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勇者の息子と魔王の娘?  作者: まあ
カインの罠
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第479話

「フィリム先生?」


「お久しぶりです」


カインとセスは仕事を終えて屋敷に戻ると居間に珍客(フィリム)がいる事に気づく。

セスは予想していなかったフィリムの姿を見て慌ててカインの後ろに隠れ、カインはセスの様子に苦笑いを浮かべながらフィリムへと頭を下げた。


「それで今日はどのようなご用件でフォルムまで?」


「大したことではない。転移魔法でワームに送ってくれ」


「ワーム? ワームならジークが……どう言う事ですか?」


多忙なフィリムがフォルムに足を運んだ理由を尋ねるカイン。

フィリムは簡単に答えるが、カインはジークがフィリムを連れてきたと思ったため、合点が行かなかったようで首を傾げた時、彼の視界には小さなドラゴンを頭にのせ、げんなりとした様子のジークが映った。

ジーク頭の子ドラゴンはすやすやと眠っており、ノエルとカルディナはジークの両隣りを陣取り、彼の頭の上のドラゴンを狙っている。


「トリスの息子はあの状況でな。今はワームやルッケルに動かすのは無理だ」


「確かに小さいとは言え、街中にドラゴンが現れては騒ぎになる可能性がありますしね」


子供とは言え、ドラゴンを都市へと連れて行く事は騒ぎの原因になる事は目に見えており、フィリムはジークに送らせる事は諦めたとため息を吐いた。

フィリムの言葉にカインは直ぐに状況を理解したようで苦笑いを浮かべる。


「あの卵はドラゴンの卵だったと言う事でしょうか? まさか、子供のドラゴンがこんなに愛くるしいとは」


「セス、うずうずしない。落ち着く」


「ふむ。話では聞いたが、どうやら上手く行っているようだな」


カインとフィリムの話より、セスに取ってはジークの頭の上で眠るドラゴンへと興味が向けられており、彼女はそわそわしながらジークに近づこうとしている。

カインは彼女の様子に気がつくと手を伸ばしてセスの首根っこをつかみ、彼女を抑えつけると大きく肩を落とした。

2人の様子にフィリムは少しだけ表情を緩ませるとセスは予想していなかったフィリムの言葉に驚きが隠せないようで目を白黒させている。


「何だ?」


「あれです。セスは先生の口から人間じみた発言が出てきた事に驚いているだけです」


「カ、カイン、何を言っているのですか!? 私はそこまで思ってません!!」


セスの表情に怪訝そうな表情をするフィリム。

カインはセスの表情の意味をフィリムに教え、セスは全力で否定するがカインの言葉が大きく外れていないのは誰の目から見ても明らかである。


「まぁ、構わん。それより、ワームに連れて行け。その後はルッケルだ。まったく、お前がいなくなってからフィールドワークに出にくくて面倒だ」


「構いませんけど、これを機に転移魔法を覚えて見てはどうですか?」


「ふむ……確かにルッケルやワームでトリスの息子を捕まえるより、お前に用件があった時は効率が良いな」


フィリムは手元に貴重な転移魔法の使い手がいない事を不憫に思っているようであり、カインは苦笑いを浮かべると彼に転移魔法を覚える事を提案する。

カインの提案にフィリムは利点を見出したようであり、小さく頷いた。


「それじゃあ、カルディナ様も来ていますし、初めてしまいましょう。先生とカルディナ様なら失敗する事はないと思いますが万が一と言う事もありますので庭に移動しましょう。カルディナ様」


「お兄様、お待ちください。私にはこの子を抱きしめると言う使命があるのです!!」


「ラースの娘、早くしろ。お前達と違い。俺はヒマではない」


カインはフィリムの物言いに苦笑いを浮かべると二度手間にはなりたくないため、カルディナを呼ぶ。

カルディナに取っての最重要項目は今はカインよりドラゴンであり、拳を握り締めて主張し始めた。

フィリムは立ち上がるとカルディナの首根っこをつかみ、彼女を力づくで引きずって中庭へと歩き出し、居間にはカルディナの悲痛の叫びが響く。


「セスも行くよ」


「いえ、私は少しやる事はありますので、転移魔法の件はカインに任せますわ」


「はいはい。おかしな事を言ってないで行くよ。ノエルとカルディナ様の様子を見てもまだ時間はかかりそうだし、無駄な事はしない」


2人の様子に苦笑いを浮かべたカインはセスにも声をかけるが、セスはジークの隣が開いた事でドラゴンを狙っているのか目は鋭くなっている。

カインは彼女の様子に小さくため息を吐くとセスを引きずって中庭に向かって歩き出す。


「ジークさん、あの、そろそろ、大丈夫だと思うんですけど」


「……ノエル、寝てるんだから、止めておけ起こしたらかわいそうだろ」


ライバルがいなくなった事でノエルはドラゴンに手を伸ばそうとするが、ジークは肩を落として彼女の考えを否定する。


「で、ですけど」


「変にかまって嫌われてもイヤだろ」


「それは……わたし、夕飯の準備をしてきますね」


ノエルはジークの言葉に納得できないようで恨めしそうな表情をするが、ジークはジークで引く事は無く、フィリムから借りたドラゴンの育て方に関する資料をぺらぺらとめくっている。

ノエルは嫌われてしまうかも知れないと言う言葉にぐっと我慢したようでなごり惜しそうにドラゴンへと視線を向けた後、キッチンに向かって歩き出す。


「しかし、お前の本当の親はどこに行ったんだ? 最強の種族と言われてるんだ。巨大蛇にやられたって事はないだろ?」


1人になったジークは頭の上のドラゴンに聞く。

しかし、ドラゴンはすやすやと寝息を立てており、ジークの言葉に何かを返すことはない。


「……まぁ、起きてたって子供だし、言葉はまだ理解できないか? 本当の親が迎えにきて騒ぎになっても困るけど、とりあえず、状況を理解できるくらいになるまでは育てて、自分から巣立ってくれたら良いんだけど」


ドラゴンは人語を理解する事が出来るほど知能を持っているとは聞いた事があったジークだが子供では流石に無理だとは思い苦笑いを浮かべる。

そんな彼の表情には両親に捨てられた自分とこのドラゴンを重ねてしまっているのかわずかにさびしさが映っている。


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