第463話
「確かに受け取った」
アズからルッケル側の書面を受け取り、ワームにあるラースの屋敷の応接室でラースへと書面を渡す。
ラースは書面を受け取り、いつものように書面を確認せずに応接室にある机の引出しに書面をしまい込み、1つ咳をする。
「どうかしたか?」
「いや、難しい顔をしているような気がしてな」
「何? おっさん、気持ち悪いわよ」
「フィ、フィーナさん、どうして、そんな失礼な事を言うんですか!? ラ、ラースさん、申し訳ありません」
ラースの咳ばらいに首を傾げるジーク。ラースの目には今日の3人の様子がおかしいと思ったようであり、3人を気づかうような事を言う。
その姿を見て、フィーナは眉間にしわを寄せて率直な意見を述べ、ノエルは慌ててフィーナの代わりにラースに向かい頭を下げる。
「まぁ、気にする必要はない。小娘と小僧が失礼な事を言うのにはなれたからな」
「……俺をフィーナと一緒にしないでくれるか?」
頭を下げるノエルの様子にラースは気にする事はないと苦笑いを浮かべるとジークは納得ができないようで眉間にしわを寄せた。
「それで、何かあったのか?」
「……何かあったと言えばあった」
ラースはジークをフォローする事無く、3人に何かあったかと聞く。
ジークはラースの関係は軽口を叩ける距離が平常通りであるため、それ以上気にする事はなく、ラースの問いに何を話すべきか考えているのか眉間にしわを寄せたままである。
「あったと言えばあったか?」
「と言うか、いろいろ、ありすぎて何から話せば良いか? どれを話せば良いかわからない」
「とりあえず、おっさんに関係ありそうな話じゃないの? おっさん、ウチのクズとセスさんが付き合い始めたはおっさんの娘は見事に玉砕したわ」
ジークの言葉を繰り返すラースにジークはルッケルの事も相談したいが、自分の判断でして良いものか悩んでおり頭を乱暴にかく。
その隣からフィーナが特に気にする事無く、カルディナの近況について話すとラースの時が止まる。
「フィ、フィーナさん、もう少し言葉を選ぶべきかと」
「良いじゃない、事実だし。おっさんも気にしていたみたいだし、ここははっきりとさせておくべきでしょ。だいたい、おっさんの娘がクズと上手く行かない事はとっくにわかってたわけだし」
「確かにそうかも知れないけどな。どうするんだよ。おっさん、固まっちまったぞ。ルッケルの事を相談したかったのに」
固まってしまったラースの姿にノエルは慌ててフィーナに言うが、フィーナは気にする事は無い。
ジークは親バカな所があるラースがおかしな行動に出ないか心配になってきたようで眉間にしわを寄せて大きなため息を吐く。
「……そうか。あのキツネとセスがまとまったか」
「セスさんの両親も認めてくれたみたいだし、そのうち婚約になるかもな」
「それはめでたい事だ」
しばらくして、ラースは動きだすとカインの事を高評価していたため、素直に良かったとは言うが、カインに依存していたカルディナの事が心配のようでその表情には不安の色が見える。
「あ、あの、カルディナ様もカインさんとセスさんの事を祝福していましたし、問題はないと思います」
「ただ、ミレットさんのせいでおかしな方向に転がってるけどな」
「お、おかしな方向とはどう言う事だ?」
「ラ、ラース様、落ち着いて下さい」
ラースを落ち着かせようとするノエルだが、カルディナがカインとセスをお兄様とお姉様と呼び始めた事を思い出したようでその顔は引きつっており、ジークは大きく肩を落とした。
ラースはジークの口から出た聞き捨てならないセリフに彼の胸倉をつかみ、ノエルは慌ててラースの手を離そうとするが非力な彼女ではそれができるわけもない。
「落ち着きなさい!!」
「……フィーナ、助かったんだけど。それは少し乱暴だろ」
「ラ、ラース様、フィ、フィーナさん、やり過ぎです」
このままでは話が進まない事もあり、フィーナは思いっきり、ラースの頭を殴り、ラースは打ち所が悪かったのか、その動きを止める。
ジークは息ができなかった事もあり、大きく息を吸い込んだ後に気絶しているラースを見下ろし、ノエルは慌ててラースを起き上がらせようとするが彼女の力ではラースが動く事はない。
「落ち着いたか?」
「あぁ、問題ない」
ジークはラースをソファーに寄りかけさせる暴れても困るため、なぜか持っていた縄で彼を縛りつけるとノエルは治癒魔法で彼を癒す。
治癒魔法を受け、目を覚ましたラースは自分の状況をしばらく理解できなかったようだがジークの胸倉をつかんだ事は記憶に有ったようで追及する事はない。
「それでカルディナに何があったのだ?」
「……なぜか、カインとセスさんの事を兄と姉と慕い始めた」
ラースは縄で縛られたまま、カルディナの事を聞く。
ジークはミレットからカルディナの心情も聞かされている事もあるのか頭をかきながら答えると意味が良く理解できないラースは眉間にしわを寄せた。
「やっぱり、意味がわからないよな?」
「で、でしょうね。そ、それでカインさんとセスさんのお手伝いをしたいと言い始めまして、カインさんに転移魔法を教えていただけないかと頼んでいました」
ラースの反応に気持ちはわかると頷くジーク。ノエルは苦笑いを浮かべながらカルディナの決意を話す。
「カルディナがそんな事を? それであのキツネは何と答えたのだ?」
「保留だ。王都に転移魔法が使える人間がいるのは確かにカインとエルト王子の関係を考えれば欲しいところだけど、メリットもデメリットもあるだろうからな」
「そうか……」
ラースはカインの回答が気になったようであるがジークは保留になった事を告げた。
その言葉にラースは何か考える事があるようでうつむき、考えこみ始める。
「ジーク、仕事は終わったんだから帰らない? 時間も遅いし、結局はおっさんの娘が決める事でしょ」
「まぁ、そうなんだけどさ」
「小僧、キツネにカルディナの頼みを聞いて欲しいと伝えてくれないか?」
フィーナは長くなりそうなため、フォルムに帰ろうと言うが、ジークは放っておく事も出来ないと思ったようでラースへと視線を移す。
その時、ラースは1つの答えを出したようであり、カルディナの意思を尊重してくれるようにカインに頼んで欲しいと言う。




