第467話
「お兄様……ちっ、なんですか。庶民ですか」
「……本当にお前は何なんだ?」
「学のない庶民が、ライオ様の研究室に入る事が許された事を光栄に思いなさい」
ジーク、ノエルがライオとの約束があったため、魔術学園を訪れると第2王位継承者であるライオの研究室と言う事で2人は警戒されているのか、職員らしき男性2人に案内されて学園内を歩く。
ライオの研究室の前に到着し、中のライオから許可を得、ジークとノエルが研究室に入るとカルディナが笑顔で出迎えるが、彼女はカインがくると勝手に思っていたようでジークの顔を見るなり舌打ちをする。
カルディナの態度にジークはため息を吐くがカルディナはジークを見下している事もあり、高圧的に言い、ジークのこめかみにはぴくぴくと青筋が浮かび出す。
「ジ、ジークさん、落ち着きましょう」
「ノエル、俺は落ち着いている」
「落ち着いている言う人間はだいたい、気が高ぶってるよね」
ジークとカルディナはお互いに睨みあっており、一触即発のようにも見え、ノエルは慌てて2人の間に割って入るとジークに落ち着くように言う。
ジークは落ち着いていると口では答えるが、こめかみの青筋はさらに深い物になっており、ライオはジークの様子に苦笑いを浮かべる。
「カルディナ、ジークとノエルは私と約束があってきて貰ったんだ。話の邪魔をしないでくれないかな?」
「……わかりました」
カルディナの様子にライオは話が進まないと思ったようで彼女に止めるように指示を出す。
ライオからの指示には逆らうわけにもいかないようでカルディナは頷くが、ジークの事が気に入らないため、威嚇するように睨みつけている。
「……」
「ジークさん、とりあえず、座りましょう。話はそれからです」
カルディナの視線にジークは睨み返しており、変わらない2人の様子にノエルはなるべく距離を取らせようと思ったようでジークの背中を押しながら研究室の奥に進む。
「ノエル、その球は何?」
「えーと、フィリム先生に見て貰おうと思って持ってきたんですけど、今は置いておいてください」
「まぁ、気にするな。それより、エルト王子は来ないのか? アンリ王女の病状に関係する事だぞ」
研究室の中央にあるテーブルを囲むように座るとライオはノエルが持って来ていた謎の卵に目が行ってしまったようで首を傾げる。
ノエルは苦笑いを浮かべると卵をテーブルの端に置く。
ジークは何の卵かわからない事もあり、ライオに話して彼の研究者魂に火が点き、話がそれても困るため、話を卵から話を逸らす。
「今日、兄上は外せない公務があるからね。もう少ししたら、シュミットがくると思うよ」
「そうか。と言うか、シュミット様、忙しすぎないか?」
「……なぜ、あのような者が」
ライオはシュミットがくる事を告げ、ジークは最近、シュミットと会う事が多い事もあり、彼の体調を心配する。
しかし、カルディナはシュミットの事をいつ裏切るかわからないと思っているようで舌打ちをしている。
「あ、あの、カルディナ様はもう少し、本音と建て前を使い分けた方が良いんじゃないんでしょうか? それにシュミット様は心を入れ替えたんですし」
「真面目に仕えているように見せて、いつ、裏切るかわかりませんわ。絶対に尻尾をつかんでやりますわ」
「言うだけ無駄だろ。それなら、シュミット様が来るまではどうするんだ?」
カルディナの様子にノエルは彼女を説得しようとするが、思い込みの激しいカルディナが意見を変える事は無く、シュミットが裏切ると決めつけている。
ジークはカルディナを説得する気もないため、ため息を吐くとシュミットが研究室を訪れるまでの時間をつぶす方法を聞く。
「どうしようか? とりあえず、ジークの転移の魔導機器でジオスでノエルが淹れたお茶を飲むとか?」
「王都に戻ってくる度にカインの屋敷の前だから却下だ。だいたい、シュミット様だって忙しいんだ。ここに来た時に誰もいないなんて事になってたまるか」
「そうか……」
ライオの予想より、ジークとノエルが早く訪れたようでどうするか考えておらず、王都以外を見たいようでジオスに行こうと言う。
ジークはライオの魔法の才能を警戒しており、自分が知らない間に彼が転移魔法を習得している可能性もあるため、絶対にライオを連れて転移するわけにはいかないと判断し、ライオの提案を断った。
ライオは却下されてしまった事に残念そうにため息を吐く。
「それなら……そう言えば、さっき、カルディナがお兄様って言ってたのは何?」
「何かよくわからないけど、カインの事をそう呼ぶらしい」
「ジーク、凄くおざなり感がするんだけど」
ライオは何か時間をつぶすために話を振ろうとするとジークとノエルが入室してきた時のカルディナの反応を思い出したようでジークに尋ねる。
ジーク自身もいまいち、カルディナがカインの兄と呼ぶ理由を理解しかねており、ため息を吐くとライオはジークの反応に蔑ろに扱われている気がしたようで眉間にしわを寄せた。
「いや、おざなりも何も俺自身、意味がわからない」
「あ、あの、カルディナ様はカインさんの事をお兄さんのように慕って行きたいと言う決意の表れのようなものだと思います」
「そうなんだ。納得……できないよね?」
ジークは自分のせいではないと首を横に振るとノエルは苦笑いを浮かべながら説明を行う。
ライオはノエルの頷きかけるが、やはり意味がわからなかったようで首を傾げる。
「ライオ様、なぜ、ご理解いただけないのですか? ライオ様はこのような庶民と違うはずです」
「い、いや、私としてはカルディナの考えの方が理解できないかな?」
「いいえ、そんな事はございません。ライオ様なら絶対にご理解いただけるはずです!!」
カルディナはライオなら自分の考えを理解してくれると勝手に思い込んでおり、ライオの反応が嘆かわしいと声を上げた。
ライオにも彼女の考えはどこか斜めの方向に進んでいるようで助けを求めるような視線をジークとノエルに向ける。
しかし、カルディナに巻き込まれたくない2人はライオから視線を逸らし、彼を見捨てた。




