第468話
「遅くなって申し訳ありません」
「シュミット、待ってたよ。よく来てくれた」
ライオがカルディナに捕まってからしばらくして、シュミットが研究室のドアを開ける。
すでにライオの体力は限界が来ているようで力ない言葉でシュミットを迎え入れた。
「……何かありましたか?」
「いや、何でもない。座ってくれるかい」
ライオの疲労度にシュミットは怪訝そうな表情をするがライオは早く座るように促す。
シュミットは状況を理解できないため、ジークへと視線を向けて状況説明を求めるがジークは苦笑いしかできず、首を横に振る。
「それじゃあ、シュミットもきたし、時間もないから始めようか?」
「お願いします」
シュミットが席に座ると未だにカインの素晴らしさを語りつくそうとしているため、興奮しており、ライオは彼女から視線を逸らし話し合いを始めようと言う。
ノエルはライオとカルディナの様子に苦笑いを浮かべながら頭を下げる。
「それで、俺の薬にある魔力って何かわかったのか?」
「それなんだけどね。ジークの薬の魔力なんだけど……」
ジークは自分の調合薬に宿る魔力と言うのが気になるため、本題から聞こうとするとライオは表情を引き締めた。
その様子に大発見があったと思ったようでジーク、ノエル、シュミットの3人は息を飲む。
「いろいろな実験を重ねて見たんだけど、どの薬にも同じ魔力しか宿ってなさそうなんだよね」
「……おい」
「あ、あの、何かわかったから、この場を設けたんじゃないんですか?」
その緊張感を破ったのはライオのため息混じりの声であり、もったいぶったわりには何もわかっていない事実にジークは眉間にしわを寄せた。
ノエルはライオの言葉の意味がわからずにこの場所に集まった理由を聞き返すとライオは苦笑いを浮かべる。
「いや、ジークの魔力なんだけどね。調合薬を補助するよな魔力なんだと思うんだよね。魔力自体の波長と言われるものは特殊なものなんだけど、強さとかだと下の下」
「……取りあえず、バカにされてるのか?」
「よく見積もっても半々くらいだろうな」
ライオは調合薬に宿っている魔力の分析結果、強い魔力は関知できなかったと首を横に振った。
ライオの様子からジークはバカにされている事に気が付いたようで眉間のしわは深くなり、シュミットはフォローできないようで眉間にしわを寄せる。
「あ、あの特殊な魔力らしいですし、もう少しお話を詳しく聞きませんか?」
「そうして欲しいね。このままだと、私がジークをバカにするためだけに呼びつけたみたいだし。カルディナ」
「はい」
ノエルはジークを落ち着かせようとライオの話の続きを聞こうと言い、ライオは頷くともう少し話を聞いてから判断して欲しいと言うとカルディナの名前を呼ぶ。
カルディナはライオの声に頷くが特異な魔力を持っているもの、魔法の才能は自分よりかなり下だと判断しており、ジークへと見下すような視線を向け、再び、ジークとカルディナの視線の間には火花が散り始める。
「……ジーク、カルディナ、話が進まないから、一先ずは休戦にしてくれないかな」
「そうです。落ち着いて下さい」
「ノエル、この2人はなぜ、ここまで相性が悪いんだ?」
2人の様子にライオは大きく肩を落として休戦を提示し、ノエルはジークの服を引っ張り、落ち着かせようとする。
シュミットはジークとカルディナの仲が悪い事は先日の件で知ってはいるが、ルッケルでの事を知らない事もあるのか大きく肩を落とす。
「仕方ありません。今日はライオ様のご指示に従いますわ」
「ライオ王子、おっさんの娘は追い出した方が話が進まないか?」
「この状況を見るとジークの意見に頷きたいんだけどね。いきなりノエルさんに協力して貰うのは難しそうだからね」
カルディナは頷きはするものの、相変わらず、ジークを見下しており、ジークは気分が悪いようで1つの提案をする。
しかし、ライオにもカルディナを呼んだ理由があるようで苦笑いを浮かべながら首を横に振った。
「協力ですか?」
「ノエルさんはまだしも、ジークやシュミットのような普段、魔法に触れていない人間には口で説明するより、実際、目で見て貰った方がわかりやすいと思ってね」
「魔法の知識が皆無なバカにでもわかるようにライオ様が理解しやすく説明してくれるのです。ありがたく思いなさい」
ノエルはライオから協力と言われた事にどうして良いのかわからずに首を傾げる。
彼女の様子にライオは苦笑いを浮かべたまま、わかりやすく説明するためにカルディナに協力して貰うと言うが、カルディナに取ってはジークより、優位に立つ事が出来ている事にご満悦のようにも見える。
「……説明だけでも俺は問題ないぞ」
「私も構いません。ジークも魔法は使えないようですがカイン=クロークやセス=コーラッド、レギアスやラースの報告からも頭の回転は悪くないので処理できると思います」
「そうだね。確かにジークもシュミットも理解力は高いしね。理解力で言えばノエルの方が心配だしね……まぁ、このままでも大丈夫かな?」
ジークのこめかみにはくっきりと青筋が浮かび上がっており、シュミットはカルディナの横柄な態度に彼女など必要ないとバッサリと切り捨てようとする。
ライオはジークとシュミットの意見ももっともだと思い始めたようでどうしたものかと言いたいのか、カルディナへと視線を向けると何かを見つけたのか苦笑いを浮かべた。
「遅くなってしまったね。話はどこまで進んでるんだい?」
「……公務があったんじゃないのか?」
「……」
その時、研究室の中にはエルトの声が響く。
ジークは慌てて声がした方向へと視線を向けると笑顔のエルトと少し困り顔のリュミナが立っており、ジークは大きく肩を落とし、カルディナは突然のエルトの登場に顔からは血の気が引き始める。
「エルト様、公務はどうしたのですか? リュミナ様もエルト様のわがままにすべて付き合わないでください」
「申し訳ありません。しかし、私もアンリ様の事が心配でしたので」
「そうだよ。それにこの件に関しては元々、私達で始めたんだ。私にも聞く理由がある。そうだろ。ライオ、ジーク」
シュミットは眉間にしわを寄せ、エルトとリュミナに苦言を呈するが、2人ともアンリの事を心配しているようで引く気はない言い切り、ジークとライオに賛同を求めた。
「確かにそうではあるんだけどな」
「それなら、早く終わらせて、兄上達には公務に戻って貰おうか?」
ジークとライオはエルトが登場した事でカルディナが静かになった事もあるため、始めるなら今だと判断したようでエルトの言葉に頷くがシュミットは納得がいかないようで眉間にしわを寄せたままである。