第478話
「……何で、隠れるんだ?」
「気にしないでください。それより、ひびが大きくなってますわよ」
「もうすぐ、産まれるのか? ノエルとフィリム先生はあんな感じだしどうするかな?」
ジークはカルディナの行動に文句を言いたげだがカルディナは卵を指差し、たまごのひびはかなり大きくなっている。
ジークはもう1度、ノエルとフィリムに声をかけようとするが2人はさらにヒートアップしており、どうするべきかと首をひねる。
「声をかけても怒られるし、ふ化を見れなくても怒られそうな気がするんだよな」
「そうですわね。しかし、声をかけても収まりそうにありませんし、結局、怒られるなら、1度で良いのではないでしょうか?」
どちらにせよ理不尽に怒られる結果になる事が目に見えており、頭をかくジークにカルディナはノエルとフィリムへと視線を向けるとため息を吐いた。
「そうだな」
「きましたわね」
同意者を得て、ジークは諦めたようで卵へと視線を戻す。
視線の先の卵のからには1本の大きなひびが入り、その横から細かなひびがいくつも入って行く。
その様子にジークとカルディナは息を飲み見守る。
「クー?」
その時、ひびが入った箇所からからが浮かび、赤い鱗の小さなドラゴンが顔を覗かせる。
生まれたばかりのドラゴンは親ドラゴンを探そうとしているのか開き切っていない目で周囲を見回し始めるが、親ドラゴンの姿はない。
「か、可愛いですわ」
「まぁ、卵のサイズから見てもこのサイズだよな。な、何だよ?」
生まれたばかりのドラゴンの姿はカルディナにはとても愛らしく思えたようで、彼女は勢いよくソファーの裏から戻ってくると目を輝かせてドラゴンを覗き込む。
ジークはドラゴンのサイズを見て、少しほっとしたようで胸をなで下ろすと目が開いたばかりのドラゴンと目が合う。
「クー?」
「あ!? ……なぜ、あなたのところに」
ドラゴンは頭を振り、自分の身体についている卵のからを落とすとパタパタと小さな羽根を動かし、ジークの手の中に納まる。
その様子にカルディナは小さく驚きの声をあげると敵意のこもった視線をジークへと向けた。
「睨まれる意味がわからない。それより、こいつ、どうしたんだ?」
「そんな事を言っているなら、私に渡しなさい」
「あぁ……離れない」
カルディナの視線にジークはため息を吐くとドラゴンの首をつかみ、カルディナに渡そうとするが、ドラゴンは身体を動かし、ジークの手を解くと再度、ジークの腕の中に納まる。
その様子にジークはどうして良いのかわからずに眉間にしわを寄せた。
「……」
「睨むな。俺の意思じゃないんだから、ノエル、フィリム先生、ちょっとこれを見てくれ」
「ジークさん、何度も同じ事を言わせないでくださ……ど、どう言う事ですか!? ど、どうして、生まれちゃってるんですか!?」
カルディナはジークが自分に嫌がらせをしていると思っているようでその視線はさらに敵意が色濃くなっており、ジークは大きく肩を落とすとノエルとフィリムに助けを求める。
ノエルはジークの相手をしているヒマはないと言いかけた時、ジークの腕に小さなドラゴンがいる事に気づき、驚きの声をあげるとジークの隣に駆け寄り、ドラゴンを覗き込む。
「ほう。生まれたか?」
「さっき、2人が熱くなってるうちに」
「どうして、教えてくれなかったんですか!!」
フィリムはドラゴンを見て小さく頷くとジークは苦笑いを浮かべながら答えるが、ノエルはふ化に立ち会えなかったのが悔しいのか頬を膨らませている。
「教えたよな?」
「教えましたわね」
「……」
予想通りのノエルの反応にジークはため息を吐き、カルディナは呆れた様子で言う。
2人から教えたと言われ、ノエルは2人が嘘を吐いていると思ったのか交互にジークとカルディナの顔を見るが2人の様子から嘘は吐いていない事はわかったようで申し訳なさそうに身体を小さく縮める。
「それより、ジーク、早く、その子を私に渡しなさい!!」
「待ってください。カルディナ様、ずるいです。わたしもその子を抱きたいです」
「いや、渡しなさいと言われても、離れないんだけど」
カルディナはノエルより、ドラゴンの方が大事であり、ジークを威嚇するように言い、彼に詰め寄るとノエルもドラゴンを抱きしめたいと主張を始め出す。
しかし、ドラゴンがジークの腕の中から動く様子もなく、ジークはフィリムに助けを求めるような視線を向ける。
「刷り込みのようなものだろう」
「刷り込み?」
「生まれたばかりのものが、初めてみたものを親だと思い込む事だ」
「……どうするんだよ?」
フィリムが言うにはドラゴンはジークを親だと思っているようであり、ジークはどうして良いのかわからずに大きく肩を落とす。
「しばらくすれば、飽きるだろう。それまではそこに居させてやれば良い」
「飽きるだろうって言われてもこのままじゃ、何もできないんだけど、何より、俺は悪くないのに責められてる気しかしない」
フィリムは生まれたばかりのドラゴンにあまり興味がないのかジークに丸投げしており、ジークはノエルとカルディナからの視線に居心地が悪いようであり、ポリポリと頭をかく。
「ジークさんを親だと思っているなら、わたしの事も親だと思ってくれても良いと思うんです!!」
「……ノエル、少し落ち着け。と言うか、フィリム先生、こいつが俺を親だと思ってるなら、俺が育てないといけないって事ですか?」
「安心しろ。この種類のドラゴンは人の手で育てられた実績がある。少し待っていろ。今からドラゴンの子育てに関したレポートを持って来てやるから」
ノエルはあまりの子ドラゴンの愛くるしさにまたもおかしな暴走を始め出し、ジークは彼女をいさめると親だと思われているため、ドラゴンを野に放すわけにもいかないと思ったようで育て方もわからないため、フィリムに何かわからないかと聞く。
フィリムはジークの問いの答えを肯定すると何もわからない素人のジークにドラゴンを育てさせるのは不安に思ったのか資料を取りに行くと研究室を出て行く。




