第474話
「……それで、しょ、ジーク=フィリス、何の用ですか?」
「カインから、先日の件で話を預かったんですよ。カルディナ様」
ノエルがジークをなだめて、カルディナに自分とジークの名前を改めて教えるとカルディナは忌々しそうにジークの名を呼ぶ。
ジークはカルディナの態度にこめかみに青筋を浮かべながらいやみったらしく彼女の名前を呼び、その態度に再度、2人の視線の間には火花が散る。
「ノエル、この2人はどうにかならないのか?」
「む、難しいかも知れませんね。そ、それに今日はフィーナさんがいないからまだ、安全のはずです」
2人の様子にシュミットは無駄なストレスがたまってきたようで胃の辺りをさすり、ノエルは苦笑いを浮かべるもジーク以上にカルディナとそりが合わないフィーナがいない事にほっとしたのか胸をなで下ろす。
「……そうか。まぁ、それに関してはカルディナの言い分もわかるな」
「ほ、本当に申し訳ありません」
フィーナとカルディナが険悪だと聞き、シュミットは自分もフィーナには良い感情を持っていないため眉間にしわを寄せた。
シュミットの様子にノエルは今までの彼女の非礼を詫びたいと思ったのか深々と頭を下げる。
「いや、ジークにも言ったが私の以前の行動にも考え直す事が多かったからな。その件に関してはこれ以上は何も言わない。それより、ジーク、私とカルディナを呼び出した用件とはなんだ?」
「ジークさん、わたし達はフィリム先生にも会わないといけないんですから、急いでください」
「フィリム教授? ……あなた達は被虐的な趣味でもあるのですか?」
ノエルの様子にシュミットは苦笑いを浮かべるとジークに本題を話すように言う。
その言葉に続くようにノエルはジークに声をかけるとフィリムの名にカルディナが固まる。
「……セスさんもそうだったけど、カインの先生は何をしたんだ?」
「き、聞かない方が良いんじゃないですかね?」
「そうだな」
カルディナの反応にジークは眉間にしわを寄せ、ノエルも1度しか面識がないフィリムの顔を思い浮かべながら首を横に振った。
「まぁ、そっちの話は2人には関係ないから、一先ず、置いておく事にして、シュミット様には説明をし直さないといけないんだけど、カルディナ様が転移魔法を覚えたいと言い始めたんだ」
「……なるほど、状況は理解した。カルディナに緊急時の王都、フィルム間の連絡係を任せたいと言う事だな」
「カインやセスさんは悩んでたけど、おっさんからも頼まれたしな」
話しの顛末を話し始めようとするジークだが、シュミットは直ぐに状況を理解してくれたようで大きく頷く。
ジーク自身はカルディナに任せるのは心配だが、ラースの後押しもあった事を話す。
「……」
「カ、カルディナ様、今は落ち着きましょう。カルディナ様の希望通りになっているわけですし」
「……俺が言うのもなんだけど、何で、この父娘はこんなに仲が悪いんだ?」
カルディナはラースの名前が出た事に忌々しそうに舌打ちをする。
彼女の様子にノエルは苦笑いを浮かべながらカルディナをなだめようとし、ジークは大きく肩を落とす。
「王都からフォルムに転移魔法で飛べる人間がいるのはこちらとしては望ましい事だ。しかし、本当に大丈夫なのか?」
「それに関しては自信はないけど、一応は魔法の才能としてはカインの保証があるからな。性格は問題だらけだけど、そこら辺の才能はあるからな」
「まったく」
王族であるシュミット相手でも我が道を行くカルディナの姿にシュミットは彼女が大任を果たせるのか心配なようで眉間にしわを寄せる。
その言葉にジークは頷くもカルディナではなく、カインを信じると笑う。
シュミットは口ではカインに文句を言いつつも、ジークがカインを信頼している事は目に見えたようで釣られるように笑顔を見せる。
「それで、カルディナ様にカインが転移魔法を教えた事がバレたら厄介だから、2人にだけ話をしてるんだ」
「確かにお2人に知られると面倒な事になるな」
「言いたい事は解りますわ。しかし、ライオ様は単身で王都を空ける事などありませんわ」
ジークはシュミットなら自分達の考えを理解してくれると思ったようであり、エルトとライオには秘密にしてくれと言う。
シュミットはジークの言いたい事を理解し、眉間にしわを寄せて頷くがカルディナは転移魔法でおかしな事をするのはエルトだけだとジークの言葉を鼻で笑った。
「……いや、もしかしたら、エルト王子より、厄介だ」
「そ、そうですね。ライオ様が自重してくれていたら、わたし達とラース様のおかしな衝突はなかったでしょうし、もしかしたら、ジークさんとカルディナさんももう少し有効的だったかも知れませんし」
「確かにそうかも知れないな。ある種、おっさんの娘って事で嫌悪感しかなかったからな」
しかし、ルッケルでライオから直接被害を受けているジークとノエルの眉間にはしわがより、ライオが1人でルッケルを動き回ら無ければ人間関係は変わっていたのではないかと言う。
「……まぁ、もしもの話をしていても始まらないな。とりあえず、今回の件は承諾して貰えるか? 両王子が王都を空けるような事は避けたいから2人には秘密と言う事で、カルディナ様も肝に銘じてくれ。それができない場合はカインは別の人間を立てるって言ってたからな」
「わかりましたわ」
ジークはカルディナの口からライオに知られないように頭を回す。
カルディナはカインとセスと顔を合わせる機会を減らすわけにはいかないと大きく頷く。
「わかった。ただ、父上には報告はしておくぞ」
「あぁ、何かあったら困るから、そっちはお願いしたい」
「それでは話はこれで終わりだな。私はこれで失礼する。エルト様とライオ様が心配だからな」
「何だ? 誰がいるかと思えば、トリスの息子か? ちょうど良い。ワームまで連れて行け」
シュミットは少し考え、ラングの耳には入れておく必要があると言い、ジークも必要だと思ったようでシュミットに頭を下げる。
ジークの返事を聞き、シュミットは彼自身多くの仕事を抱えているため。直ぐに王城に戻ると立ち上がり、ドアに向かって歩き出す。
その時、研究室のドアが開き、フィリムが研究室に入ってくるなり、ジークを見てワームまで送るように言う。