近くにはゴブリンとリザードマンの集落があり、ジークは彼等の事が心配になったようで彼の眉間には深いしわが寄った。
フィーナは今までの経緯から種族間の戦争になどならないと主張する。
しかし、騎士であるレインは騎士として国民を守るために必要な事だと言い切った。
「待ちなさいよ。何も起きてないのに討伐なんて良いわけないのよ。生きてるのよ」
「フィーナさん、何を言っているんですか?」
「フィーナさん?」
レインの言葉にフィーナはテーブルを思いっきり叩き立ちあがり、彼につかみかかる。
レインは彼女が何に怒っているのかも理解できていないようで驚きの表情をし、流石にここまでの騒ぎになるとノエルも気が付いたようでオロオロとしている。




