第482話
「ジーク、あんたはどうして、次から次と厄介事を持ってくるのよ?」
「……俺に言うな。だいたい、俺に厄介事を持ってくるのはほとんどお前とカインだろ」
汗を流し終えたフィーナは頭を拭きながら居間に戻ってくると眠っているドラゴンを挟んで、ノエルとカルディナがお互いを牽制している。
その姿にフィーナはジークへと視線を向けて言うとジークは結局、2人に言い聞かせた事が無駄になっている事に大きく肩を落とした。
「カルディナ様が馴染んでくれているんですから、これで良いのではないでしょうか?」
「そう思いたいですね」
カルディナがドラゴンの相手をしている姿を見て、ノエルは料理の並べるのを投げ出してしまってしまい、ミレットは1人で料理を並べながらも良い方向に進んでいると笑う。
ジークは振り回されている事に疲れているようでため息を吐くが、ミレットの言いたい事も理解できているのか直ぐに表情を和らげた。
「だけどさ。何と言うか……」
「……言いたい事はわかる。俺もノエルがあそこまでドラゴンが好きだと思わなかった。カインの研究室で本職のフィリム先生と対等にやりあってるんだぞ」
「でも、卵がドラゴンの卵とはわからなかったんですね」
フィーナはノエルとカルディナを見ながら、ノエルがあそこまで前のめりにドラゴンの事を見ている事が信じられないようでため息を吐くとジークは研究室でフィリムとやりあっていたノエルの姿を思い出したようで眉間にしわを寄せる。
ミレットはどこか抜けているのがノエルらしいと思ったようでくすりと笑うとジークとフィーナも同様の事を思ったのか釣られるように笑う。
「とりあえず、寝てる子を起こさなければ今は良い。俺は忙しい」
「ねえ。ジーク、この資料、ノエルに丸投げすれば良いんじゃないの? 今のノエルなら、少しの時間で覚えそうな気がするわ」
「それもそうだな」
ノエルとカルディナの殺気だった間にいてもふてぶてしく眠っており、ジークはドラゴンが起きないならそれで良いと資料へと視線を戻す。
その姿にフィーナはノエルに丸投げしてみればと提案し、ジークは既に飽きてきたようでその言葉に頷く。
「ダメですよ。奥さんだけに子育てを任せると育児ノイローゼになるかも知れませんから、初めての子育ては危ないと聞きますし」
「……それはちょっと違いませんか?」
「違いません。むしろ、ノエルはすでに頭に入っている可能性があるのでお父さんのジークがしっかりとしないといけません」
しかし、その考えをミレットが許すわけはなく、ジークに資料で勉強するようにと資料を指差す。
ジークはミレットに逆らう事が出来ないようで資料へと視線を戻すと1度、逃げ道を見つけてしまったため、集中できないのか頭をかいた。
「ジーク、ドラゴンが起きたみたいよ」
「そうか? ……フィーナ、なぜだろう。イヤな予感がするんだ」
その時、ノエルとカルディナの間で眠っていたドラゴンが目を覚ましたようで寝ぼけ眼でジークを探しているのかキョロキョロと辺りを見回している。
ノエルとカルディナはその姿が余程、ツボだったのか表情は緩み切っており、フィーナは苦笑いを浮かべた。
ジークは資料を読むので手一杯のため、視線を動かす事はないが彼のあまり役に立たない危険察知能力に何かが引っかかったようで眉間にしわを寄せる。
「クー」
「ごふっ!?」
ドラゴンは目を覚ました時に親だと思っているジークがそばにいなかったため、さびしくなったのかジークを見つけるなり、猛スピードでジークに突撃し、ドラゴンの小さな身体はジークのみぞおちに一直線で吸い込まれて行く。
ジークは資料に視線を向けていたジークは受け止めきれるわけもなく、彼の表情は大きく歪む。
「ジーク、あんたの悪い予感って本当に良く当たるわね。と言うか避けられないにしても察知したなら受け止めなさいよ」
「む、無茶を言うな」
苦しむジークの姿にフィーナは呆れたようなため息を吐くが、ジークは息ができないのかかすれた声で答える。
「クー?」
「何でもない。ただ、もう少しスピードを落としてくれ。身体がもたないから」
首を傾げ、ジークの顔を覗き込むドラゴンの様子にジークは苦笑いを浮かべながら、頭を撫でるとドラゴンは気持ち良いのか鼻を鳴らす。
「……あれだな。こうやってみると情が湧くな」
「あんたまで骨抜きになってどうするのよ?」
「ですね。ノエルとカルディナ様、そして、セスさんも甘やかすでしょうから、ジークがしっかりしないとダメですよ」
ジークは触れて見て、ノエル達の気持ちがわかったようで苦笑いを浮かべるとフィーナは眉間にしわを寄せた。
ミレットはジークにしっかりするようにと釘を刺す。
「気を付けます」
「ジークさん、私にも抱かせてください!!」
「ノエル、落ち着け」
ミレットに言われ、苦笑いを浮かべるジーク。
彼の隣にノエルはいつの間に移動するとジークの手の中に収まっているドラゴンへと手を伸ばす。
ジークは彼女の様子に大きくため息を吐くとノエルの手を止める。
「どうしてですか? さっきはカルディナ様には抱かせていたんですから、わたしだって良いじゃないですか?」
「それはこの子が私になついているからですわ」
「……ミレットさん、抱いてみます?」
ノエルは先ほどまでカルディナがドラゴンを抱いていたのが納得できないようで頬を膨らませており、カルディナはドラゴンを抱きしめるのは自分だと言ってノエルより優位に立ちたいようである。
2人の様子にジークは眉間にしわを寄せると2人に任せるわけにはいかないと思ったようで夕飯を並べ終えたミレットに聞く。
「そうですね。今の状況で2人に任せるわけにはいきませんね」
「クー?」
「ちょっと、忙しいから、ミレットさんのところにいてくれ」
ミレットはジークの言い分に頷くと両手を広げて、ドラゴンにを招く。
ドラゴンはミレットの様子に意味がわかっていないようで首を傾げてジークの顔を覗き込む。
ジークは苦笑いを浮かべるとミレットを指差し、ドラゴンはジークの言いたい事を理解したのかパタパタと羽根を動かし、ミレットの元に飛ぶと彼女の膝の上に降りる。
「無欲の勝利ね」
「そうだな……と言うか、カインとセスさん、帰ってこないな。こいつの事もだけど、話す事があるんだけど」
ミレットの膝の上にいるドラゴンの姿をノエルとカルディナは呆然とした表情で見ており、2人の様子にフィーナは呆れたようなため息を吐く。
ジークは苦笑いを浮かべて彼女の言葉に頷くとフィリムとともにワームに行ったカインとセスの事が心配になったようで首をひねる。




