第465話
「そう。先生には会えなかったんだ」
「残念ながらな。でも、数日前に王都に帰ったって話だから、明日はライオ王子と約束もあるし、魔術学園で帰ってきていないか聞いてみるよ」
「あぁ、ライオ様と面識があるから、追い払われる事はないと思うけど、一応、紹介状を書いておこうか? 先生の研究室で追い払われてもなんだし」
ジーク達3人はフォルムに戻ると流石に遅い時間になってしまったため、既に夕食は終わっており、レインはテッドを家まで送り届けに行ってるようで不在である。
温め直して貰った夕食を頬張りながら、ジークはフィリムに会えなかった事を報告するとカインは苦笑いを浮かべつつも、ジークが無事にフィリムに会えるようにしてくれると言う。
「そうしてくれ。カインやセスさんの話を聞いてると俺達が行っても追い返されそうな気もするし、変なところで時間は取られたくない」
「ですね」
ジークは少し考えると素直にカインに頼むと言い、ノエルは大きく頷いた。
「後は問題は……明日、おっさんの娘もいるだろうな」
「ライオ様に頼んでいた調べ物を手伝ってるって話だし、いるわね。きっと」
ジークはカルディナにあまり関わり合いたくないようでため息を漏らすとフィーナは明日は王都についてくる気はないのか楽しそうに笑う。
「……どうして、おっさんの娘と関わるんじゃないかと思うとこんなに気が重くなるんだろうな?」
「そ、そんな事ないですよ。そ、それにジークさんはカルディナ様の事も頼まれてたじゃないですか?」
「……いや、俺の中ではあれはなかった事になっている」
カルディナの名前が出るとジークのテンションは一気に落ちて行き、ノエルはラースに頼まれた事もあるため、ジークを説得しようと声をかける。
しかし、ジークの中ではそんな約束をした覚えはなくなっているようであり、ノエルから視線を逸らす。
「ダ、ダメですよ。代りにお願いごとだってしたんですから」
「いや、ルッケルとワームの街道整備に必要な事だから、あれは必要な事だったんだ」
「ノエル、ジークはそのままで良いから、何があったか説明して」
それでも諦めずにジークを説得しようとするノエルだが、ジークは彼女から視線を逸らしたままであり、呆れ顔のカインがノエルに説明を求める。
「で、でも」
「……ジーク」
ノエルはジークを説得しなければ話はできないと思っているようでうつむいてしまい、彼女の様子にセスはジークを睨みつける。
セスの視線にジークは若干、居心地が悪くなったのか苦笑いを浮かべた後、夕食を頬張った。
「ノエル、ジークはノエルをからかって遊んでいるだけですから」
「か、からかってたんですか!?」
「まぁ、そうとも言うな」
ジークとノエルのやり取りを眺めていたミレットがノエルに真実を教え、ノエルは驚きの声をあげる。
ノエルの声にジークは苦笑いを浮かべ、ノエルは面白くないのか頬を膨らませた。
「……はい。飛び付かない」
「な、なぜ、止めるのですか!!」
「あまり、見てて楽しいものじゃないからね」
「……」
ノエルが頬を膨らませる様子はセスにはツボであり、直ぐにノエルに飛びつこうとするが彼女の首根っこをカインが押さえ付ける。
カインに止められ納得がいかないセスは声を張り上げて、ノエルに抱きつかせろとまくしたてるがカインは同性とは言え、セスがノエルに抱きつくのは面白くないと言い、予想していなかったカインの嫉妬混じりの言葉にセスの顔は一気に真っ赤に染まって行く。
「ジークもやるなら、これくらいやらないとダメですね」
「いや、ちょっと、あれは恥ずかしい」
カインとセスの姿にミレットはただノエルをからかって終わったジークに軽いお説教をするが、ジークは気まずそうに頭をかく。
「それで、ジーク、ノエル、ラース様からカルディナ様に付いて何を頼まれたんだい?」
「いや、できれば、おっさんの娘の意思を尊重して欲しいって言われただけだ。カインとセスさんの事を認める事ができた事で1つ成長できたんじゃないかって事でやりたいと思った事をやらせてやってくれって」
「そう……ラース様がね」
カインも先ほどの自分の行動は少し気恥ずかしかったようで苦笑いを浮かべるとジークに話を聞く。
ジークは頭をかきながらラースの頼み事を話し、カインは今までのラースからは考えられない言葉に少しだけ考える事があるようで小さくため息を吐いた。
「実際、どうするつもりだ? 王都に転移魔法が使える人間がいるのは重要だけど、下手をしたら……ライオ王子が転移魔法でうろうろするぞ」
「そこなんだよね。カルディナ様に転移魔法を教えた事がライオ様にばれるのが1番厄介なんだよ。下手をしたら転移魔法を覚えた事でエルト様より厄介になりそうだからね」
「ですけど、転移魔法って1度、行った場所にマーキングしないと使えないんですよね? それなら問題はないんじゃないでしょうか?」
ジークとカインの心配事はカルディナより、ライオに転移魔法が伝わる事であり、2人は眉間にしわを寄せている。
ノエルは2人の心配している事も理解できるようだが、転移魔法の特性を考えれば心配する必要はないのではないかと首を傾げた。
「それもそうなんだけどね。万が一って事もあるしね」
「おっさんの娘、エルト王子が苦手だしな」
カインも転移魔法の特性は理解しているため苦笑いを浮かべている。
カルディナは魔術学園でエルトの悪口を言っている事を聞かれた時から、弱みを握られてしまっていると思っているようであり、エルトの前ではどこか委縮しており、ジークはカルディナがエルトに良いように使われる可能性が高いと言う。
「そうなんですか?」
「はい。以前に魔術学園の私の研究室でエルト様の悪口を話してまして」
「……その時に気配を消して背後に現れたんだよな」
首を傾げるノエルに、カルディナがエルトを苦手になった場所に立ち会ったジークとセスは苦笑いを浮かべた。
「まぁ、ラース様がカルディナ様の成長を望んでいるなら、彼女の意思に任せて見ようか?」
「それで良いの?」
「主君の言葉を肯定だけする家臣は必要ない。それを跳ね返すだけの成長を願ってね。そう言う事だから、ジーク、ノエル、明日、カルディナ様を連れて帰ってきてね。俺は仕事が残ってるから部屋に行くよ」
カインはカルディナの成長がエルトとライオの成長にもつながると判断したようでジークとノエルにカルディナの事を頼むと私室に行くと言い、居間から出て行く。




